エンジニアやデータサイエンティストほどの専門職は目指さなくても、テクノロジー知識を自身の仕事に生かせる人になるためには、どんな勉強やキャリアづくりが必要なのでしょうか。
この企画は全4回にわたり、ビジネスの最前線で活躍する「TECH人材」に、これまでの学びや自身のキャリアに対する考え方、実践について話を聞きます。第2回はゼロワンブースターキャピタルの浜宮真輔さんに話を聞きます。
※本記事のインタビュアーは、DX人材育成のオンラインスクールを運営する、Tech0の前田諒氏と斎藤貴大氏が務めます。
■浜宮さんのキャリアの軌跡
◯大学院時代に友人と起業の経験あり。実店舗の運営などを学ぶ。
◯大学院卒業後はIBMに入社。ここでエンジニアとしてのキャリアを積んだほか、IBMでスタートアップ支援も担うことに。
◯2社目に務めたAWSではスタートアップの支援を行う。
◯ゼロワンブースターキャピタイルを立ち上げ、VC業として「チャレンジしやすい世界」を目指す。
前田:浜宮さんのビジネスパーソンとしてのキャリアは、大学院時代の友人との起業が始まりと聞きました。その部分までさかのぼって、これまでの浜宮さんの経歴を教えてください。
浜宮:おっしゃる通り、実は大学院に在籍していた頃に一度起業しています。たまたま「起業してみたい!」と考えていた友人がいて、私のことを誘ってくれて、二人で一緒に店舗ビジネスを起業したのです。いま思えば、その時の経験がキャリアの下地になっている気がしますね。「商品力だけでは事業の拡張性に限界が生まれること」や、「ビジネス展開には人とのつながりが必須であること」など酸いも甘いも経験する中で、学ぶことができました。非常に良かったですね。
斎藤:学生の頃にそのような経験ができたのは非常に大きな学びになりましたね。そのあと、IBMにジョインしたのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。
浜宮:IBMに勤めている方と交流する機会があり、その方とのご縁がきっかけとなり、インフラエンジニアとして入社しました。IBMでは主に、金融機関の基幹システムの運用を担当させてもらいました。当然のことながら、金融機関のインフラは通常通り、稼働するのが当たり前の世界。「ユーザにとっては、インフラって止まらないのが当たり前である」という考え方を身に着けることができました。
前田:その頃の仕事はエンジニアがメインだったと思います。エンジニアとしてのスキルはどのように磨いたのですか。
浜宮:基本は、仕事を通じてチームメンバーから教えてもらうなかで身に着けました。IBMは外部の方とチームを組むことが多く、社内外のプロフェッショナルの方たちにスキルを教えてもらいながら仕事を進めていく感じです。
斎藤:OJTの中でスキルを磨いていったわけですね。
浜宮:そうですね。当時はOSやミドルウェア、ハードウェア関連の分野を担当していました。専門的な話なので、少しイメージしにくいかもしれませんが、サーバやネットワークなどシステム構成を設計し導入って、業務としてそう頻繁に経験できるものではありません。そういったものをゼロからつくっていくプロセスに参画できたことは、自分の中で貴重な経験になりました。
IBMでは約9年ほど、エンジニアとして勤めて、MBAに2年間在学し、もう一度IBMに復帰して2人チームでスタートアップ支援プログラムを担当させてもらいました。あの頃、一緒に活動していたスタートアップ企業が、大きく成長しているのを見ると非常に感慨深いですね。
前田:そのあと、AWSへ転職されたのはどのようなきっかけがあったのでしょうか。
浜宮:IBMで立ち上げたスタートアップ支援プログラムの仕事がひと段落したあたりで、AWSの方とお話する機会がありました。そこでAWSの技術力やグローバルに活動する体制に惹かれてジョインすることを決めました。
AWSでは日本のスタートアップにAWSを浸透させていくミッションを、ベンチャーキャピタル・ビジネスデベロップメントというロールで活動していました。その過程で様々なスタートアップの方やVCの方とお会いする機会がありました。その方たちと仕事をする中で「スタートアップが起業するタイミングで出資してみたい」、いわゆる「シード出資」に興味を持ち始めました。
