高校生たちの旗印になる言葉として書いた「 自分は、きっと想像以上だ。 」

オリンピックを自分たちなりに再定義する

━━最後に、2016年の日本民間放送連盟「私たちはオリンピックを発明した。」。これは、リオ・オリンピックの開催年に流れたCMです。

民放連リオ五輪 「人類の進化」篇 90秒

NA:男子100m走。
初めて認められた世界記録は、
1912年の10秒6。
それから12か国30名を超える選手が記録を更新し、
現在の9秒58にたどり着く。
アメリカ人の記録に、なにくそと思う人がカナダにいた。
その走りに刺激を受けたオランダ人がいた。ベネゼエラ人がいた。
その影響を受けたキューバ人やアメリカ人がいて、
その姿に憧れる少年がジャマイカにいた…。
それは、国も人種も宗教も超えたリレーが
104年かけて1秒02、人類を進化させた証。
オリンピックが来るたび、私たちは思い出す。
私たちはつながっているじゃないか。
リオで新たな記録が生まれたら、私たちは叫ぶでしょう。
平和な国もいがみ合う国も叫ぶでしょう。
みんなでなしとげた、人類の進化を祝って。
その時私たちは、ひとつになっているはずです。

S:私たちはオリンピックを発明した。
NA:さあ、見届けましょう。人類が進化する瞬間を。
S:オリンピックを見る。民放で見る。

出典:コピラ

磯島:これは元々、古川裕也さんのところにリオ・オリンピックを盛り上げる施策として相談が来たものです。

目指したのは、2012年のスーパーボウルで名優クリント・イーストウッドが出演したクライスラーのCMです。不景気真っ只中で開催されたスーパーボウルの、ハーフタイムに登場したイーストウッドが「アメリカという国にとっても今がハーフタイムだ。我々は、ここからじゃないか」と語りかけるCMでした。

このように、スペシャルなイベント時にスペシャルな映像が流れることでもう1回、オリンピックの特別性が伝えられるよね、という話になりました。オリンピックって、もう知った気になっているんだけど、特別な気持ちになって見るとまたすごく新鮮に映るのではないか。イーストウッドのCMのようなことができれば、みんなもう一度オリンピックを観直してくれるのではないか、そんなことを考えました。

オリンピックについてはいろんな意見がありますが、僕の個人的な感覚として、単純に勝った負けた、メダルをいくつ取った取れなかったとか、そういう勝利を競い合う感じがコンテンツとして少し古く感じたんですね。オリンピックが持っているものは、そういうことだけじゃない。もっと違う何かがあるはずと考えていった結果、最終的には「人類の進化」にたどりつきました。オリンピックを自分なりに再定義するような気持ちで書いたものです。

写真 人物 個人 磯島拓矢さん

早坂:コピーと企画、どちらからスタートしたんですか。

磯島:コピーです。最初は体操をモチーフにナレーションを書きました。体操の技に関して「ウルトラC」「ウルトラD」と言うじゃないですか。あれはきっと、AやBがあるからCが生まれ、Dが生まれたんだろうな、と思ったんですね。つまり、普通に暮らしていたら、人は宙返りができるなんて思っていない。でも、誰かが宙返りするのを見ると、ああ、人間はこういうことができるんだと気づく。そして、じゃあ自分は2回回ってみようと思う。それを見た人が、あ、2回回れるんだ。じゃあ自分は2回回った上で、さらに捻ってみようと考える。そういう連鎖がきっとあると思ったんですね。「ウルトラDを成功させた」というのは、その人が成功させたわけじゃなくて、Aから始まった人類の歴史がDを生んでいくのだ、そう考えてナレーションを書いたんです。スタッフからの反応が良かったのですが、「体操は地味だね」と(笑)。そこで、オリンピックの一番の花形である100メートル走に変えたんです。

「私たちはオリンピックを発明した。」というコピーは、最後にできました。最初に体操をモチーフにナレーションを書いたときには、このコピーはありませんでした。確か。この時は時間が無かったけれど、古川さんたちとオリンピックについてものすごく話しましたね…。

「発明」という考え方は、みんなで話している中で出てきたと思います。もしオリンピックがなかったとして、今改めてオリンピックをつくるって大変だよね、という話もしました。世界の平和や、人間の尊厳や、国同士の切磋琢磨や連帯のために何ができるか?みたいなことを考えたら、きっと「オリンピック」という「スポーツの祭典の開催」に行きつくはず。そんなとてつもないビッグ・アイデアを、人はもう実現しているじゃないか。すごいじゃないか、ということですね。さらには肉体の進化、いわば人間そのものが進化していく証を見せる場である。そんな話を続ける中で、最後に「発明」という言葉に至りました。

早坂:これがオリンピックという言葉をコピーに使えた最後かもしれないですよね。2020年東京開催のときは名称が「東京2020」になりましたよね。

磯島:そうかもしれないですね。

早坂:「オリンピックがなければ、平凡な夏でした。」もそうですけど、オリンピックという言葉の強さがありますよね。でも、このナレーションを読むと、「私たちはつながっているじゃないか。」という言い回しなどに、磯島さんを感じますね。

磯島:ナレーションを書くのは好きなんですよね。最近、仕事としては少し減ってきていますが。本当はナレーションやコピーを、アートディレクターとプランナーの人に渡して、あとはよろしくって言えると、コピーライターとして理想的な仕事なんですけどね(笑)。

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磯島拓矢

電通 zero
クリエーティブディレクター/コピーライター

1990年電通入社。主な仕事に、旭化成企業広告「昨日まで世界になかったものを。」、旭化成ヘーベルハウス「考えよう、答はある。」、サントリーモルトウイスキー北杜「カッコイイ入門。」、本田技研工業オデッセイ「いいクルマが好きだ。男ですから。」、大塚製薬ポカリスエット「自分は、きっと想像以上だ。」、KIRIN一番搾り「やっぱりビールはおいしい、うれしい。」などがある。2014年4月に著書『言葉の技術』を刊行。TCC賞グランプリ、ADC賞グランプリなど受賞歴多数。

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早坂尚樹

電通コピーライター/CMプランナー。

2015年電通入社。主な仕事に、花王「家族と愛とメリット」、JR東海「会いにいく、が今日を変えていく。」「すべての会いたい人が、会いたい人と、会えますように。」、チャイム最終日新聞広告「ともに走り続けた、友へ。」、日本ハム「シャウエッセン断髪式」、トヨタ自動車「It’s
time for CROWN」、日清食品「カップヌードル」「日清焼そばU.F.O.」など。


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