コンポストのサブスクも登場、PRやクリエイティブの出口とも密接な「ごみ」問題

ものづくりは「ごみ予備軍」を増やすこと

みなさんは、「PRや広告の出口」と言われたら、何を思い浮かべるでしょうか。

おそらく顧客に届けること、あるいは社会にある空気感や認知を醸成すること、そんなことではないかと思います。

今回テーマにしたいのは、PRや広告ではなく、商品開発やものにおける出口。つまり、つくったあとの廃棄のこと。そう、「ごみ」の話です。

ポートランドに住み始めて、暮らしや考え方においていくつかの変化がありましたが、個人的にいちばん根底となる変化となったと思うのは「ごみ」のことでした。この数年、ずっと「ごみ」のことを考えているかもしれないというくらいに(笑)。

ひとつに、ポートランドというまちが環境保全に対する配慮や活動がさかんであること。さらに、私自身がPRの仕事に加えてものづくりを始めたということも、その背景にはあるかもしれません。

なにかしら物理的なものをつくる、ということは(極力リサイクルを考えるのは当然ですが)ゆくゆくは廃棄することになる「ごみ予備軍」を増やすことになります。ゆえに、ものの出口というものを、常日頃考えるようになりました。

そして、この出口の廃棄の仕方に関して、世界と日本には、とても大きな違いがあります。

日本は圧倒的な焼却炉数を有する焼却炉大国!

世界の焼却炉の半分近くが日本にあると言われていることを、みなさんはご存知でしたか。日本の焼却炉は、環境省(2023年3月発表)によると1028施設。アメリカ合衆国で100程度、ヨーロッパでも全体で500前後と言われています。

40年近く日本だけで生きてきた私は、ごみとは「燃えるごみ」と「燃えないごみ」(あるいはリサイクル)であることを、疑いもせずに生きてきた人間です。

しかし、よく報道で見かける、ごみの山。なぜ山になるのか。それは、ざっくりと言うなら、世界のほとんどの地域では、ごみは、燃やすものではなく、埋め立てるものとなっているからです。ちなみに、日本でも焼却炉を持たない一部の地域では埋め立てをしています。

そして、みなさんの家庭にある海外輸入製品、とりわけ持ち手付きの糸ようじや一見ではプラスチックに見える消費財が良いかと思いますが、そのパッケージを見てみてください。

Compostable、Biodegradable、そんな表示はありませんか?

リサイクルできるかは共通項なのでここではいったんおいておくとして、海外におけるものづくり、そして、購買において大事なことは、燃えるか?ではなく土に還るか?なのです。

そして、日本に比べれば広大な土地を持つ国でもどんどん埋め立てる場所がなくなっており、埋め立てごみを減らすことが多くの地域で死活問題となっています。

日本でも、焼却炉の老朽化から、ごみの減量化が叫ばれ、リサイクルに続いて、容量を占める生ごみに注目が集まっていますが、それは埋め立ての場合も同様です。生ごみはその容量だけではなく、埋め立て地において分解される時に温暖化につながるガスを排出することも、その課題の一因となっています。

アメリカの2023年は「コンポスト元年」だったように思えるぐらい、ニューヨークやサンフランシスコ、その他各都市が家庭での堆肥化(一次処理)を義務づけたり、自治体が回収をはじめたりした年でした。結果としてコンポストにまつわる事業者が増えたりした年でもあったように思います。

たとえば、アメリカのスタートアップ企業から2023年に発売となった「Mill」という家庭用生ごみ処理サービスがあります。

Google Nestの共同創業者が立ち上げたサービスということでも話題になり、私も試用してみましたが、これはキッチンにおける生ごみ処理機のリースと、一次処理した生ごみの配送回収がセットになっているサブスクリプションサービスとしてリリースされました。

スタートすると処理機が自宅に届き、毎月33ドル払い続ける間は何度でも配送回収を依頼できます(その回収自体は33ドルに含まれています)。回収された生ごみは適切に処理され、鶏の飼料として活用されます。もちろん、庭にそのまま埋めて堆肥に自分で変えることもできます。

