『「感動体験」で外食を変える 丸亀製麺を成功させたトリドールの挑戦』
9月6日発売/粟田貴也著/定価1,980円(本体1,800円+税)
暖簾をくぐると、目の前には積み上げられた小麦粉の山、製麺する職人の姿と麺を切る音、湯気がもくもくと立ちこめる茹で釜。釜で茹でられるうどんは、国産小麦を使用した打ち立てもちもちの麺です。鼻をくすぐるのは、小麦粉の香りと毎日引いているだしの香り。足を進めると、ずらりと並ぶ揚げたての天ぷらと活気のある店員たち。まるで製麺所にいるかのような五感に訴える臨場感のある光景が、全国の「丸亀製麺」で見られます。
私は丸亀製麺などの飲食ブランドを展開する、トリドールホールディングス代表取締役社長の粟田貴也と申します。
丸亀製麺は、私が香川県の製麺所で感じた感動を全国の皆様にも体験していただけるように、と考えて開発したブランドです。すべての店で、塩・水・小麦粉から職人たちがうどんを作り、できたてのうどんを食べる体験と、自分でサイドメニューを取ったり薬味を盛りつけたりするセルフうどんの楽しさをかけ合わせた業態で、現在日本全国に約850の店舗があります。2022年にはホテルや航空会社なども含めた顧客体験価値(CX)ランキング(C Space Tokyo調べ)で1位をいただくなど、たくさんのお客様にご支持いただいています。
「丸亀製麺」の店内。入店してすぐ、製麺やうどんを湯がく様子が目に入る。
トリドールでは、丸亀製麺の他にコナズ珈琲や肉のヤマ牛など、国内で11ブランドを展開しています。2011年にはハワイに丸亀製麺の海外ブランド「Marugame Udon」を出店。2015年からはM&Aでさまざまな業態をトリドールグループに迎え入れ、現在、約20の飲食ブランドを世界28の国と地域に1979店舗(2024年6月現在)展開しています。
約20の飲食ブランドを世界28の国と地域に展開。
東証プライム上場、年間売上収益約2300億円超の大企業になったトリドールホールディングスのはじまりは、兵庫県・加古川にオープンした小さな焼き鳥屋でした。「将来的に3店舗出したい」という願いを込めて、1号店なのに店名は「トリドール3番館」。創業当初の「トリドール3番館」(現在の『やきとり屋 とりどーる』)には閑古鳥が鳴いており、3店舗どころか1店舗を続けていけるかどうかもわからないような有様でした。この苦労が忘れられず、私には今でも「焼き鳥屋のおやじ」のマインドが染み付いています。
自分で手書きした創業店「トリドール3番館」の看板。
1号店の店名からもわかるように、私は昔から、その時点では大言壮語と思われる大きな目標を口にしてきました。家族経営をしていた時代に「上場する」という目標を立て、丸亀製麺が国内200店舗くらいの時には「1000店舗出したい」と周りに言っていました。今は、世界で約4000店舗を超えるグローバルフードカンパニーを目指しています。「飽くなき成長」が私のモットーです。町の一番になれたら、その地域の一番に。そして日本一、次は世界一とステージが上がるたび、次の目標が見えてきます。
小さな焼き鳥屋から創業したトリドールがここまで大きくなれたのは、2つの理由があると考えています。一つは「感動」という体験価値を中心に据え、チェーン化してもその根幹を変えなかったこと。丸亀製麺は1号店の開業から今にいたるまで、必ず店舗で製麺し、打ち立て・茹でたてを提供しています。非効率と言われようとも、セントラルキッチン方式は採用せず、つくりおきもしません。それは、打ったばかりのうどんをその場で茹でて食べる製麺所の感動こそが、丸亀製麺の強みだと考えているからです。海外展開においても体験価値を重要視する方針を貫いており、M&Aしたのもすべてお客様の目の前で調理をしたり、選ぶ楽しさがあったりする業態です。
もう一つのポイントは、「人」です。人を感動させられるのは人に他ならない、と私は思っています。丸亀製麺では調理も接客も自動化しません。人がつくり、人が提供する。時には、揚げたてを食べていただくために、お客様のオーダーを受けてから天ぷらを揚げることもあります。スタッフとの何気ない会話も、体験価値の一つです。
「揚げたてです」—そんなスタッフとの何気ない会話も、体験価値の一つ。
トリドールは人こそが最も大事な強みの源泉だと認識しています。とはいえ、少子化の進む日本において、これから人手不足が深刻化することは明白です。ただでさえ、飲食業界は慢性的に人手不足に悩まされており、特にチェーン店では配膳ロボットやセルフレジの導入などの省人化が猛スピードで進んでいます。
しかし、トリドールはその反対を行こうとしています。各店舗に手厚くスタッフを配置して、長期に渡って働く社員・パートナースタッフを増やし、その地域で長く愛される店を一緒につくっていきたい。
そのため、2024年からは「働く人の幸せ」を主軸においた経営改革に全社を上げて取り組んでいます。待遇・環境改善を進めるのはもちろん、ソフトとハードの両面から約4万人の従業員が生き生きとやりがいを持って働けるさまざまな施策を打っていきます。
「働く人の幸せ」が感動をつくり、結果的に利益につながる。そう考えを切り替えることで、今までは売上目標に追われていた店長の仕事も大きく変わるでしょう。数字よりも従業員のサポートやコミュニケーションを重視し、店長自身もゆとりを持って働ける環境をつくっていくことになるからです。
目指しているのは、店や職場を働く人にとってかけがえのない居場所にしていくこと。そうすれば、飲食業界では難しかった「人が辞めない職場」を実現できるかもしれません。この改革の詳しい内容は第4章で紹介します。
4章で紹介する従業員向けコミュニケーションアプリ「ハピ→カン!コミュニティ」。
本書は、成功した起業家の自伝、なんてものではありません。トリドールはまだまだ成長途中であり、人に関する施策をはじめとして試行錯誤をしているところです。毎年のように新しいことを始め、失敗と成功を繰り返しています。
それでも、小さな成功体験を積み重ねていけば、世界で戦える会社になれるのです。外食産業という可能性に満ちた領域で挑戦している、こんな会社があることを知ってほしいと思い、筆を執りました。本書を通じて、外食産業のダイナミズムやおもしろさを伝えられれば幸いです。
『「感動体験」で外食を変える 丸亀製麺を成功させたトリドールの挑戦』
9月6日発売/粟田貴也著/定価1,980円(本体1,800円+税)
なぜ「丸亀製麺」はうどん業界でぶっちぎり1位の繁盛店になれたのか?トリドールホールディングス創業社長・粟田貴也氏による初の著書。一軒の焼き鳥屋から始まり、国内外約20ブランドを持つグローバルフードカンパニーへ。創業から現在に至るまでの軌跡と、その快進撃を支えた異端のリーダーシップを解き明かす。