AI の懸念点を対話形式にしてカバー
講談社は4 月、「AI 編集者とつくろう!わたしの現代新書」を公開した。「現代新書」が創刊60 周年を迎えたことから、ブランドの認知を高めようと実施。AI編集者と対話しながらオリジナルの「現代新書」を作成できるサービスで、開始1 カ月で利用回数は約18 万回に上った。
「AI 編集者とつくろう!わたしの現代新書」ではさまざまな新書を作成できる。
「現代新書」は、1964 年に創刊された教養新書のシリーズだ。今回の企画は、周年を記念したキャンペーンの一環。今までの読者層は50~70代の男性が中心だったものの、最近は本を読まない人も増えていることから「既存の読者を大事にしつつも新しい読者層と接点をつくる」ことを目指した。
サービスは、担当編集者の「相川さん」に扮したAI との対話を通して進む。相川さんから「早速ですが出版までに本のタイトルを決めていきましょう、タイトル案を教えて下さい。」とチャットが届き、自ら考えたタイトルと著者名義を入力する。
AI 編集者が4つのコピーを提案してくれる。
続いて、表紙のカラーを8 色から選ぶと、相川さんから本に合ったキャッチコピーを4 つ提案される。選ぶと、全ての情報を反映した書影が完成するという仕組みだ。現代新書の特徴でもある、カラフルなスクエアが入った書影をオリジナルで制作できる点、編集者にコピーを考えてもらえる点などがSNS で話題になった。
当初の企画は対話形式ではなく、タイトル、著者名、コピーを入力すると現代新書の書影が完成する、というシンプルなものだった。
企画を担当した講談社 現代新書編集部の佐藤慶一さんは「これまでの企画から、SNS ユーザーには新書への憧れやアイデアを共有したい欲求があると感じ、テックチームに提案。そこから、生成AI を使ってコピーまで作成できた方が面白いのでは、とブラッシュアップされました」と話す。
AI開発を担当したのは、講談社のテクノロジー領域を担うグループ会社・KODANSHAtechの竹本雄貴さんだ。「サービス公開まで約1 カ月と短期間の中で、開発を進めました。対話形式にしたのは、書影を完成させるというゴールのためでもあります」。
サービスの処理フロー。
AI は言語処理能力が高く、複雑なタスクに適したOpenAI 社のGPT- 4 Turboを使用。一方で、生成時間の遅れが懸念としてあった。「タイトルを入力してからコピーができるまでに数秒かかるので、その間にユーザーにほかの質問を出し、答えてもらうことで待たせないようにしています」(竹本さん)。
コピーをつくるプロンプトは、タイトルからの直接引用を避けるように指示。字数指定や、「見出しとその説明で構成される」「暴力的な表現や差別的なタイトルはブロックする」などのルールを入れたほか、「コピー候補案の3、4つ目は突っ込みどころのある文章になるように」と指示。ユーザーが楽しんで話題にすることを狙った。
またプロンプトの改善もAI に任せた。「『これをより効果の高いプロンプトに改善してください』と指示すると、優先すべき情報を強調し、冗長な説明を省いてくれます。何度も打ち返し、確認を取って完成させました」(竹本さん)。
AI にプロンプトの改善を指示したもの。
指示を受け、AI がプロンプトを改善している。
創刊から60年というブランド資産を持つからこそ実現した取り組みでもある。佐藤さんは「既存の読者層とは異なる幅広い年代の方に利用いただいています。新書は伝統的な媒体ですが、AIという最新の技術と組み合わせることでさまざまなチャレンジができそうです」と話すなど、手応えを感じている。