経営戦略と紐づけた施策と効果測定「インターナルコミュニケーション」の 成果をどう示し、次につなげるか

ヤプリと宣伝会議は7月10日、これからのインターナルコミュニケーションのありかたを検討する研究会の第2回を開催した。大手企業14社の責任者が参加。インターナルコミュニケーションの目的や効果測定、他部門との連携について議論した。

写真 人物 大手企業14社の責任者

「インターナルコミュニケーション研究会~企業行動に変革を起こし、イキイキとした組織を~」

趣旨
アプリプラットフォーム「Yappli」を提供するヤプリと宣伝会議が協働で研究会を2024年4月に発足。組織内のコミュニケーションを進化させるべく、実務家と議論する機会を設けている。

インターナルコミュニケーション推進の鍵

①【マーケティングフレームワークの適用】インターナルコミュニケーションにおけるマーケティング的戦略と施策が有効(論理的思考やPDCAサイクルの確立、KGIとKPIの相関の重要性など)
②【社内外一貫での企業ブランディング】エクスターナル(社外)だけでなく、インターナル(社内)ブランディングの両軸で一貫性を保つ
③【アクノレッジメント(社内承認)の重要性】変革においては先進的な取り組みを行った人だけがハイライトされがちだが、日頃から努力を重ねている人々もアクノレッジメントすることで、組織全体をエンパワーすることができる

「インターナルコミュニケーション研究会」第2回は、エバラ食品工業、大阪ガス、大林組、オリエントコーポレーション、カルビー、住友ゴム工業、大和ハウス工業、TBSテレビ、東レ、戸田建設、西日本旅客鉄道、三菱UFJ信託銀行、ルネサンスのインターナルコミュニケーション関連部門の責任者が参加(五十音順)。アドバイザーとして、インターナルコミュニケーションで豊富な経験を持つ、NECの岡部一志氏を迎え、ヤプリの執行役員CMOの松田恵利子氏がファシリテーターを務めた。

グループ会社のつながり強化

冒頭では、研究会初参加のTBSテレビ・メディアテクノロジー局イノベーション推進部長の宮崎慶太氏が、自社の取り組みについて発表。グループ会社間のコミュニケーションを促進するため、全グループ社員にアンケートを実施しブランドメッセージをつくった取り組みや、TBSの人気クイズ番組のフォーマットを活用した社内イベントの開催、情報共有を促す社内アプリ「TBSクラウド」の仕組みなどについて紹介した。アプリについては、普段PCを使わない職種の人もスマホを通じて情報を得ることができる利点や、アプリ内で配布の社内クーポン(社内食堂で利用)が、アプリ導入のきっかけをつくっていることについても触れた。

目指すゴール、目的は?

研究会では「①インターナルコミュニケーション推進の目的」「②現状の進捗状況」「③効果測定」「④他部門との連携」の4テーマを議論した。

まず「インターナルコミュニケーション推進の目的」については「企業の転換期における新たな価値観や方針の浸透」を目指しているという声が最も多くあった。そうした浸透活動を通じて、従業員一人ひとりの意識が変わり、会社への愛着が高まり、誇りを持って仕事ができる状態になる(従業員エンゲージメントが向上する)。その結果、企業価値が高まり、最終的には「企業ブランド向上」を目指すことが重要だという考え方が示された。

インターナルコミュニケーションを推進する上での課題のひとつが「経営層をいかに巻き込んでいくか」だ。経営層と従業員の距離を縮める専門の組織をつくり、週1度、社長とインターナルコミュニケーションの観点で議論している企業もあった。また中期経営計画に、従業員エンゲージメントスコアの目標値を入れ公表するなど、組織内コミュニケーションの活性化が企業変革にとって重要な事項であると周知することもポイントになりそうだ。

効果のあった取り組みは?

