仲畑貴志さんに聞く、「好きだから、あげる。」「おしりだって、洗ってほしい。」など名作コピーが生まれるまで 前編

メモ帳に書いた字コンテでプレゼンしたトリスの広告

門田:次は1981年のトリスのコピー「トリスの味は人間味」ですね。

「雨と犬」篇

NA:いろんな命が生きているんだなぁ~
元気で。とりあえず元気で。
みんな元気で。

S:トリスの味は人間味。

(サントリー/トリス/1981年)

出典:コピラ

仲畑:このトリスのCMは、「こんなことができるんだ!」と自分でも驚いた仕事でした。というのも、依頼されたわけではなく、「こういうのがやりたい」と個人的な想いだけで自分からサントリーに出向いて、当時の宣伝部長にプレゼンしたことが発端ですから。当時はまだ若かったから(笑)。でも、部長から当時の社長である佐治敬三さんに伝わり、「やってみなはれ」となったんです。

絵コンテを書いたりする予算が無いわけですから、プレゼンに使ったのは銀行のメモ用紙。1枚目に「主人公、犬一匹」、2枚目に「時は、たそがれ時。」と、文字だけのコンテをつくりました。僕の故郷・京都の街中を、子犬がさまようという企画。企画当初は商品が決まってなかったんです。でも、これは企業広告だということで、最終的にサントリーの出発点であるトリスに着地しました。

門田:このテレビCMはカンヌライオンズで賞を獲りましたね。

仲畑:当時、サントリーは『日曜洋画劇場』(テレビ朝日)のスポンサーで、まず、そこでオンエアしてくれたんです。その反響がよくて広く展開して、カンヌライオンズ金賞までいただいてしまった。

門田:いま見ても国や時代を問わずに通じるクリエイティブだと思います。撮影には、黒澤明監督率いる黒澤組の皆さんが参加したんですよね?

仲畑:当時、CMのスタッフにも優秀な人はたくさんいたけど、人間じゃなくて犬が街中をウロウロしている姿を撮ってもらうわけだから、ある程度のスケール感をもって撮影しないと、映像として成立させるのが難しいなと思ったんです。それで、監督は僕が若い頃からお世話になっていた高橋典さんに、そして撮影に宮川一夫さん、照明に佐野武治さんという黒澤組にお願いしました。

門田:ちなみにこの「トリスの味は人間味」というコピー、人間に味という字をつけることはこれまでなかったと思うのですが。

仲畑:自分では、あのコピーはそんなにいいコピーだと思わない(笑)。こういう表現にしたのは、おそらく時代性もあったと思います。ヒューマン・アプローチの時代でしたから。それより、「とりあえず元気で」という方が好きですね。

門田:このCMは、サン・アド在籍時の制作ですね。

仲畑:サン・アドには、僕らの先輩である開高健さんや山口瞳さんがいたから、こんなふうに人の心にアプローチする文化があったんです。それに、当時のサン・アドには品田正平さんというコピーのボスがいて、彼のチェックが厳しくてなかなか通らなかった。いま振り返ってみると、品田さんがチェックしていたのは誤用やレトリックでしたね。「もっと簡潔に言えるだろう」とか、そういうチェックが多かった。

ただ、本当に厳しかったですね。締切が迫っているのに、品田さんは平気で「No」と言う(笑)。コピーを見せた瞬間に、「良くないなぁ~!」って言うんです。そうしたら、「も少し考えます」って言うしかないじゃない。

門田:それはよくわかりますね。仲畑広告在籍時に、僕らも仲畑さんにさんざん「No」と言われましたから(笑)。

仲畑:そう?「No」なんて言った(笑)?

門田:もう、めちゃくちゃ言ってましたよ(笑)。「なぜダメなのか」は絶対に言われませんでしたけど。

仲畑:なぜダメなのかを言ったら、そこで僕が書いてしまうからですよ。

門田:そうなんです。仲畑さんが書いた方が圧倒的に早いですからね。

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