インナー向けのコピーには「中の人」を勇気づける力がある
門田:次は1990年のシャープのコピー「目のつけどころが、シャープでしょ。」ですね。これは、本当に多くの日本人が慣れ親しんだコピーです。
目のつけどころが、シャープでしょ。
(シャープ/企業/1990年)
仲畑:このコピー、実は東京限定のキャンペーン用につくったワードでした。それがうまくいったことで全国展開になって、結局はシャープのタグラインにまでなっちゃったんです。
門田:僕が仲畑広告在籍時に、隣の席にいた副田高行さんがキービジュアルの目から出ている点々の幅を変えているのをリアルタイムで見ていました。
仲畑:面白いことに、何度かこんなことを言われました。「最後のナレーション、良いですね」って。でも、あれ一度もナレーション入れてないんです。ラストカットに出る、副田さんがつくった目線の点々を追うことで、みんな耳で聞いているような錯覚に陥る、という。あれは面白かったですね。
門田:そもそも「目のつけどころが、シャープでしょ。」という言葉は、どこから出てきたんですか?
仲畑:これは思いつきです。特別技巧を凝らしたわけではなく、素直に出てきたコピーですね。シャープという企業はものすごく先進的で、他のメーカーに比べてクリエイティブな新商品をいっぱい出しています。それを素直に言語化しました。このコピーができたことで、「うん、おれたちはそこをやっているよね」と勇気づけることができ、社員の皆さんが喜んでくれたそうです。こういうコピーは、中の人を勇気づける役割も持っていますね。
コスモ石油のタグライン「ココロも満タンに」も同じで、インナーに向けて書いています。あのコピーは、ガソリンスタンドで働いているアルバイトが見た時に、ガソリンで物理的に満タンにしているだけじゃなくて、心も満たさなきゃってことを考えてほしいと思って書いたものです。
あと、企業名や商品名をコピーに入れ込む時、それによって広告そのものやコピーがチャーミングになるのであればいいんだけど、実はなかなか難しい。なぜなら企業名や商品名って、やっぱり「下心」でしょう?それが見えてしまうと、人柄やチャーミングなど到達できるはずだったものがかなり損なわれてしまいます。逆に言えば、それができれば、きちんと伝わる名コピーになりますね。