━━アーンドメディア、オウンドメディアとしてのSNSについてはいかがでしょうか。
澤野:UGCにはメディアをはじめとする企業がユーザー視点に立ち返る際に非常の多くの学びがあります。企業アカウントの元「中の人」としては、自分たちがつくったコンテンツを拡散した瞬間に反応が返ってくることは、嬉しいこと。一方でたった一人で社名を背負い社会と向き合う緊張感も凄まじかった。
そこでの学びは、「デジタル空間ぐらい、人間性がむき出しになる場はない」ということでした。リアルなやりとりなら取り繕える内面が、ほんの少しの言葉でにじみ出てしまう。だからこそ、企業がSNSを使う際は、どんな人間を担当者にするのか、そのバックアップ体制も含めて考えるべきです。
いまだに「デジタルはよく分からないから、若い者にでも任せおけ」というケースが多いようですが、若い人は、確かにソーシャルメディアの扱いには長けているかも知れませんが、企業人としての感覚や、社会に対する感覚が未成熟である場合が多く、責任が重すぎます。
また担当者が「自分のおかげで、フォロワーが反応しているんだ」という“万能感”を感じてアカウントを私物化するケースも見られます。ブランドの毀損や株価の低下につながりかねないリスクも認識するべきです。企業アカウントは時に攻撃され、炎上することもあります。攻撃する人はアカウントを「人間」が運営しているとは思っていないケースが多い。まるで、壁にトマトをバンバン投げつけている感覚だったりするのです。それに対して「いや、私は人間ですよ」と示し、適切な対応を行うとあっさり沈静化する。企業アカウントというのは「コミュニケーションの粋」を尽くす場所ではないかと思います。だからこそ、組織として誰に運営を任せてどう支え、どんなコンテンツをどういう口調で伝えるべきか、もしもの場合も想定して対応する必要があります。
長澤:たしかに、顧客が接触する時間がこれほど多いメディアを「お前らやっとけ」扱いすることは、ものすごい企業リスクにつながりますよね。
SNSを運用する際に私が必要性を感じるのは「傾聴力」です。SNSというのは「反応すべきかどうか」という判断力がものすごく試されるメディアだと思うんです。そこに長けた人を育てなければいけないし、そういった人をどう守るかというのは、会社全体の問題のはずです。そしてSNS運用だけでなく、CRMを行う際にも、マーケティングで顧客を獲得する際にも変わらず必要とされるのは、「ユーザー心理をどれだけ見ているか」という洞察力なんですよね。
澤野:ソーシャルメディア担当者って、マーケティング担当であり、広報担当であり、カスタマーサービス担当でもある。投げかけられた色々な質問に的確に答えて、満足いただかないといけない。担当者の負担を会社としてケアしてあげて欲しいし、困った時には然るべき部門に相談できるように社内ネットワークを繋いであげることも大事だと思います。
長澤:マーケティングの打ち手が複雑になっている今は、テレビのスポット広告を大量に打てば、お客さまに届く時代ではなくなっています。だからこそ、ソーシャルメディアの担当者にはそれなりの覚悟が必要だと思います。今後はそこに対して、生成AIの力が活用できると思います。
澤野:確かに私は仕事でよく生成AIを活用していますが、例えばいくつものパターンの質疑応答を想定してもらって壁打ちに使ったりしています。手持ちの武器として上手く活用できれば、生成AIはソーシャルメディア担当の心強い味方になるかもしれません。