電通コンテンツビジネス・デザイン・センター(電通CBDC)が提供する、コンテンツと商品・サービスの相性などをデータから割り出す「電通コンテンツMAP」の利用企業が増えている。直近2年間は「電通コンテンツMAP」の利用案件が、年150件のペースで決まっており、商談ベースでは週に30件といった引き合いがあるという。
〔この記事の内容〕
– 主観から科学へ コンテンツタイアップの新基準
– マーケティング目的によって最適なコンテンツは異なる
– ネクストブレイクをいかにして把握するか
– IPホルダーの成長戦略を支えるデータ活用
マンガやアニメ、ゲームといったコンテンツ産業が隆盛する中、広告キャンペーンなどでコンテンツタイアップをしたい、というニーズが高まっている。しかし、昨今は、“感覚的”な観点だけではマーケティングにおける意思決定をすることが難しい時代になっており、それはコンテンツタイアップ先の選定においても同様である。
– 誰もが「流行っている」とわかるコンテンツには、競合各社も集まってくる。「これから」流行るコンテンツが知りたい
– コンテンツタイアップを行ったときの、ビジネス上の貢献度合いを定量的に知りたい
– 「なぜ」そのコンテンツとタイアップするとよいのか。現場レベルでは合意できていても、社内で説明がしづらい
こうしたニーズに応えるのが、「電通コンテンツMAP」だ。のべ数千 に及ぶコンテンツについて、生活者数万人規模の意識調査を継続的に実施している。性別・年齢のようなデモグラフィック属性はもちろん、趣味や嗜好といった心理、購買傾向などの行動、ソーシャルメディアにおける分析なども踏まえ、多面的な分析ができるデータ基盤だ。
「電通コンテンツMAP」のイメージ
電通CBDCの清田創也氏は、「お引き合いをいただいているクライアント企業様が、コンテンツタイアップにおいてデータやエビデンスを重視されるケースが増えています」と話す。
いわゆる「ネクストブレイク」を見つけ出すためのコンテンツ分析も可能だ。「電通コンテンツMAP」で予測されていた作品には、その後大きくファンを拡大し、ブレイクしたものも少なくない。 タイアップ先を探す企業だけでなく、知的財産(IP)を持つ企業から、自社の持つIPの位置づけを確認したり、マーケティング戦略を練ったりするための手がかりとして、活用したいという要望も増えてきている。
「コンテンツタイアップは、どんどんスピーディな意思決定が求められるようになっています。ライバル企業に先に押さえられてしまっていた、というケースもあります。かといって、クライアントご担当者様の好みや流行りなどで決めてしまったところ、実は相性がよくなかった、ということもあり得ます。データをもとに投資対効果を見て、判断を下し、社内の合意を得る。それがすでに利用されている各社さまに共通するポイントだと思います」(清田氏)
マーケティング目的によって最適なコンテンツは異なる
「20代〜30代女性をターゲットとしたいが、どんなIPとタイアップすればよいですか?」――自社の商品やサービスで獲得したい層をファンに持つIPとコラボレーションし、認知度を高めたり、実際に手に取ったりしてほしい、という要望はよくあるものだ。
しかし、「20代〜30代女性に人気」というだけでは、実は絞りきれないことがほとんどだ。ファンのブランドや商品・サービスと相性、意識や価値観も考慮しなければ、最適な選択はできない。
「さらに言えば、タイアップするキャンペーンの施策内容との相性も重要です」と話すのは、電通CBDCの清水惠介氏だ。
「たとえば、認知度を高めたい、試してもらいたい、愛着を持ってもらいたい、といった目的によって、組むべきコンテンツは変わってきます。特に、商品が高価格帯である場合などは、組み先となるコンテンツにも、強い熱量があり、日ごろから高価格帯の商品を購入するファンが多いコンテンツが向いているということになります。そういった場合は、ファンが本当に欲しくなるような、コレクター性のあるノベルティや商品を用意するなど、繊細な企画が必要になります」(清水氏 )
商品・サービスの課題が認知度にあったり、知られてはいても、選好度がまだ低かったりという点にあるケースもある。電通CBDCの木村朋枝氏はこう話す。
「ファンの心をつかむようなタイアップができれば、その企業や商品自体の評価が高まる、という事例が多くあります。ファンはその企業が『(コンテンツについて)わかっている』と感じてくれます。また、じわじわと火が付きつつあるコンテンツを、企業が起用してハレの舞台を作ることで、ファンからの賞賛を浴びるようなケースも少なくありません」 (木村氏)
「データを活用するのと同時に、実はアナログな情報収集も欠かせません」と、さらに清田氏は言葉をつなぐ。
「高い人気を獲得する前のコンテンツというのは、当然ながら、水面上に現れている部分はごくわずかです。まだWeb上で言及が少ない作品を見つけてくる必要があります。すべてのコンテンツジャンルを一人で網羅することは難しいので、ネットワークが必要になります。電通CBDCには各分野を専門とする100名ほどのスタッフが常にアンテナを張っていて、ネクストブレイク候補となるコンテンツを探索しています。実は大きな競争力になる部分です」(清田氏)
