仲畑貴志さんに聞く、「好きだから、あげる。」「おしりだって、洗ってほしい。」など名作コピーが生まれるまで 前編

「だって好きなんだもん」を勝ち取る

門田:次は1981年の丸井のコピー「好きだから、あげる。」です。

好きだから、あげる。

(丸井/企業/1981年)

仲畑:「好きだから、あげる。」は、贈答キャンペーンじゃないですけどね。論理は新潮文庫の時と同じ。この時、僕が勝手に仮想敵としたのは、三越。お中元・お歳暮でも強い三越は「義理だから、あげる」、こちらは「好きだから、あげる」。この頃の自分は敵の広告を利用することを面白がって、比較的そういう思考方法を取っていました。

門田:僕らの世代にとってこのコピーは、「仲畑さんが新しい価値観を生んだ」という教科書のような存在。「義理だから」の対比になっていたというのは意外でした。

仲畑:意外と戦略的だったんですよ。「義理だから、あげる」に対して、丸井にはプレゼントにしたいくらいクオリティの高いものがあるということのメタファーですね。ただ、この対比は僕が勝手に考えただけで、プレゼンでは話していません。

門田:この広告は、グラフィックの展開が多かったですね。

仲畑:最初は、盆栽なら盆栽の形に包む、自転車なら自転車の形に包むというように、あげるものを選択した時の想いがパッケージとして現れたら面白いと思って、心が形で現れるものを包むという企画を考えていました。でも届けたいのは、モノではなくて心なのだから、「人」そのものを包むのはどうかと提案したところ、当時の丸井の包装紙で人を包むという企画に変わりました。

門田:仲畑さんはCMやグラフィックのアイデアを考えることも多いですが、コピーとビジュアル、どちらが先に出てきますか。

仲畑:大体同時に出てきますね。グラフィック出身の僕がテレビCMをこれだけつくってこられたのも、15秒という時間の制限があったからだと思います。僕がつくったCMは画面がフィックスしているものが多いのですが、それは15秒を大きなポスター1枚だと思ってつくっていたからです。

コピーは書いた時点で、「これは爆発するな」というのが見えることがあるのですが、丸井のコピーは「できた!」と思えたコピーの一つです。

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