災害大国日本から生まれた、「いつも」と「もしも」をフリーにする「フェーズフリー」とは?

山本啓一朗氏

有限責任監査法人トーマツ 地域未来創造室 シニアマネジャー
一般社団法人 フェーズフリー協会 理事
一般社団法人 集まろうよ 代表理事

大手電機メーカーでSIerとしてメディア業界のDXを推進。経営企画で中計や組織開発、復興庁にて地域復興に従事した後、TOKYO2020を活用したマーケティング・事業開発及び、全国でのD&EI普及、地方創生を推進。ライフワークである日本の地域課題解決と防災、真の共生社会づくりに邁進中。コラムでは、山本個人としての見解を発信していきます。

南海トラフ地震警戒発令、皆さんの備えは十分でしたか?

皆さん、今年の8月8日はどこで何をされていましたか?
コラム第1回が公開されてから第2回の執筆もままならない内に、初めての南海トラフ地震警戒発令(1週間後の8月15日解除)が出されました。その翌日に神奈川で地震が発生した際、自宅からほど近くの居酒屋で、店にいた客の携帯のアラームが一斉に鳴り響き、私は改めて備えが不十分なことを実感しました。

「フェーズフリー」をテーマにしたコラムを書いているにも関わらず、私は備えられていない。この事実こそが、フェーズフリーの必要性を体現しているのだと思います。

東日本大震災を例に挙げるまでもなく、日本は世界の中でも災害が多発する地域にあり、過去に多くの大規模な災害を幾度も経験してきました。その結果、日本は進んだ防災知識・技術を持つに至った国でもあります。

それにもかかわらず、過去の多くの災害の記憶はいつしか忘れ去られ、私たちは危険性の高い地域へ再び進出し街をつくり、日ごろから災害に備える習慣が定着しないまま日々を送り、新たな災害が起こった際にはまた同じように悲劇を経験するという、悲しい循環を繰り返してしまいます。それはなぜでしょうか。

2012年12月7日、私はその前週に開催した最初の「結の場」の活動を行っていた石巻の漁港沿岸付近で、夕方に発生したM7.3の三陸沖地震に遭遇しました。そこで目の当たりにしたのが自動車の大渋滞。幸い、大きな津波は到達しなかったのですが、まだインフラ復旧最中の石巻沿岸で東日本大震災から2年も経っていない中での津波避難・注意警報にも関わらず大渋滞が巻き起こってしまう状況に、私は防災の何とも言えない難しさを感じました。

後に、佐藤唯行さん(一般社団法人フェーズフリー協会代表理事)から「災害とは、危機(Hazard)と社会の脆弱性(Vulnerability)が重なり、人々の生活が脅かされる状態・状況である」という話を聞いた時、あの石巻で感じた、何とも言えない難しさが妙に腑に落ちたことを覚えています。

© PhaseFree Association All Rights Reserved.

「いつも」と「もしも」をフリーにする? 「フェーズフリー」とは何か?

フェーズフリー(Phase Free)とは、日常時(平常時)と 非常時(災害時)のフェーズ(社会の状態)からフリーにして、生活の質(QOL/クオリティ・オブ・ライフ)を向上させようとする、防災に関わる新しい概念です。いつも使っているモノやサービスを、もしものときにも役立つようにデザインしようという考え方であり、防災の専門家として活動を続けてきた佐藤唯行さんが2014年に提唱した新しい概念です。

■いつも(日常時)ともしも(非常時)をフリーにする「フェーズフリー」

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2015年には任意団体としてフェーズフリー総合研究会を立ち上げられ、日本地震工学会でも重要なキーワードとして取り上げられ、2017年にはコンセプトブックが発行されました。

そして、2018年にフェーズフリーという価値の普及・啓発を通して、繰り返される災害への社会の脆弱性を減らし、被害に遭って苦しむ人を少しでも減らしたいという思いから一般社団法人フェーズフリー協会(以下、PF協会)が設立されました。

PF協会は、フェーズフリーを正しく普及・発展されるために3つの取組みを展開しています。

ひとつ目は、仲間づくりを目的とした「フェーズフリーアクションパートナー」です。2024年8月現在、200を超える幅広い企業・行政・団体・個人の皆さまにフェーズフリーの価値観を理解し、フェーズフリーな社会の拡大に賛同していただいています。

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2つ目は、正しく普及するための「フェーズフリー認証」です。商品やサービスが日常時および非常時の価値を共に有していることを証明するための制度であり、フェーズフリーの5つの原則に基づいた審査基準に基づいて認証を行っています。2024年8月現在、日常と災害時を快適にする商品・サービスが100以上生まれています。

