ミツカンZENB事業のリーダーが語る 「生き残るのはECに限定しないD2C」

ミツカンから誕生したプラントベース食品D2Cブランドの「ZENB」。2021年に主力の豆100%麺「ZENBヌードル」の安定生産が可能になったことをきっかけにヒットした。「ZENB」の特徴はD2C全盛期のコロナより前にローンチし、コロナ後も成長していることだ。EC化率が鈍化する今も「ZENB」が好調である理由と、D2Cブランドが今後も生き残っていくための条件を探る。
※本記事は月刊『販促会議』2024年9月号にも掲載されています。

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佐藤武氏

Mizkan Holdings
執行役員
ZENB事業 マーケティング&ダイレクトグループリーダー

家庭用商品を中心にセールス、マーケター及び両部門のマネジメント職としての経験を積み2017年より執行役員役員室長、営業本部長、MD(現マーケティング)本部長、仕入統括部長を歴任。2022年10月より新規事業であるZENB事業のマーケティング管掌。24年7月より現職。

ビジョナリーだからこそD2Cを手段として選んだ

ミツカンから誕生したD2C食品ブランドの「ZENB」。製品には野菜や豆などの植物を可能な限りまるごと使い、動物性原料や添加物に頼らないのが特徴だ。ミツカンが2018年に策定した「ミツカン未来ビジョン宣言」の中で掲げる「人と社会と地球の健康」「新しいおいしさで変えていく社会」の実現に向けた象徴的な事業であり、ブランドとして、2019年にローンチした。

ミツカン「ZENB」。

D2Cブランドのローンチが相次いだのは、2020年頃のコロナ禍。これまでのように小売・流通を介した顧客とのフィジカルな接点が途絶えてしまったことにより、店舗を持たずともダイレクトに顧客と繋がることができるD2Cに注目が集まったと考えられる。

しかし先に述べたように、ZENBのローンチはコロナ前。D2Cブランドの全盛期が、コロナ禍が要因だったと一概には言えない。ZENBはなぜ、D2Cに目を向けたのか。同社のマーケティングを統括する佐藤武氏は、「D2C隆盛の要因はコロナ禍における生活者の行動様式の変化により、顧客と直接繋がることができる点に価値を感じた事業者が多いからではないか」と話す。

「ミツカン、とりわけZENBがD2Cというモデルを選択したのは、ZENBというブランドを通して『人と社会と地球の健康』『新しいおいしさで変えていく社会』を実現するというゴールがあったから。要は、ビジョナリーなブランドなので、世界観を間違った形で伝えないためにも顧客と直接的に繋がる必要があったのです。

加えて、ミツカンがBtoBtoCの一般的なビジネスモデルでお客さまに商品をお届けしていたこともD2Cを選択した背景。流通を介すがゆえにエンドユーザーの姿が見えないことは課題に思っていましたし、顧客と直接繋がることにも価値を感じていました。コロナだけではなく、ダイレクトに顧客と繋がることやパーパスドリブンなブランド構築を目的とする事業者が増えたことも、2020年頃にD2Cブランドが増えた背景にあるのではないでしょうか」(佐藤氏)。

生活者の便益になれたか 生き残るブランドの条件

コロナ禍は、D2Cブランドが盛り上がった直接的な理由にならない場合もあるのではないかと話す佐藤氏だが、ことZENBのような食品ブランドにとっては、コロナ禍が追い風になったとも続ける。

「D2Cブランドはネットを通じて商品についてのコミュケーションを行うのがメイン。つまりオンラインが主戦場のD2Cにとって、EC普及が加速したコロナ禍は追い風になったと言えると思います。ネットを通じてモノを探し、購入し、体験する環境が半ば強制的に生まれた状況でもあったのかもしれません。

さらに食品ブランドにとっては、コロナ禍で外食の機会が減少したこともアドバンテージでした。価格の比較対象が内食・中食商材だけでなく、外出しなくても同等の価値・体験を得られる食材=外食との比較になった生活者が増えたきっかけになりましたよね」。

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