実際に筆者宅で使用している、「Mill」でリースした電動生ごみ処理機。

毎月のサブスクリプション・コンポストというコンセプトは面白く、都会に住んでいてマンションなど生ごみを埋めるバックヤードの土がない場合に回収がセットであるのは有益だなと思いながらも、毎月33ドルは高い!と感じてたところ、最近価格改定があり、990ドル(これも高い!)の買い切りとなったようです。

敷地が広いアメリカでは多くの家にバックヤードとガーデンがありますし、必ずしも配送しなくてもいいという課題があったのでしょう。そして堆肥回収は9.99ドルで都度支払う形に変更となっています。

金額を除けば、機械もアプリケーションも、その設計は素晴らしいコンポストです。個人的には都市部のマンション向けに、サブスクもそのうち復活するのではないか?と想像しています。

一方、日本の生ごみ処理は、ここ数年、その焼却炉の老朽化から、次世代の生ごみ処理を堆肥化かメタン発酵か、はたまた飼料化か、など議論となっているかと思います。

そこにひとつ提案をしたいと思い、日本のオフィスを置く鎌倉にて、2023年の秋にコミュニティコンポストのプロジェクト「材木座コミュニティコンポスト」を立ち上げ、そのプロデュースを担当しています。

こちらは、材木座のシェアオフィスと、そこが管理する畑に、2つのコンポスト(ミミズとキエーロタイプの2種類)を用意し、鎌倉で働く人、住む人に、生ごみを持ち込んでもらい、ともに循環をつくろう!というコンセプトのもと、はじまりました。

普通に生ごみを燃えるごみに混ぜて捨てられる鎌倉市の状況において、家庭内で分別が発生する面倒くささと、生ごみをどうやって持ち運ぶか?というふたつの課題はまだありますが、ちらほらと地元の人が生ごみを持ってくる様子が見られています

ちょっと余談を挟みましたが、この「焼却炉があるか否か」により、日本と海外とは、ものの行き着く先が大きく異なるのです。さらにこの焼却炉の存在が、商品をつくる人、広告などのメッセージをつくる人をはじめ、企業の活動に大きく影響を及ぼしています。

だって、燃やすなら、プラスチックの含有量を下げれば、それは環境に対する影響を軽減できますよね?でも、土に還すなら、プラスチックはいっさい含まれていない方がいい。プラスチックを減らそうという意識が海外の方が先に高まった一因も、この出口の違いかもしれません。

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松原佳代(広報コンサルタント/みずたまラボラトリー 代表)
松原佳代(広報コンサルタント/みずたまラボラトリー 代表)

スタートアップの広報育成・支援を手がける「みずたまラボラトリー」代表。お茶の水女子大学卒業後、コンサルティング会社、出版社を経て、2005年に面白法人カヤックに入社。広報部長、事業部長を兼任したのち子会社カヤックLivingの代表取締役に就任。移住事業の立ち上げに参画。2019年、家族で米国ポートランドに移住。一方、2015年に自身の会社「みずたまラボラトリー」を設立し、広報戦略、事業開発、経営全般にわたる経験と実績を活かしスタートアップの広報育成と支援を展開。富山県出身。富山県の経営戦略会議ウェルビーイング戦略プロジェクトチーム委員も務める。

松原佳代(広報コンサルタント/みずたまラボラトリー 代表)

スタートアップの広報育成・支援を手がける「みずたまラボラトリー」代表。お茶の水女子大学卒業後、コンサルティング会社、出版社を経て、2005年に面白法人カヤックに入社。広報部長、事業部長を兼任したのち子会社カヤックLivingの代表取締役に就任。移住事業の立ち上げに参画。2019年、家族で米国ポートランドに移住。一方、2015年に自身の会社「みずたまラボラトリー」を設立し、広報戦略、事業開発、経営全般にわたる経験と実績を活かしスタートアップの広報育成と支援を展開。富山県出身。富山県の経営戦略会議ウェルビーイング戦略プロジェクトチーム委員も務める。

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