「これは232ページに渡るボディーコピーだ…」
この本を読み終えたとき、最初に抱いた感想だ。
『言葉からの自由』という本のタイトルがキャッチコピーで、本を開いてはじまる一文からがボディーコピー。一文一文に価値を感じた。決して無駄がない。大切に言葉を選ばれている。助詞も、語尾も、一番ふさわしいものがそこにある。だからか、はじめからおわりまでずっとリズムがよかった。読んでいてとても気持ちよかった(大先輩に偉そうすぎるが、ここはそういう場ということで許してほしい)。この気持ちよさ、一体どれだけ推敲されたのか。一文、一文字も読み落とすまいと大切に読んだ。
この一文は忘れたくない、この一文も好き、と心惹かれた箇所に付箋を貼っていたら、いつの間にかほぼ毎ページ付箋を貼っていることに気づき、付箋の意味がないなと思って途中でやめた。今は、この本の存在自体を忘れないために、机の上に置いて、時々見返すことにしている。
そんな中で、何度も読んでしまう私の好きな一節を紹介する。
書くことは思い出すことに似ている。書くことは思い出すことから始まる。
その場で書くものではなく、これまでの人生から生まれるもの。いつか書いてみたい感情。いつか使ってみたい言葉というものをストックしておく。それはずっと忘れていたとしても、必要な時にふらっとやって来る。それを優しく迎え入れて、帰さないようにする。
この一節を読んで、
書くことがもっと楽しみになった。
コピーライターという職業にもっと魅力を感じた。
同時に、
毎日をもっと大切に生きたくなった。
「言葉というものは、とても身体的なものです。頭と手と眼と、その人に固有なものがその人の言葉になる。」と三島さんは言う。今この瞬間に感じたこと、すべて、これから私が生み出す言葉につながっていると思うと背筋が伸びた。
三島さんにお見せするのは恥ずかしい、明らかにリズムが悪い文章を書いてしまったけれど、今抱いている恥ずかしさとか無力さとか情けない感情もいつか生み出す言葉につながると信じて、忘れないでおこうと思った。