ヒットの兆しをいかにして掴むか
電通CBDCの守備範囲は、マンガやアニメに限らず、洋画、邦画、ドラマ、ゲーム、eスポーツ、音楽、アーティスト、ライブエンターテインメント、タレント、お笑い芸人…と幅広い。「弊社の調査データは、これらのジャンルを横断し、クライアント様の目的にとってどんなコンテンツが適しているかをデータで提示できます」と木村氏は話す。
データの提供範囲は、国境も超える。国内に比べると頻度はまだ少ないが、昨年もグローバルにおけるエンタメコンテンツの調査を、国内と同様の基準で実施した。コロナ禍を経て、海外でも日本のコンテンツがより楽しまれるようになっている。ファンの熱量やボリュームも国内にひけをとらず、日本のコンテンツとのタイアップで、台湾でモノが売れるということも起こるようになっている。
「最近増えているのは、日本の企業が台湾や韓国、タイ、シンガポールなどで実施するキャンペーンにおいて、コラボレーションするのに適切なキャラクターは何か、といったご相談です。往年のコンテンツだけではなく、今日本で人気を博しているようなコンテンツを求めるクライアント様も少なくありません」(木村氏)
コンテンツが人気を博すタイミング、タイアップする適切なタイミング、といった時間軸のつかみ方も複雑化してきている。
「タイミングの問題はあると思います。たとえばクロスメディア化した作品でも、原作時点、アニメ化時点でも一定の人気があったものの、映画化で爆発的に人気を博すとまでは想定されていなかったケースがあり、タイアップしていた企業がほとんどなかった、ということがありました。ようやくタイアップが付いたころには劇場版は終わっていて、アニメの2期目が始まるまで、また時間が空いてしまう、という事象がありました」(木村氏)
作品がまだまだファンコミュニティの中だけで楽しまれていたものが、アニメ化、映画化、ゲームやトレーディングカードになった時点で一気にマス化したケースもある。
「必ずしも新しい作品ばかりではなく、公開から周年を迎えたりとか、久しぶりに展覧会が開かれたりとか、いわゆる2.5次元のミュージカル化したりとか、リメーク、リブート作品が公開されたり、など、往年の名作が再び脚光を浴びるということも、珍しくありません。次に新しく人気になる作品を知っておくのはもちろん、既存の作品でどのような動きがあるかにも目を配っておく必要があります」(木村氏)
IPホルダーの成長戦略を支えるデータ活用
一定の成功を収めているコンテンツでも、踊り場に立ってしまっているケースや、人気が緩やかに低減しているケースもある。どうすれば状況を変えられるか、悩みを抱えているIPホルダーや、メディア企業も少なくない。マーケットインの文化があまりなかった企業からも、データを求める声が強くなっている。
「ここ10年ほどでコンテンツ産業が盛り上がってきており、ビジネスの規模も大きくなってきています。根拠の薄い意思決定を下すのは難しく、マーケット調査をしていきたいという声が日に日に高まってきています。打開のためにはアイデアだけでなく、データも欠かせません」(清水氏)
週に数件のペースで、IPホルダーとの打ち合わせも続く。自社のIPが「電通コンテンツMAP」の中で、どのように位置づけられているのか、どうすればファン層を拡大できるのか、というコンサルティングの要望も多い。
「ソリューションとグロース(事業拡大)というのを、コンテンツビジネスにおける2大テーマに掲げています。ソリューション領域で重視しているのは、広告主企業のIPを活用したマーケティング施策を打つ際の投資対効果を高めること。そしてグロース領域では、IPホルダーを対象に、当社が出資しているか否かに関係なく、IP自体の成長に貢献するということです 」(木村氏)
「グロース領域では、コンテンツのポジションの把握、ゴール地点を明確にして、そのギャップを埋めるための戦略・施策を企画していきます。定量的・定性的なデータ、プロデューサーの知見、クリエーティブチームのアイデアも活かしていきます。グロース領域は、広告会社としてのノウハウが生きてくる領域でもあります」(清水氏)
コンテンツをグローバルでヒットさせていくことも、これからの日本の産業にとって重要な価値を持つ。世界でコンテンツが広まれば、日本企業が国外でのキャンペーンで日本のコンテンツを用いるだけでなく、外資企業がグローバルで実施するキャンペーンで、日本のコンテンツを積極的に活用する景色も見えてくる。
「IPビジネスは日本の重要な産業と信じています。中でもアニメは売上収益の多くのウェイトを日本以外のグローバルで占めています。電通CBDCでは、グローバルにおけるデータ収集も始めており、各エリアでの作品の好みや価値観についても知見を深めています。国内は当然のこと、国外でのソリューション提供やIPグロースを果たしていきたいと考えています」(清田氏)