──ヤマップに2019年に入社したときもそうだったのでしょうか。
もちろん。公務員の父からは「ベンチャー企業に行くなんて、本当に大丈夫か?」と心配されましたけど(笑)。登山アプリの『YAMAP』は当時まだビジネスとして未完成で、てこ入れすべきと感じたことがたくさんあって。そのころ私は新しい刺激を求めていましたし、ヤマップは自分がそれまでやってきたダイレクトマーケティングを役に立てられる場所だと思ったんです。
──どんなてこ入れをされたのですか。
例えばPRです。私がマーケティング・コミュニケーションの責任者のとき、領域は決めずになんでもやってみようと思っていて。社内で話を聞いていたとき、PRは新商品が出たときにするもの、という空気に気づきました。でも、本当にそうかなと思った。だから自分でやってみることにしました。
例えば、「YAMAP」の「みまもり機能」は、登山中の位置情報を家族や友人に共有できる機能です。万が一遭難したとき、救助隊に見つけてもらえる確率が高まる。安心安全に非常に役立ちます。にもかかわらず、発表したときはまったく話題にならなかったようでした。
私はこれを引き取り、「体験談」という手法を取り入れてみることにしました。「遭難した際、みまもり機能のおかげで救助隊に見つけてもらえた」というユーザーの声を発信することで、私たちは命を守るために利用料をいただいているのだ、というメッセージを丁寧に届け続けたのです。すると、ユーザーにもその重要性が徐々に伝わり、また遭難救助という分野でメディアに取り上げられることが少しずつ増えていきました。
マスメディアン 荒川直哉
──そういったアイデアはどのように思いつくのですか。
ベネッセで「合格体験記」のインタビューを散々やりましたから。体験談は、絶対に人の心を動かすと分かっていました。
施策を考えるときには「新しいアイデアを」と思ってしまいがちですが、ゼロから生み出すばかりが正解ではありません。既存のものからどんどんヒントをもらえばいいんです。
──業種がまったく違っても、アイデアは応用できるのですね。他にも、アイデアの応用で成功した例はありますか。
たくさんありますよ。「YAMAP」は私が入社した2019年まで広告を使っていなかったにもかかわらず、150万ダウンロードまで利用者を伸ばしていました。理由を探ったら、一緒に山に登る人、山で出会った人同士の口コミで広がっているということが分かってきたんです。