メガ・バズが起きない時代の「知られ方」を考える

2024年の知られ方③「写真では伝えられないもの」

尾上:3つ目の事例は「NOMIRESTAURANT」っていう京都のレストランです。三兄弟でやっているレストランなんですが、話題になったポイントが「包丁の切れ味」でした。三兄弟のうちの1人がやたらと包丁を研ぐのが好きで、兄弟でそれで遊んだりしていたそうです。包丁を研ぎ澄ますことで食感を変えたり、味とか香りまで変わるじゃないかっていうところをとにかく突き詰めていると。「きゅうりは三本切れば切れ味が落ちる」って言うほどこだわるそうです。

嶋野: すごっ。行ってみたいね。

尾上:兄弟が捕まえてきたジビエだとか、自家製の米が食べられるそうなのですが、一つのコースで 20 本ほどの包丁使い分けて、研ぎ時間は一人 5 時間ぐらいかけてやっているそうです。自分からそんなにSNSで発信してるわけではないそうですが、お客さんが自ら語ってくれるそうです。
「切れ味がとにかくやばい」「こんなふうに野菜を食べたことなかった」というふうに、その体験を率先して紹介してくれるらしくて。何か一つで尖っておくことは、SNSでの知られ方としては有利なんだなと思いました。

嶋野: 自分の商売に近いところっていう前提で、何かに特化して徹底的にこだわり抜いて、それを情報発信していくことが大事ってこと?

尾上:体験って厳密にはシェアできないじゃないですか?

嶋野:うん。

尾上: 絵的に面白い料理なら、シェアすることで擬似的に体験した気持ちになれると思うんですよね。でも切れ味が鋭くて、ニンジンの舌触りが全然違ったんだよっていうのは映像で表現できない。見てもわかりづらいので。
なので、実際にそこに行かないと体験できないような情報を出す。もしくはその場じゃなきゃ体験できない、画像にも残しづらいものを作る。それが、あえて言いたくなるっていうふうな情報の広がり方を生むのかもしれません。

2024年の知られ方④「フィクションをリアルにする」

嶋野「空想果実グミ」って食べたことあります?

尾上: ないんですよ。食べてみたいんですけど。

嶋野:カンロさんの商品なんですが、「キラスピカの実」や「ウチャチャの実」味が販売されています。これ、面白いのが、全部フィクションなんですよ。グミは製造の自由度が高いからこそ、空想の味や食感を生み出して好奇心を刺激する体験型商品だそうです。オウンドメディアでの情報を知れば知るほど面白いというか、SNS時代だから生まれた商品だと思います。

写真 商品 カンロ「空想果実 ウチャチャの実」。

カンロ「空想果実 ウチャチャの実」。

尾上:その味をどう表現するかってところも含めて、広まる要素になってるという。

嶋野: サイトでもハンター×ハンターのグリードアイランド編のアイテムみたいな説明がされていて、こういうものを見ながら盛り上がるのはわかる気がします。たぶん“作り手が一番楽しんで作った感じ”が興味を持たれたポイントじゃないでしょうか。空想科学読本とかダンジョン飯とか、ジブリ飯もそうなんですけど、フィクションほど徹底的に細部を詰めるというか。イマーシブな食体験だなと思ってます。

写真 商品 カンロ「空想果実グミ」ブランドサイトより。

カンロ「空想果実グミ」ブランドサイトより。

尾上:面白いですね。SNSで情報があふれているから、海外の新しい調味料とか、食べたことがないものって、もうあまりないように感じるじゃないですか。そこにきて 、SF の世界にそのニーズが向かっていくというか。

まとめ:「知られ方」から「見つかり方」へ

嶋野: 今回の事例集め、結構大変じゃなかった?(笑)つまり「知られ方」がめちゃくちゃ難しくなってる…。

尾上:むしろ我々が誰かに教えてほしい感じがありますね。この状態が何なのかっていうのを歴史的に紐解くと、情報爆発と言われるものがこれまで 3回あったと。1回目が文字の発明ですね。それまで口伝とか、言い伝えでしか残ってなかったものが文字になることで情報として広まるようになったと。2回目が活版印刷。それによって文字が複製可能になって大量に広まるようになった。
そして、3回目はまさにいま。インターネットの時代になって、もう誰しもが発信できて、その情報構造上のヒエラルキーがもうほぼない状態に。SNSがこれほど普及しきる前は情報発信の技術で知られることもできましたが、アルゴリズムがここまで変わると単発のバズしか期待できない気もします。

嶋野:かといって安易なバズ狙いだと、「知られたいこと」が伝わらない気もして。結局どうしたらいいんですかね?

尾上: 結局変なことやって目立っても意味がないので、自分のブランドに近いところで、それを突き詰めてやることだと思います。そうすれば、いつか誰かに見つかる時に付与できる情報も増えるわけですし。やり続けることがきっかけになるので、それを積み重ねることしかないと思います。

嶋野:そういう意味では、もしかしたら2024年以降の知られ方って「見つかり方」なのかもですね。どうすれば他の人に、特にSNSユーザーに見つけてもらえるかという。読んでいたいだみなさまのご意見やご感想もぜひ聞いてみたいです。

尾上:そうかもしれませんね。概ねは本で書いたことと同じかもしれませんが、より、本質的に自分の好きなこと・得意なこと・求められることを突き詰め続けることが、見つかるための尖り方になって、見つかったときにズレがない状態といいますか。言うは易し、行うは難しではありますが。引き続き、我々も考えていきたいです。

『なぜウチより、あの店が知られているのか? ちいさなお店のブランド学』(嶋野裕介・尾上永晃著)

定価:1,980円(本体1,800円+税)

SNSとPRで悩むショップオーナーのみなさまへ。あなたのお店が「知られる」方法をお伝えします。多くの個人や企業がネットショップやSNSを通じてビジネスする時代に不可欠な「SNSで注目される・知られる」ための方法を、現役広告プランナーでありSNSとPRのプロである著者2人が解説。SNS発信で使える17の技も大公開。

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嶋野裕介(しまの・ゆうすけ)

電通
クリエーティブディレクター/ブランディングディレクター

マーケ、営業を経てクリエーティブへ。主な仕事に「BOSS×ゴジラシリーズ」「BOSS×ウマ娘(担当者K/タンタンタケユタカ」「ストロングファイター」「#金曜日の新垣さん」「3cm market」「ぷよりんご」「暗号学園模擬試験」など。『なぜウチより、あの店が知られているのか?』を宣伝会議より出版。

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尾上永晃(おのえ・のりあき)

電通
FC室
プランナー/クリエイティブディレクター

企画と実行をがんばって生きている人間。大学時代は探検部の部長として石を40kg背負って山を登ったりしていた。最近ふと思いたち当時の部を調べたらなぜかポップ目な写真部に生まれ変わっていて衝撃をくらった。自分も最近、あたらしいつくり方をつくれないかと新しく立ち上がった部署に異動しました。

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