※本記事は、月刊『宣伝会議』7月号の巻頭特集に掲載されています。
「パーチェスファネル」ご使用上の注意
「マーケティング・フレーム」とは、要するに「ヒトがモノを買うときの行動をモデル化する」ということをしているわけですが、そもそもヒトもモノもそれぞれが多様なので、その掛け算である「ヒトがモノを買うときの行動」は必然的に、極めて多様にならざるを得ません。
なるべくシンプルにしたいのはやまやまですが、元がこれだけ多様なので、できるだけ頑張ってはみました、というようなものにしかなり得ないのではないかと考えています。
まずは「パーチェスファネル」について、考えてみましょう。購買行動には「ブランド計画購買」「カテゴリー計画購買」「非計画購買」があります。非計画購買が多いカテゴリーでは店頭で初めて存在を知りそのまま買ってしまうので、そもそもパーチェスファネルが向きません。
例えば、ターゲットを20~40代男女の約4000万人とし、認知施策のテレビCMで広告認知率50%を取り、Web動画を200万人に見せて関心を取り、80万人にSNSを当てて検討してもらい、バナー・リスティングの刈り取り施策で40万人にコンバージョンさせるファネルを見ると、テレビCMを見た2000万人のうちの200万人がWeb動画を見るのだな、と思います。そう見えるように描いている図だからです。
【図1】パーチェスファネル
出典:『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか』(宣伝会議)
ところが実際は、4段階で構えた施策をすべて重複接触するという人は、極めて少ないのです。なぜならテレビCMを見た人だけにWeb動画を見せることはできないからです。
結線テレビなどを使って複数の施策を重複して当てる取り組みはかなり前から行われていますが、当てられる数には限りがあり、複数当たればこのように行動や気持ちが変わるという実験としての用いられ方が多いのが現状です。
例えば信託銀行というカテゴリーで、自社と競合のX社を比較してみましょう。
【図2】信託銀行というカテゴリーでの自社と競合X社の比較
出典:『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか』(宣伝会議)
「知っている」の割合は同程度ですが、「興味を引く」が競合のX社に対して劣っていたとします。「興味を引く」から下の歩留率は競合よりも優れているので、この「興味を引く」を競合並みに引き上げることができれば勝てそうです。
このように横並びで比較して、自社の課題を発見するために使用する「カルテのファネル」が、本来のファネルの使い方です。「この施策は何のためか」を図示する「地図のファネル」がよくあるファネルの使われ方ですが、これではうまくいきません。
ファネルの元になっている購買行動モデルを提唱した先人たちは、「ひとつのキャンペーンの中にこれらを網羅する形で施策を置きなさい」とは言っていないのです。
…続きは、月刊『宣伝会議』7月号でお読みいただけます。
本書『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか』の「はじめに」は以下の記事で公開しています。
参考記事
『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか 電通戦略プランナーが教える現場のプランニング論』(北村陽一郎氏)
2,200円(税込み)
ブランド認知、パーチェスファネル、カスタマージャーニー…有名なマーケティング・フレームを現場で使うとき、何に気をつければいいのか?「過剰な一般化」「過剰な設計」「過剰なデータ重視」の3つを軸に解説。推奨度9.9の電通社内プランニング塾の内容を書籍化。