ちょうど、その頃に以前から関わりのあったゼロワンブースター代表取締役の合田ジョージさんと会話する機会があり、1週間程度で、ゼロワンブースターでファンド組成をすることを決めました。
前田:1週間での決断はかなり早いですね。ちなみに、ゼロワンブースターにジョインすることを決めたきっかけは何だったのでしょうか。
浜宮:ゼロワンのミッションが、自分がつくりたいと考えていた世界観と一緒だったからです。私は「エンジニアを始めとした様々な人がチャレンジしやすい環境をつくりたい」と強く思っています。そのように思うようになったきっかけは、AWS時代にUSで一緒に仕事をしていたあるVCの方から感銘を受けたからです。
その方は「どんな課題を解決したくて投資するのか?」と私に質問してきました。また、「自分で1社だけ起業するよりも、VCとして10社へ投資してその10社で課題解決に立ち向かう方が良い。だから私はVCをしている」と熱く語られていたことも強く印象に残っています。これは、私にとってとても心に残った言葉でした。ですから今の活動でも少しでも「チャレンジし、失敗しやすい環境」をつくっていきたいと考えています。
チャレンジが当たり前、失敗を恐れない未来をつくりたい
斎藤:「チャレンジし、失敗しやすい環境をつくりたい」とは、具体的にはどのようなことでしょうか。
浜宮:例えば、企業に属している人でも、もっと起業できる環境があるとよいですよね。日本の企業はスピンオフして会社を立ち上げることは、決して多くない。だからこそ、多くの人がスピンオフを経験することで、それが当たり前になる世界を実現したいなと思います。
そして、自分の子供たちが大人になった時にはスピンオフにトライすることが当たり前の世界になっているとよいな、と。
そこで私たち、ゼロワンブースターキャピタルでは、スピンオフ・スピンアウトに取り組む事業会社を10倍にすることを目指し、インキュベーションプログラム「SPIN X10(スピンエックス)」を展開しています。
スピンオフって、会社員が自分のキャリアを築いていく上で絶対に大事だと思うんですよ。自分で事業を立ち上げて資金調達した経験のある会社員って、なかなかいないじゃないですか。そういった意味でもこの世界観を育てていきたいです。
前田:IBMでのエンジニア経験で今の仕事に活きていることはありますか。
浜宮:他のVCを行っている企業がどのような目線でスタートアップを分析しているかは分かりませんが、私たちはテック関係の質問事項を20項目程度設定していて、かなり細かくヒアリングします。
インフラやシステム環境についてはもちろんですが例えば、データベースの選択理由や、エンジニアの採用方法なども聞いたりします。定性的な部分ではCEOと社員の関係は重要だと思っていて、CEOのいいところとか悪いところなども聞いたりしますね。
前田:ゼロワンブースターさんらしくて、面白い目線ですね。エンジニア経験がある浜宮さんらしい実務に即した鋭い目線だと思いました。
DXを知るには、まずは手を動かすこと。日本には革命を起こす力が眠っている
斎藤:企業においてDXを加速させる鍵とはなんだと思いますか?
浜宮:まずは自分の手を動かして、テクノロジーを知ることが大事だと思います。システム開発は小さなものであれば、ある程度はできるものだと思っています。テクノロジーはなんでもできる宝箱ではないので、テクノロジーが実現できる範囲を知っていてそれに沿った戦略を練れるのが強いと思います。ビジネスとテクノロジーのどちらか片方だけでは駄目で、ビジネスを分かっている人がテクノロジーを勉強して両方の知見を持つことがDXを加速させるための鍵だと思います。
前田:本当におっしゃる通りだと思います。では、ご自身としてはビジネスとテックを掛け合わせた今後の展望やチャレンジといったところではどんなことを考えてらっしゃいますか。
浜宮:VC業のファンドで出資していただいている皆さんと一緒に事業をつくっていくのが直近のチャレンジです。今後の展望としては、個人的に「SPINX10」にはかなりの可能性を感じています。まだまだ日本には、革命を起こせる力がゴロゴロ眠っている。私はスピンオフを通じてそれを掘り起こしていきたいですね。高い壁ですが、ぶち破りにいきますのでよろしくお願いします。
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