ニューヨークに住み、長年日本の企業や企業トップのブランディングに関するコンサルティングをしてきた筆者にとって、日本製品のグローバル展開を見るたびに、そのポテンシャルと課題を常々感じている。三恵メリヤスが手掛ける日本製最高級Tシャツ「EIJI」も、その一例だ。最近では、クラウドファンディング・プラットフォームの「Kickstarter」で英語字幕付きの動画を発信するなど、海外展開としての第一歩を踏み出している。
EIJIの海外向けコミュニケーション施策からは、商品の背景にあるストーリーと、そこから垣間見えるいくつかのポイントが発見される。
1. 「人生最高の一枚」というコンセプト: EIJIのTシャツは、単なる衣服を超えて、人生における特別な一枚を提供することを目指している。着心地の良さや長く愛用できるシンプルな形とシルエットが、日常生活においてもリラックスしたい瞬間そして大切な場面でも選ばれるTシャツとしての魅力を持っている。
2. 日本の職人技術の結晶: 約100年にわたる日本の伝統的な職人技が、このTシャツの製造過程に活かされている。手作業での丁寧な仕上げや、高度な縫製技術により、一つひとつのTシャツが細部にまでこだわり抜かれた一品となっている。
3. 持続可能な素材選び:EIJIのTシャツは、世界基準の最高品質なオーガニックコットンを使用している。環境に優しい素材を選ぶことで、サステナブルな製品づくりを推進し、環境意識の高い消費者にも訴求している。
EIJIのTシャツは、約2年間という長い開発期間を経て誕生した。この期間中、素材の選定やデザインの検討、縫製の試行錯誤など、細部にまでこだわり抜かれたプロセスがあったそうだ。日本国内での販売を通じて多くの支持を得た後、さらなるグローバル展開を目指している。
EIJIのTシャツは、商品特徴として以下のことが打ち出されている。
1. シンプルでタイムレスなデザイン: 性別や年齢、体型を問わず、誰もが着こなしやすいシンプルなデザインが特徴である。カジュアルな場面から少しきちんと感を持って装いたいシーンまで、幅広く活躍するアイテムである。
2. 極上の着心地: 最高級のオーガニックコットンを使用しているため、肌に優しく、長時間の着用でも快適である。さらに、長く着続けることで、自分の肌の一部のように馴染む感覚が得られる。
3. 高い耐久性: 職人技と最新技術の融合により、非常に耐久性が高く、繰り返しの洗濯にも強いのが特徴である。また、長く大事に着用できるよう生涯保証で、複雑ではない縫製のほつれや襟袖のヨレなどの修理を無償で行ってくれる(送料のみ負担)。修復が困難と思われる場合も、相談にのってくれる。適切にケアすれば、長く愛用できる一枚となるだろう。
そんなEIJIのTシャツ海外デビューの知らせを受け、あるエピソードを思い出した。それは、以前デザイナーの知人から聞いた、ダカール・ラリーのレーサーたちがレースの最中どのようなTシャツや下着を身につけるかという話である。ダカール・ラリーは長時間車に乗り続ける過酷な耐久レースだ。レーサーたちは肌に一番近い場所にクタクタに馴染んだTシャツや下着を着用するとのこと。擦れたり圧迫されたりしない、まるで空気のような存在になったものが最適だという。
新品のTシャツにはシャキッとした良さがあるが、着続けることで体に馴染み、まるで相棒のようになったTシャツもまた特別である。世の中の多くの人々は、ダカール・ラリーのような過酷なレースに参戦することはないだろうけれど、私たちの日常生活でも、ストレスフリーに楽に過ごしたいときには、体に馴染んだTシャツが心地よい時間を提供してくれる。
このように、新品からクタクタになるまで、その時々の良さを感じさせてくれつつ、長く付き合えるTシャツこそが、本当に良いTシャツと言えるだろう。EIJIのTシャツは、タイムレスなデザイン、良質な素材、優れた縫製、高い耐久性といった条件を満たしており、まさにその理想に当てはまる一枚なのではないだろうか。
筆者自身、Tシャツではないが、同じように特別な存在として愛用しているシンプルなカシミアのセーターがある。このセーターは相当年季が入っているが、冬に自宅の仕事部屋で着ていると、ホッとできる。緊張して硬くなっていた体がほぐれ、ガチガチになっていた思考が緩んでいくので、良いアイディアが浮かんでくるのだ。
EIJIのTシャツも、そんな特別な存在になるポテンシャルを持っていると感じる。実際、耐久性があることからも、手元に沢山のTシャツがある中でも、最後まで残る一枚はEIJIのTシャツになる可能性が非常に高いと簡単に算出できる。
グローバル市場へのアプローチにおける成功の鍵とは?という点で考えてみよう。日本企業がグローバル市場で成功を収めるためには、高品質な製品を提供するだけでなく、その製品のストーリーや価値観を明確に伝えることが重要である。三恵メリヤスの「EIJI」の場合は、「人生最高の一枚」というメッセージがあった。
クラウドファンディングのように、いまや世界中の消費者に直接アプローチすることもできる。ブランドが伝えたいことを訴求し、興味を持ってもらうことで、消費者とのつながりを築ける。
伝統技術とタイムレスな形を融合させた「EIJI」は、環境意識の高まりに応じたオーガニックコットンの使用や持続可能な製品づくり、長く着用できるその素材と縫製による耐久性、それだけでなく、それを実質的に補う修繕サービスにより、今後、注目を集める可能性がある。そのためには、「ブランドの一貫性」とグローバルスタンダードな意識のもと「有効なストーリーテリング」が常にアップデートされつつ継続的に実施されることが、日本国外の市場での成功の鍵となるだろう。「普遍」とされ今でも評価されている物とは、実は常に微調整されながら変化し続けているものだからだ。ブランディングとはマネジメントの成果のもとに成り立っている。そして、シンプルであるほど、それが重要であり難しい。だからこそ、EIJIを通じて、日本ブランドやその製品の素晴らしさを世界に伝えるケースがまた一つ増えることを大いに期待している。