コピーを入れると広告の「到達率」が変わる
門田:次は1986年のパルコのコピー「昨日は、何時間生きていましたか。」ですね。この時は、パルコ側からどんなことをやってほしいというオリエンがあったのでしょうか?
昨日は、何時間生きていましたか。
(パルコ/ポスター/1986年)
仲畑:これは井上嗣也さんがADだったのですが、キャラクターに内田裕也さん、フォトグラファーに加納典明さんを起用したから、「暴力系がみんな集まった」「空中崩壊する」と言われていました。
当時、パルコは基本的に企業広告を展開していて、一つの商品ではなく、パルコという大きな器を売っていました。どちらかと言えばとんがった表現が多かったですね。でも、広告に対する許容力があったので、オリエンでも「具体的な要望」みたいなことは一切ありませんでした。ある程度自由だからこそ、逆にこちらもいいものをつくらないという想いはありました。
門田:内田さんを起用したのは?
仲畑:当時、彼は俳優として映画によく出ていて、『コミック雑誌なんかいらない』などで評価も高かったし、「今は彼がイケてる」ということから起用したと思います。とはいえ、彼を褒めそやしてもしょうがない。ああいう人をカッコよく撮っても、予定調和になっちゃうでしょう。だから、彼が突破しなきゃいけないものを一つ設定しようと考えていました。それで思いついたのが、汚い川で泳いでもらおう、という企画。それもニューヨークのマンハッタンで。それぐらいやらなきゃダメだと。あそこで泳いだら、当然汚れた水が口の中に入るから、アフリカに行く時以上に注射を打つことになったそうです。このロケに僕は行けなかったのですが、光の都合でイーストリバーとハドソンの両方で撮影したみたいですね。
門田:コピーは、絵が決まる前に出来上がっていたんですか?
仲畑:先に何本か書いていましたね。なぜあのコピーになったかといえば、内田さんがロックをやっている人だからとロックンローラー寄りの言葉を書いても膨らまないし、むしろやせていく。彼のレコードジャケットならいいけど、パルコには必要がない。文化というものはもっと複雑なものだから、そういう自明なことはひとまず全部隠してしまおうと。あえてそういう言葉は使わず、襟を正した「ですます調」にしようと決めました。僕は、そういう設計を割と大事にしていますね。だから、コピーも「昨日、何時間寝ていましたか。」という言葉遣いにしました。クエスチョンマークはつけていないけれど、疑問形にすることで、読んだ人に考えてもらえるような余白をつくろうと思いました。
門田:近年の傾向として、パルコのようなファッションビルの広告にコピーが入らなくなってきていますね。
仲畑:コピーを入れないのは、もったいないよね。入れるだけで到達率が断然変わるのに。もちろん、「映像がしゃべる」表現があってもいい。ただ、言葉がないとどうしても届きにくくなるんです。あと、僕らは「スゴい映像」にもう飽きてしまっている。そんなもの、ネットでいくらでも見ることができるし、巷にあふれていますからね。