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3つ目は、「フェーズフリーアワード」です。フェーズフリーアワードは、プロダクト、サービス、ファシリティなどあらゆるものを対象として、さまざまな事業やアイデアを広く社会から募り、フェーズフリーの特性を評価し優れた対象を顕彰します。個人・グループ・団体(企業等)、参加の単位も自由です。2021年から始め、今年で4回目を迎えるフェーズフリーアワードでは多くのナレッジが触発しあい、新たな気づきが毎年生まれています。今年もちょうど事業部門・アイデア部門の入賞作品を対象にオーディエンス賞と題して、誰でも良いな!と思った応募作品に投票・フェーズフリー推進に参加できる取組みを展開していますので、良かったらぜひ!(オーディエンス投票は8月30日(金)12:00にて終了します)。

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その他、PF協会の代表であり提唱者の佐藤さんは休む間もなく全国を飛び回り、各地の自治体や団体、企業向けの講演や対話を地道に続けています。私も微力ですが、地域活性を議論する場でお話をしたり、先日はハワイ州マウイ島の山火事からの復興に尽力されているマウイ島代表団が来日された際にフェーズフリーの取り組みを紹介させていただきました。

また、フェーズフリー(Phase Free)は佐藤さんが代表を務める会社、スペラディウスで国内・国際商標を取得しています。これは、社会的価値を適切に維持するための取り組みであり、全く新しい概念/言葉であるフェーズフリーが誤った使われ方をしないよう、そしてフェーズフリーという言葉を誰もが“正しく”使える環境を維持するための投資です。

…とここまで、フェーズフリーに関する取組みをご紹介してきましたが、このコラムをご覧下さっている皆さんはそもそも「フェーズフリー」をご存じでしょうか?
メディアでも数多く取り上げていただき、協会への問い合わせも多く、最近はCMでもキーワードとして使われ始め、着実に認知度は上がっていることを実感しておりますが、一方で、社会への普及・浸透という観点ではまだまだ足りない…というのが正しい状況だと思います。

また、広がりつつある状況の中、新たな問題も発生しています。フェーズフリーアクションパートナーは、ガイドラインに基づいてアクションパートナーマークを名刺や企業紹介サイト等で使用する権利を有しておりますが、一部に正しく活用されないケースが出てきました。

認証を取得することなくマーケティング活動にマークを使用されたり、フェーズフリーではなく、一般的な防災商品やグッズをフェーズフリーと称して販促活動を実施されたり…という事例も散見され始めています。TOKYO2020の際、アンブッシュマーケティングが注目されましたが、その対策はとてもコストがかかるものであり、PF協会としても今後の対応について悩ましい問題です。

それでも、立ち止まる訳にはいきません。

能登半島地震の際は、フェーズフリーデザイン事例としても紹介しているPHV車が非常時の電源供給として役立ったというお話を伺っておりますが、これはPHV車の低燃費と自宅充電という日常の価値(お得で便利)が多くの方に受け入れられ全国各地で普及した結果、非日常において価値を発揮することが出来た一例です。

フェーズフリーな商品やサービスがもっと多種多様で身近な存在だったら、フェーズフリーなまちづくりがもっと様々な地域で広まっていたら被害を軽減できたのではないか…こうしている間にもいつ発生するか分からない地震に向けて少しでも日常から備えられている社会を実現するために今できることを一つずつ、試行錯誤を重ねながら取り組んでいきたいと思っています。

ぜひ、私たちと一緒に平常時でも非常時でも安心して豊かに暮らせるフェーズフリーな社会をつくっていきませんか?

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山本啓一朗氏
山本啓一朗氏

有限責任監査法人トーマツ 地域未来創造室 シニアマネジャー / 一般社団法人 フェーズフリー協会 理事 / 一般社団法人 集まろうよ 代表理事 大手電機メーカーでSIerとしてメディア業界のDXを推進。経営企画で中計や組織開発、復興庁にて地域復興に従事した後、TOKYO2020を活用したマーケティング・事業開発及び、全国でのD&EI普及、地方創生を推進。ライフワークである日本の地域課題解決と防災、真の共生社会づくりに邁進中。コラムでは、山本個人としての見解を発信していきます。

山本啓一朗氏

有限責任監査法人トーマツ 地域未来創造室 シニアマネジャー / 一般社団法人 フェーズフリー協会 理事 / 一般社団法人 集まろうよ 代表理事 大手電機メーカーでSIerとしてメディア業界のDXを推進。経営企画で中計や組織開発、復興庁にて地域復興に従事した後、TOKYO2020を活用したマーケティング・事業開発及び、全国でのD&EI普及、地方創生を推進。ライフワークである日本の地域課題解決と防災、真の共生社会づくりに邁進中。コラムでは、山本個人としての見解を発信していきます。

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