仲畑貴志さんに聞く、「ベンザエースを買ってください。」「目のつけどころが、シャープでしょ。」など名作コピーが生まれるまで 後編

自分たちの事業を再認識してもらうための言葉

門田:最後に、1992年の九州旅客鉄道のコピー「愛とか、勇気とか、見えないものも乗せている。」です。

愛とか、勇気とか、見えないものも乗せている。

町と街の間に
JR九州

(九州旅客鉄道/ポスター/1993年)

仲畑:このコピーもJR九州を利用する人だけではなく、インナーにも向けたもので、シリーズで3つのグラフィックとCMをつくりました。

JR九州が展開しているのは、鉄道事業。さまざまな荷物を運んだり、人を運んだりする中で、常に安全を第一に考えている。いま運んでいるのは仕事疲れのお父さんかもしれないけれど、あなたたちが運んでいるのはそれだけじゃないよ。愛とか勇気とか、電車に乗っている人たちが心の中に持っている大切なものも一緒に運んでいるんだよ、ということを社員の皆さんに再認識してもらうためのコピーです。そのことに対してプライドを持ってほしいし、だからこそ安全の工夫もしてほしいということも改めて伝えています。

門田:このコピーは、若手のコピーライターみんなが好きです。CMもカッコよかったですね。忌野清志郎さんの歌に乗せて、夕暮れの空が広がる景色の中、列車が走っていく。

仲畑:清志郎の歌の歌詞も書きました。清志郎のファンでしたから。ポスターもCMも藤井保さんに撮影してもらいました。はっきりと映しすぎるとそれまでなので、夕暮れや明け方にあえてぼんやりと列車を撮影してもらっています。列車が走る様子って鉄道マニアに撮り尽くされているので、映像を暗めにして、なるべく見たことがない絵を目指しました。どれも暗いけれど、映しすぎないから見えてきたり、伝わるものもあるんですよね。ただクライアントには「暗いですね」と言われましたが。

門田:今年3月に鎌倉の「アピスとドライブ」で「糸井重里と仲畑貴志のコピー」展が開催されたとき、僕も寄稿させていただきました。仲畑さんのコピーから好きなものを選んで文章を書いたのですが、「コピー年鑑」に掲載されているものという決まりがあったので、JR九州の「ひとりごとが多いのは、東京にばかりいるからじゃないかな。」というコピーを選びました。でも、本当は中島みゆきのシングルレコードのコピーを選んでいたんです。

殺してやろうと思った。
けど、中島みゆきを聴いて、
やめた。

(ポニーキャニオン/中島みゆき/1992年)

門田:これも井上嗣也さんがADで、当時の仲畑広告の事務所に送られてきて、壁にポスターが貼られたのを見て驚いたんです。顔のアップというビジュアルもインパクトがあったのですが、それ以上に驚かされたのが、このコピーでした。それまでとは違う、仲畑さんの内面を見た気がしました。

仲畑:こういう時にしか、こういうコピーって書けないんですよ。引き取る人がちゃんといないとね。

アーティストの場合、その人なりの世界観が存在しているので、商品とは違うかたちで、その人に当てて書いて提案ができます。かつてサザンオールスターズの桑田圭祐さんのポスター用に書いた「アホでもいいよ、元気なら」(1988年)というコピーもそうだけど、人物やその活動そのものが商品の場合は振り抜けることができるんです。その世界観に乗っかってコピーが書けるのは楽しいし、ふつうの商品広告では使えない言葉も使うことができますから。でも、ちゃんと着地できるなら、企業でもそういうコピー書きたいんですけどね。まぁ、ふつうはできないかな(笑)。

門田:仲畑さんの仕事を見ていると、昔の広告ってやっぱり面白いし、素直に「いいな」と思えます。

仲畑:それはやっぱり、昔は個人が成立していたからじゃないかな。最大公約数的なものって、匂いも世界観もないわけだけど、「個」というものには異論こそあれ「興味深い何か」がある。そこの良さなんだろうね。今はどんどん脱色していかざるを得ないわけだからね。SNSなんかのいろんな声を気にするうちに、いつの間にか「個の主張のない状態」になっていくわけですよ。でも、ここしばらくは、匿名の投稿意見を気にして、振り抜けない広告表現の時代が続くでしょうね。でも、必ず、クリエィティブの時代が来る。だって、そのほうが面白いんだもん。

門田:なるほどSNSって個人の意見のようで実は違いますもんね。匿名が多いし団体性も強い。勉強になります。まだまだ聞きたいコピーがたくさんあるのですが、今日はそろそろこの辺で。

仲畑:いつでも何でも聞いてくれて構わないよ。今度また飲もう。

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仲畑貴志

トマト コピーライター/クリエイティブディレクター

1947年京都市生まれ。広告企画・制作、マーケティング戦略、新製品開発などが専門。数多くの広告キャンペーンを手がけ、カンヌ国際広告祭金賞のほか数々の広告賞を受賞。代表作は、サントリートリス「雨と仔犬」、TOTOウォシュレット「おしりだって、洗ってほしい。」など。東京コピーライターズクラブ会員、東京アートディレクターズクラブ会員。事業構想大学院大学教授。また、毎日新聞紙上で「仲畑流万能川柳」の選者も務める。

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門田陽

門田コピー工場 コピーライター/クリエーティブディレクター

1963年福岡市生まれ。福岡大学人文学部卒業後、西鉄エージェンシー、仲畑広告制作所、電通九州、電通を経て2023年4月より独立。TCC新人賞、TCC審査委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。

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