仲畑貴志さんに聞く、「ベンザエースを買ってください。」「目のつけどころが、シャープでしょ。」など名作コピーが生まれるまで 後編

門田:次は1986年に書かれた九州福岡にある百貨店、岩田屋のコピー「私は、あなたの、おかげです」。岩田屋さんのコピーも長く続けられましたね。

私は、あなたの、おかげです。

(岩田屋/ポスター/1986年)

仲畑:長かったですね……。岩田屋のコピーは、福岡でのポジショニングを前提に書いているコピーです。岩田屋という百貨店が福岡の人たちにずっと寄り添い続けてきて、そのことが町の人たちにも伝わっているという前提があるからこそ、こういうナイーブなコピーが成立する。特に先代の社長は人格者で岩田屋の利益よりも、博多や天神に対して愛情を注ぎ、その発展に努力をしてきた方。そんな岩田屋が「私は、あなたの、おかげです。」と言えば、福岡の人たちには十分に届くと思いました。ただ、そこにこのコピーの特殊性があるから、絶対によそでは使えないし、東京の百貨店でやっても意味がない。

門田:僕はこのポスターが掲出されたとき、福岡でまだ学生でした。犬と猫の写真が使われた、このシリーズは毎回、ポスタープレゼントをやっていて、その度に行列ができるのを見ていました。岩田屋に来たお母さんたちが、みんなこのポスターを欲しがっていましたよね。

仲畑:犬と猫というカワイイものを、両方ポスターに持ってくるという(笑)。

門田:このキャンペーンは、2年ぐらい続きました。最後の方はトラとクマが登場して、なんだか変なことになっていましたが(笑)。

仲畑:まぁ、地域特性がある表現ですね、これは。僕は「楽して効果があるのがいい」と思っているので、最初は犬と猫の後ろ姿を撮影しました。それがだんだん飽きてきたから、いろんな動物を組み合わせてみたんです。岩田屋もパルコと同じで館としての広告だったので、毎年何かしらのテーマを決めて展開していました。憂歌団の内田勘太郎さんの音楽で「思い出の町」の写真を使ったり、シーナ&ロケッツの鮎川さん親子に出演してもらったり。地方は予算が小さいので、工夫しながらやっていましたね。

門田:コピーでいうと、これは「私は」で点をつけて、「あなたの」で点をつけていますね。

仲畑:これは自分の癖でもあるのですが、点をつけると、そこでストップして、読む人が少し首をかしげる時間になる。

門田:確かに、流れがゆっくり変わっていく感じがします。

仲畑:つまり余白の時間ができます。それはコピーにおいて、非常に有効だと思っていますし、ま、ひとつの技術ですね。

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