インターナルコミュニケーションの目的と照らし合わせ、その「進捗状況」を参加者に聞いたところ「前進している」との回答が最多であった。コミュニケーション施策を推進する上で論点となったのは「社内で頑張っている人たちにどのように光を当てるか」だ。従業員の「自発的な取り組み」に焦点を当て、社内報で共有したところ「いいね」等のフィードバックを多く集めた例や、従業員インタビューの内容を多くの人に見てもらうため、テキストではなく動画にするなど、共有方法の工夫も見られた。

社内の「イノベーター」にあたる従業員に注目しその熱量を広げていく方法がある一方で、目立ちにくいが重要な業務を担う人もいるため、そのバランスはとりたいところだ。ベテランやスペシャリストを取材しオウンドメディアで社外へも発信している例や、成果の大小、成功・失敗は問わず、新たな挑戦をしている人を自薦・他薦し、社内投票を経て表彰する制度を設けた例もあった。社内で自然と「(表彰制度に)応募してみたら」という声がけが生まれ、挑戦を生み出す風土につながっているという。

また広報部門の強みとして、メディアとのリレーションを活かした「エクスターナル施策」も活用できる点が再確認された。経営層が日頃、社内で発するメッセージを、社外にも同様に伝える。そのことに従業員が気付くと組織への信頼感が芽生え、エンゲージメント向上にもつながりやすい。また従業員の働く様子がリアルに伝わる社内報の内容を「企業サイト」に掲載することで家族から好評を得たり、求職者向けの採用広報のコンテンツとして活用したりする例も共有された。

効果測定の方法

「効果測定」については、従業員アンケートやエンゲージメント調査を、参加各社が行っていた。「当社を素晴らしい職場として推奨する」という設問を重視する企業では、現場の課題認識を把握すべく拠点を訪問し従業員との対面面談を実施。「ある層には成長機会の提供がエンゲージメントの向上につながる」「別の層には安定・働きやすさが重要な要素である」といった、従業員のセグメントに適した施策の必要性が明らかになったという。

インターナルコミュニケーション施策の効果測定については、成果をロジカルに説明できていないこと、PDCAサイクルの視点が欠落していることへの問題提起がなされた。「コミュニケーション施策が本当に従業員のエンゲージメントに寄与しているか、分析できていない。社内報を視聴した人や社内イベントの参加者とエンゲージメント調査の結果を紐づけて把握すべきではないか」という課題も示された。

実際に効果測定を実施した企業によると、タウンホールミーティング参加者のほうがエンゲージメントスコアも高い結果になったという。加えて「データの可視化はインターナルコミュニケーション施策の裏付けになるため、施策を生み出している私たちの自信につながる。一度やってみる価値はある」という知見も共有された。ただし、エンゲージメントスコア向上を目的にしてしまうと、従業員が調査時に意図的に高く点数をつけようとするリスクもあるので注意が必要だ。

部門連携による拡がり

「他部門との連携」については、各社の体制や、連携によって生まれた施策について共有した。人事部と連携して人事制度の改善や研修の実施につなげている例や、プロジェクトの過程を開示したり、次世代を担うメンバーに参加してもらったりして、関わる人を増やす工夫も紹介された。

また経営企画、人事、広報は、会社の情報に日々触れている部門であるため、他部門と情報量に差がある状態でコミュニケーションを進めていないか気を配っているという意見もあった。

写真 研究会の様子

総括
研究会の議論で浮き彫りになったのは、インターナルコミュニケーションを会社が目指す方向性に沿って実施し、経営戦略と連動した施策を組み立て、その成果の示し方まで設計することの重要性だ。そして共通して見られた課題がエンゲージメントとの紐づけである。アドバイザーの岡部氏は「インターナルコミュニケーション施策後に、エンゲージメントがどのように変化したか定量的に把握し、従業員の声を直接聞き、経営視点を取り入れながら、次なる施策に向けて仮説をつくっていくことは重要。だが会社の環境や状況によって目指すゴールも異なる。自社に適した仕組みを研究し、アイデアを取り入れ、新たなコミュニケーション施策にチャレンジすることが大切ではないか」と話した。インターナルコミュニケーションによる企業価値やエンゲージメントの向上については、第3回の研究会でも深く議論していく予定だ。

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E-mail:mktg@yappli.co.jp

10月22日「インターナルコミュニケーション・デイ」開催決定!
https://www.sendenkaigi.com/event/yappli2410/

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