広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のスキル形成について考えているのでしょうか。本コラムではリレー形式で、「自治体広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。
埼玉県北本市の秋葉恵実さんからバトンを受け取り、登場いただくのは茨城県ひたちなか市の米川裕太郎さんです。
Q1 現在の仕事内容を教えてください。
こんにちは!茨城県ひたちなか市役所の米川と申します。
はじめに少しだけ、ひたちなか市のことを紹介させてください。
茨城県の太平洋沿いのほぼ中央、県都水戸市に隣接しているひたちなか市は、工業都市として発展した旧勝田市と、水産業の盛んな旧那珂湊市の合併により誕生し、今年11月1日に30周年を迎えます。
青い絶景ネモフィラで有名な国営ひたち海浜公園や、新鮮な海の幸を味わうことができる那珂湊おさかな市場、日本一の生産量を誇るほしいもなど、自然や食が豊かなまちです。
私は、広報紙作成をはじめとした広報業務全般を担当していますが、LINE、X(旧Twitter)、Instagram、YouTube、TikTok、noteなど、広報が所管するソーシャルメディアの管理・運用を主に担当しています。
特にXを推していまして、企業公式アカウントなどを参考に、リプライなどの双方向性のコミュニケーションを積極的に取り入れ、「話せる自治体公式」を目指し、市内の出来事を発信しています。ありがたいことに、投稿を通して市内外の方との新たな交流も生まれていて、情報発信の先にあるシティプロモーションへのつながりも感じています。
Q2 広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください。
私が所属する広報広聴課では、広報業務のほか、市政への意見・要望の受付や市政懇談会の運営などの広聴業務を所管しています。
市民の皆さまから寄せられる声をもとに、課題解決のための政策を広報で取り上げ、その広報を見た市民の皆さまから、また新たな提案を受けるといったサイクルを目指しています。
Q3 大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。
せっかくですので、私が担当しているソーシャルメディアの分野でお話させてください。
一番には、「何事もやってみる姿勢」を意識しています。スマートフォンが全世代で普及するなどデジタル化が進む中で、様々な情報発信ツールが生まれています。全てのツールを使いこなすことは到底できませんが、組織の広報として、これらのツールの特性や使い方を学び、可能なら実際にアカウントを運用することで、今の情報発信の感覚を養っておくことが大切だと考えます。
こう考えるようになったのは、コロナ禍で非接触や即時性などが情報発信に求められた際、紙媒体の広報紙以外に特に有効な発信手段を持っていなかった時期を、広報担当として過ごした経験が大きいです。
ほとんどの自治体にとって、戸別に直接情報を届けられる広報紙は発信の主力です。ただ、それだけに重心を置くのではなく、組織や地域にとって相性のいい発信手段を常に模索し、既存の手段と組み合わせたり、新たに創り上げることも必要だと考えます。
新しい取り組みやチャレンジに対して、少し慎重な印象のある自治体広報としては、やや前傾姿勢で取り組むくらいがちょうどいいのではと感じています。ソーシャルメディアの場合、基本的には費用をかけずに始められることも大きなポイントで、新たに予算をかけられない状況でも、まずはやってみるという前向きな決定を得やすいと思います。
ソーシャルメディアの場合、運用後も、投稿頻度をコントロールしたり、魅力的な投稿を継続することで、きちんと育てきることも広報の仕事。上手くいけば、有効な発信手段のひとつになってくれるかもしれません。
ひたちなか市では、広報紙に掲載しきれなかった取材記事や、各事業担当者自らが作成する事業紹介記事などを届ける場として、市公式noteを開設しました。今では総ビュー数約20万回、庁内7部署が記事を集めるプラットフォームになっています。
また、いくつかのツールをバランス良く運用することで、広報紙やWebサイトなどの主力オウンドメディアへの導線としての役割や、メディア間連携によるフォロワー・閲覧者の増などの相乗効果が生まれます。広報紙発行のお知らせをXで投稿すると、多いときで3万を超えるインプレッションをいただきます。LINEでも電子版の広報紙を配信していて、市民の方からは、「スマホで電子版を読むようになった」などの嬉しい声も届いています。
Q4 自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性についてお聞かせください。
広報紙などに比べ、ソーシャルメディアではより親しみやすい文章表現や即時性などを意識していますが、自治体公式アカウントとして伝えるべき内容か、行政としてそぐわない表現はないか、公平性・平等性は保たれているかなど、慎重な確認を経て発信しています。
こうした、行政ならではの選定基準やチェックを必要とするため、硬い文章になったり、発信までに時間がかかることも多く、担当者としては思い悩むこともしばしばあります。
ですが、丁寧な確認過程は炎上回避につながりますし、企業や個人ではできない、「まちのこと全部PRしていい広報」なんだと前向きに捉え、まちの情報や魅力を総合的に発信できる自治体広報の役割に、大きな可能性を感じています。
【次回のコラムの担当は?】
茨城県古河市企画政策部シティプロモーション課ブランド戦略室の藤井恵さんです。