VOL.1 磯島拓矢さん 後編
(前篇からつづく)
商品プロミスを再設定し、「潜在能力を引き出す飲み物」であることをメッセージ
早坂:続いて、大塚製薬/ポカリスエット「自分は、きっと想像以上だ。」。こちらは2016年です。
自分は、きっと想像以上だ。
(大塚製薬/ポカリスエット)
出典:コピラ
磯島:当時、高校生に「ポカリスエットって何?」と聞くと、「病気のときにお母さんが買ってくるもの」という位置づけになっていました。その固定観念から脱してもらい、若者の日常にあるブランドへ、という目標を掲げて始まったものです。
僕らが担当するより以前のコピーは、「水よりも、ヒトの身体に近い水。」など、商品を伝えることにおいて、まさにその通りで素晴らしいコピーなのですが、僕らのミッションは、高校生たちに改めてポカリスエットを認知してもらうことでした。古川裕也さんがCD、正親篤さんがAD、そして僕がコピーを書くことになりました。
商品プロミスは、失われた水分と電解質を速やかに補給すること。30年の歴史ある商品なので、このプロミスはだいたい認知されています。ただそれでは、高校生に手に取ってもらう理由として弱かったんですね。そもそも高校生たちにとって、すでに「病気の時に飲むもの」になっていましたから。なので、高校生に手に取ってもらえる新しい理由、新しいプロミスをつくらなきゃいけないという話になりました。
何が新しいプロミスになるのか。いろんなキーワードが出てくる中で、若干屁理屈ではあるんですけれども、最終的には「潜在能力を引き出せ」というコピーを商品プロミスとしました。汗と電解質を補給することはわかった。では補給すると人はどうなるのか?心身のバランスが整うのである。ではバランスが整うと人はどうなるのか?本当の力を発揮するのである…。みたいなことです。
「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいですが、その中間を吹っ飛ばして、「これは君たちの潜在能力を引き出す飲み物です」と伝えようと。だって、すべての高校生は、まだ何の結果も出てない、潜在能力だらけの人なんだから、と最初に決めました。
これでコピーとしてはできあがっているのですが、それだけだとキャンペーンにならない。高校生たちがそのコピーを使って遊んでくれるような合言葉が必要だと思いました。僕の密かな願いとしては、卒業文集に勘違いして高校生が書いてくれるようなものを目指していました。高校生たちにとってのスローガン、旗印になる言葉として書いたのが、「自分は、きっと想像以上だ。」です。
当時、すでに40代後半の僕が高校生に向けて書くときに、君たちの人生は明るいよ、夢は必ず叶うよとは言えない。それはあまりにもウソだから。でも、おじさんの僕が、君たちよりちょっと長く生きている僕が一つだけ言えるのは、これから先、本当にいろんなことがあるよ、何が起こるかわかんないよということ。いまは中間テストとか期末テストで赤点を取って落ち込んでるかもしれないけど、30年経つとそんなこと一つも覚えてないよ。第一志望に落ちたとしても、第二志望の学校で素晴らしいパートナーに会うかもしれない。Jリーガーにはなれなくても、スーパーサラリーマンになれるかもしれない。人生、17歳の君が想像するよりも絶対いろんなことあるよ、ということ。ここだけは嘘がないなと思って。長く生きている僕が保証できるな、と思い言葉にしたのがこのコピーでした。僕から彼らに呼びかける言葉ではなく、高校生たちが自分たちで使える言葉にしたいと思い、「自分は」という言葉を使っています。
早坂:高校生はもちろんですが、その言葉は僕ぐらいの30代の人にも響いているかもしれないですね。全ての努力を肯定された気がして。
磯島:期せずして、ある普遍性があったんですかね。失敗を経ている人の方が響くかもしれない。酸いも甘いもわかった人のほうがね。
ポカリスエットのキャンペーンでは、毎年キャッチフレーズや表現が変わっていくわけですが、いささか強引ながら「潜在能力を引き出す飲み物」と、商品を設定し直したことが大きかったと思います。2年目から始めたダンスが、他のスポーツに比べて「潜在能力を引き出せ」という言葉にマッチしていたこともキャンペーンに勢いを与えてくれました。
大塚製薬さんの商品で言うならば、カロリーメイトは商品の特性上、基本的に理屈で買ってもらうものだと思っているのですが、ポカリは基本的に「生きている味がする」ぐらいおいしいものだから、常に身体的に買ってもらいたいというのがあるんです。だから説得の話法は使わずに、なるべく感覚的においしいとか、爽やかな気持ちとか、エモーショナルで感覚的なところで着地することを常に意識しています。