ヤッホー×カンロ 顧客との「直接接点」を生かしたロイヤルティマーケティング

食品や飲料のメーカーでは、顧客との直接の接点は持ちづらいのが通例です。しかし、そんな製造業でありながら、ロイヤルティの高いファンから支持されるブランドは、どのような取り組みをしているのでしょうか。
カンロとヤッホーブルーイングのマーケティング担当者がSNSからEC、イベントなど顧客との直接接点を活用した、ロイヤルティに資するコミュニティ・マーケティングの実践論を議論します。

 

※本リポート記事は、2024年6月12日(水)に東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで開催した「宣伝会議サミット2024(夏)東京」のセッション内容をテキスト化したものです。「SNSを味方にして『売る』をつくるマーケティング」をテーマにしたヤッホーブルーイングの佐藤潤氏、カンロの内山妙子氏の対談の様子をリポートします。

写真 人物 写真右から、カンロ 常務執行役員 マーケティング本部長 内山妙子 氏、ヤッホーブルーイング よなよなピースラボUnit(CXデザイン)Unit Director佐藤潤 氏。

写真右から、カンロ 常務執行役員 マーケティング本部長 内山妙子 氏、ヤッホーブルーイング よなよなピースラボUnit(CXデザイン)Unit Director佐藤潤 氏。

SNSはマーケティング施策の〝どこ〝に位置づけるべき?

――自己紹介、会社紹介をお願いします。

内山:私はデザイナーとしてカンロに入社後、マーケティングを担当してきました。直営店「ヒトツブカンロ」の立ち上げや新CIの導入、ECの設立などを行いました。2018年から公報やカスタマーセンターを担当後、2024年に本部長として再びマーケティングに戻ってきました。

カンロは創業112年を迎えるキャンディーメーカーです。ピュレグミやカンロあめをはじめとする一般流通商品の他に、直営店「ヒトツブカンロ」での商品販売や、オンラインショップ「Kanro POCKeT」でEC専用商品の販売も行っています。

佐藤:ヤッホーブルーイングでECとファンイベントを担当後、現在は顧客調査・CXデザイン部門に所属して、オンライン・オフラインでのファンコミュニケーション施策の企画と運営をしています。社外活動として、一般社団法人コミュニティーマーケティング推進協会のフェローと、D2Cコミュニティー研究会の主宰・運営を担当。他メーカーと知識を共有し、より良いマーケティングを共に目指す取り組みをしています。

ヤッホーブルーイングは、長野県の醸造所に本社を置く1997年創業のクラフトビールメーカーで、メインビールは今年で28年目の「よなよなエール」です。会社のミッションは「ビールに味を!人生に幸せを!」。海外と比べて画一的な味しかなかった日本のビール市場にバラエティーを提供し、新たなビール文化を創出することで、ビールファンにささやかな幸せをお届けするというミッションになります。

――SNSの活用に関する方針と事例を教えてください。

佐藤:年に1回、ヤッホーブルーイングの製品をお客さまがどれくらい好きか、「ぞっこん度1(すっかりハマっている)」から「ぞっこん度5(なんとなく飲んでいる)」の5段階で評価していただいています。この評価をお客さまの商品購入金額で分析すると、製品が大好きな「ぞっこん度1」の方は年間55,000円(約190缶)分の弊社ビールを飲んでおり、一方「ぞっこん度5」の方は年間1,000円で四半期に一度飲むかどうかという結果になります。つまり、製品やブランドを愛してもらえれば、売り上げは必ず後からついてくると考え、「ぞっこん度」を全社的なKGIとしています。

「製品が好き」が「つくり手が好き」に発展する課程には4つのポイントがあると考えています。まず、デザインやネーミングなどの「世界観」が好きから始まり、味や香りが好きという「機能価値」へ。そして、ゆっくり癒されることが好きといった「情緒価値」、企業の顧客対応や遊び心が好きといった「つくり手共感」へとつながります。このように「製品が好き」と「つくり手が好き」の両方を生み出すコミュニケーションが実現すれば、エンゲージの高い「ぞっこん度1」のお客さまを増やすことが可能になります。

そして、我々のマーケティングとコミュニケーションでは、各お客さまがこれら4つのポイントのどこにいて、どういう取組をすれば好きを上昇させ、次のポイントへと後押しする「fit感を醸成」できるか意識しています。SNSでは特に「機能価値」と「情緒価値」を見ますね。味の良さといった機能価値の強調や、リラックス時間の気持ちの充足に寄り添ったコミュニケーションを行っています。

具体的には、SNSでは「宣伝」に加えて「知る・味わう・楽しむ」の4つのカテゴリーにコンテンツを分け、発信。宣伝やキャンペーンは当然やりつつ、それだけでなくクラフトビールの歴史や製品開発秘話、飲み頃温度やビールを美味しく飲むグラスの紹介など、お客さまが求めるコンテンツをECで公開して、SNSで発信しています。

そもそもSNSの活用方針として、SNSは販促や自社サイトへの集客、また強烈な口コミや拡散が起きない限りブランドをすごく好きになってもらうにはあまり向いてないツールだと考えています。一方、ブランドを想起し続けるコミュニケーションを低コストで取れるよさがあります。

その対極でリアルイベントは、「よなよなエール」のことをすごく好きと思ってもらえる圧倒的な体験な一方、企画や準備に時間がかかるので、毎日はできないんですよね。SNSとイベントどちらも大切なので、各々チームが連携を取りながら両方を活動を行っています。

写真 人物 ヤッホーブルーイング よなよなピースラボUnit(CXデザイン)Unit Director佐藤潤 氏。

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