企業が長期的に成長・存続していくためには、既存事業を改善するほか、新規事業に挑戦するのも1つの手だ。だが、事業が計画倒れに終わったり、実現しても失敗してしまったりするケースが少なくない。
本記事は2024年7月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024夏 in 名古屋」から、注目セミナーをレポート。石川鋳造の石川 鋼逸氏は自社ブランドの開発と事業開拓の成功事例を、広瀬企画の広瀬 達也氏は新規事業にライターを活用するメリットを紹介した。
市場にないニッチな商品で再興を図る
「世界で一番お肉がおいしく焼ける」をコンセプトに開発された鋳物(いもの)の「おもいのフライパン」。一時期は入荷3年待ちになるほど品薄状態となった人気商品だ。
開発したのは、愛知県碧南市にある鋳物業の老舗・石川鋳造だ。同社は主に自動車関連部品を製造してきたが、現社長の石川氏は電気自動車やハイブリット自動車の台頭により、いずれ受注数が減少するだろうと予測。同社の将来を見据え、鋳造技術を用いた新商品を開発しようと決意した。
石川鋳造の石川社長。同社は主に自動車関連部品を製造してきたが、将来を見据え、鋳造技術を用いた新商品を開発しようと決意した。
新製品リサーチのなかで、石川氏はお肉をおいしく焼くための調理器具が市場に出回っていないと気づき、フライパンの開発に乗り出した。鋳物は熱伝導がよく素材の旨味を逃さずに焼けるが、重さが難点だ。同社はフライパンの厚みを薄くして軽量化を試みたが、それではおいしく焼けなかった。結局厚みは残すことにして、開発を継続。そしてフライパンの重量があるぶん、取手部分によりこだわり、1mm単位の角度調整やデザイン性を追求した。同製品が出来上がるまで構想は10年、試作は3年と、長い道のりだったという。
1mm単位の角度調整やデザイン性を追求した同製品が出来上がるまで構想は10年、試作は3年と、長い道のりだったという。
お肉がおいしく焼けて、かつ取手が持ちやすい「おもいのフライパン」は納得のいく商品に仕上がったものの、同社には広告宣伝費に投入する資金がなかった。そこでSNSを中心にPRを展開。徐々にファンが増えてメディアに取り上げられると、一気に知名度を高めた。他企業からも声がかかり、中日ドラゴンズのマスコットキャラクター「ドアラ」とコラボしたフライパンや、生活関連用品を手がける「ドウシシャ」と共同開発した電気卓上コンロなど、さまざまな新商品を開発。また、顧客の要望をヒントに新製品「《頂-ITADAKI》」シリーズも生み出した。
同社は商品開発にとどまらず、新たな事業にも挑戦している。
同社は商品開発にとどまらず、3つの新しい事業にも挑戦している。
まず1つ目が、毎月全国のブランド肉が届く「お肉のサブスク(定額定期便)」という新サービスだ。全国各地のさまざまな高級肉が楽しめるほか、サブスク限定特典としておもいのフライパンを無償でレンタル可能。評判は上々で、会員継続率は95%を記録している。
2つ目は碧南のブランド化だ。同社の工場がある碧南は鋳物が盛んな地域だが、認知度は高くない。そこで石川氏は、鋳物の魅力や職人の技術力を体感できる体験型施設「おもいのフライパンBASE」を2023年にオープン。施設内では工場見学や商品の実演などを行っている。
3つ目は自社のノウハウを活かし、製造コンサルとして他社をサポートする「おもいのプロジェクト」だ。同社はECコンサルと組み、BtoC向けの案件に取り組んでいる。少額の投資で大ヒット商品を生み出した石井氏なら、企業にとって心強い併走者になってくれるだろう。
「細分化」と「最適化」で成果を出す
広告制作会社・広瀬企画は、ターゲットに応じた情報発信のほか、マーケティングや企画提案なども行う。広瀬氏は、企業の新規事業や戦略会議をスムーズに進める方法として、広告制作会社のクリエイター活用を提案。同社を含めた広告関連の会社は、サービスや商品が確定してから仕事の依頼を受けることが多い。しかし、サービスが決まる前段階の戦略会議から案件を任されたほうが、多様なプロモーションを提案できるという。
企業の新規事業や戦略会議をスムーズに進める方法として、広告制作会社のクリエイター活用を提案。サービスが決まる前段階の戦略会議から案件を任されたほうが、多様なプロモーションを提案できるという。
外部からの人材が入るメリットの1つ目が、企業の強みや特徴を再確認できることだ。自社にとっては当たり前のことでも、素人からすると分からないことが多々ある。そこで企業側は顧客のターゲットや商品、業界の動向などを外部の人にも理解できるよう、一からかみ砕いて説明する。これにより自社の特徴が整理される。
2つ目は時間や期間、目標が定まり、進捗状況が良くなることだ。外部に支払った対価に見合う成果を出そうと、緊張感をもってプロジェクトに取り組める。
3つ目に外部からの人材が「伝え方のプロ」であるライターの場合、カスタマージャーニーを「細分化」して情報を整理できるほか、他社との差別化する表現を考案し、情報の「最適化」にも取り組めるという。
広瀬企画の広瀬社長。商品やサービスをPRする場合、その特徴や独自性を「強み」に変換していく必要があるが、競合他社がひしめく中「唯一の独自性(を見つけること)は、一番難しい」と話す。
新商品や新たなサービスを売るまでには、PRにつながるメディア露出や自社ツール、営業相手が含まれる。広告関連のライターならSEO(検索エンジンの最適化)やLP(広告流入)に一定の知識があり、より多くの人の目に留まる情報発信を提案してくれる。
続いて取り組むことは、情報の最適化だ。商品やサービスをPRする場合、その特徴や独自性を「強み」に変換していく必要があるが、競合他社がひしめく中「唯一の独自性(を見つけること)は、一番難しい」と話す広瀬氏。そのため、強みを見つける一つの手法として「特徴を組み合わせて、世界で一つだけですと言ってもいい」と紹介した。
ただ、大量の情報から目に留めてもらうにもテクニックがいる。広告なら、効果的なビジュアルと印象に残る一言で勝負する。その際、ターゲットとなる相手の理解度を考慮することも重要だ。
新規事業に頭を悩ませている担当者は、「きめ細やかな情報整理ノウハウ」がある外部クリエイターの活用が解決策になるかもしれない。
また、商品やサービスのPRには営業も欠かせないが、担当者の力量により売れる・売れないに差が生まれやすい。そこで営業担当者から丁寧に困りごとをヒアリング。トークマニュアルを作成し、個人のスキルに頼らない手立ても有効だと語る。
最後に、実際に案件を進めるコツとして、クライアントに傾聴し、本音を引き出すこと、メディアごとに手法を変え、ターゲットに有益な情報に変換して伝わるようにすること、定期的に集まる機会をつくり、少人数で長期的に進めることなどを挙げた。
新規事業に頭を悩ませている担当者は、「きめ細やかな情報整理ノウハウ」がある外部クリエイターの活用が解決策になるかもしれない。
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株式会社広瀬企画