カンヌでゴールドほか マクドナルド「スマイルあげない」受賞までの軌跡

2024年に発表された海外広告アワードで複数部門での受賞を果たした、マクドナルドとanoがコラボしたミュージックビデオ「スマイルあげない」。日本マクドナルドのCMO ズナイデン房子さんとTBWA\HAKUHODOの原口亮太さんが受賞までの経緯を振り返る。(※本記事は月刊『ブレーン』2024年9月号「ユーモアか、AI か 世界のアワード&クリエイティブ2024」からの転載記事です)。

カンヌライオンズでは4年ぶりの受賞に

ano『スマイルあげない』ミュージックビデオ。

「クリエイターの皆さんと現地で受賞の瞬間を味わえたのは、何にも代えがたい喜びだった」とカンヌライオンズ2024の授賞式を振り返るのは、日本マクドナルドのCMOズナイデン房子さん。

今回「スマイルあげない」は、同賞のソーシャル&インフルエンサー部門においてゴールドを、オーディオ&ラジオ部門、エンターテインメントforミュージック部門でそれぞれブロンズを受賞。それ以前には、ニューヨークフェスティバル・アドバタイジングアワード2024でコラボレーション&パートナーシップ部門のグランド(部門最高賞)とゴールドを受賞していた。

国内ではマーケティングコミュニケーションにおいて確固たる存在感を打ち出している同社だが、意外にもカンヌライオンズで受賞するのは、2019年の「The Very Happy Meal Font.」(インダストリークラフト部門ブロンズ)ぶり。本施策の海外アワードへの応募については、国内での大きな反響や成果があったこと、マクドナルドのグローバルメンバーからの後押しがあったことなどから、ズナイデンさん側からTBWAのチームに提案をしたという。

話を受けたTBWA\HAKUHODOクリエイティブディレクター原口亮太さんは、「企画時は海外アワードへの応募は全く想定していませんでした(笑)。ズナイデンさんからお話をいただき、ストーリーを整理し始めました」と振り返る。

「スマイル0円」を逆手に

「スマイルあげない」は、一言でいえば、Z世代に向けて「マクドナルドであれば自分らしく働ける」ことを伝え、アルバイト(=クルー)雇用を増やすための企画だ。そもそもの企画の経緯を2人はこう話す。「全国のクルーの皆さんの約半数はZ世代なので、その方々の心に届くようなコミュニケーションが必要だと思っていました。でも機能面の訴求ではなく、マクドナルドにしかないような魅力を伝えたい……そんな相談を、まず原口さんたちにさせてもらいました」(ズナイデンさん)。

原口さんたちがテーマとして着目したのは、「スマイル0円」だった。「1980年代に大阪のとある店舗から生まれたという『スマイル0円』は日本のマクドナルド独自の文化で、そこには接客の哲学が息づいていますが、Z世代から見たら『強制的に笑わされるなんて自分たちとは合わない価値観』と思われてしまいかねないと思ったんです」(原口さん)。

そこで“笑わないアーティスト”であるanoとコラボし、「スマイル0円」を逆手に取り、「スマイルあげない」とメッセージを発する楽曲やミュージックビデオを制作。Z世代に対して、無理せずに自分らしく働くことを後押ししようと考えた。

音楽やミュージックビデオの制作においては、音楽プロデューサーにケンモチヒデフミさん、監督に渡邉直さんと、共に中毒性のある音楽や映像づくりに定評のある2人を迎えた。楽曲の公開に合わせてYouTubeやTikTokなどでもプロモーションを展開し、1度のみテレビでもオンエア。ミュージックビデオは公開後3カ月で約3600万回再生され、当初の目的であったクルーの応募者は前年比115%と大幅に増加した。

「受賞はチーム全体の成長にも繋がる」

カンヌライオンズのソーシャル&インフルエンサー部門、オーディオ&ラジオ部門への応募時に提出したケースボード。

応募時のケースムービーやケースボードの制作の際は、「『スマイル0円』が日本独自のカルチャーのため、まずそれを理解してもらうこと。それに対するZ世代の違和感をリアリティと共に伝えること。その上で『スマイルあげない』と打ち出す面白さが伝わるように構成を考えていった」と原口さん。

さらに「日本の人にはすぐに伝わる”あのちゃん”のキャラクターを、どこまで説明するかは悩みました。『Non-Smiling Artist』と称し、“笑えずにバイトをクビになった経験がある”などクリティカルなエピソードを挙げ、他をできるだけ削ぎ落していきました」と話す。海外でトップを走るTBWAのクリエイティブからも厳しい評価を受けながら準備を進めていった。

応募後、カンヌライオンズの期間中は、原口さんらTBWAのチームと一緒に、ズナイデンさんをはじめとするマクドナルドのマーケティングチームも渡仏。皆で贈賞式に参加し、見事受賞を勝ち取った。

「まるで“広告界のオリンピック”のように世界中のトップクリエイターや事例が集まる場で、この仕事が評価されたということは、チームとしてもすごく自信になりました。自分たちの企画が国境を越えて普遍的に認められるのだと実感を持つことで、チーム全体の成長にも繋がっていくと思うんです」(ズナイデンさん)。

(右から3人目)日本マクドナルドホールディングス 取締役 /日本マクドナルド 取締役 上席執行役員 CMO ズナイデン房子さん、(右から2人目)TBWA\HAKUHODOクリエイティブディレクター 原口亮太さん。

今後実施していくキャンペーンにおいても、可能性のあるものがあれば、積極的に海外アワードに応募をしていく考えだ。

「カンヌの最終日に聞いたセミナーで、御年90歳のジャック・セゲラさん(Havas CCO)が、『戦略もAIも打ち手はいろいろとあるけれど、やはり広告に携わる人間として一番大事なことは、魂を込めて向き合うこと』と熱弁されていて、心が震えました。私たちチームもそんな向き合い方をしていきたいと改めて襟を正す、そんな貴重な機会となりました」(ズナイデンさん)。

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  • 「ヒューマニティだけでは解決できない」
    SDGs 部門 審査の視点/北風祐子(電通)
  • カンヌライオンズ受賞作の裏側
    日本マクドナルド「スマイルあげない」(本記事)
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