ヤングカンヌ本選で敗退…電通の営業&クリエイターの海外コンペ体験記

世界最大級の広告賞「カンヌライオンズ」の若手向けコンペ「ヤングカンヌ」の国内予選を通過し、PR部門の日本代表として本選に出場するも入賞を逃した電通の厚木麻耶さん、東加奈子さん。

前篇では、予選を通過するまでの戦略、準備したことなどを振り返ってもらった。

後篇となる本記事では、ヤングカンヌPR部門の日本代表に選出されてから本選までの期間に準備したこと、本選の戦いで得た気付き、また入賞を逃した自身の作品の振り返りとゴールドを受賞したシンガポールのチームが評価されたポイントなどをお届けする。

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厚木麻耶(あつき・まや)Maya Atsuki

クリエーティブ・テクノロジスト/コミュニケーション・プランナー。栃木県生まれ栃木県育ち。 やんちゃな父親に育てられたことで、義理と人情に厚く、情熱的。真面目なところにはめちゃくちゃ真面目。 展示・空間体験設計、テクノロジーが好き。

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東 加奈子(あずま・かなこ)Kanako Azuma

ビジネスプロデューサー。就活時から営業志望。クリエイティブな案件を生み出せるビジネスプロデューサーになりたい、という想いからコンペに挑戦。

準備篇 模擬練習とフィードバックで力を付ける

皆さんこんにちは。後篇は営業の東が担当します!

代表に選出いただいてから半年間、私たちはとにかく何度も模擬練習を繰り返しました。オリエンから企画提出までにかけられる日数が1週間の国内予選とは異なり、カンヌ予選のタイムリミットは24時間。

時間の使い方はもちろん、意思決定のスピードも全く異なります。過去問を使った練習を行うなどして時間の使い方や、「どれだけ苦戦しても、企画書を作り切る力」を身につけました。

実データ グラフィック 模擬練習で制作した企画

実際に24時間でいくつかの企画を制作した。

半年間でもっとも学びが大きかったのは、模擬練習の企画に対して社内外の先輩方からいただいたフィードバックです。

例えば、「企画書の冒頭3ページにアイデアがあるか」「実施可能性をとことん突き詰めたか」「プロジェクトの仲間になってくれる人をどれだけ集められるか」など、同じ企画でもいただくフィードバックはさまざま。「なぜこの人のフィードバックとあの人のフィードバックは違うのだろう」と深掘りすることで、それぞれの人の「良いPR」の定義が少しずつ見えてくるとともに、自分たちの思考の癖にも自覚し始めました。

私たちはふだん広告会社で働いていることもあり、どうしてもクライアントの企業・サービス起点で考えがち。ターゲットの文化的背景や生活習慣を意識して、ターゲット起点で発想する練習も意識的に行いました。

写真 2人が読んだ書籍

2人でそれぞれ書籍を読み込み、「良いPR」について半年で解像度を高めた。

カンヌ本選篇 迎えた本番、オリエン

そのような準備を重ねて、いよいよヤングカンヌ本選に挑戦。

しかし、結論から伝えると入賞はできませんでした。企画の中で、どこをコアにするべきかが捉えきれなかったのが敗因かと思っています。

PR部門の課題は、次の内容でした。

・クライアント:モロッコのホームレス支援NGO団体Jood
・課題:ホームレスの人の就労支援・団体の資金集めのために始めたケータリングサービス(Jood Kitchen)を企業に導入させるPRアイデア

最初に感じたのは、過去の課題と比べて、内容がかなり細かい。例えば「ホームレス支援のためにこの団体はどんなPR施策を展開すべきか?」などの課題を想定していましたが、実際の課題ではケータリングサービスを展開することまで決まっており、オリエンの現場がざわつきました。

加えて、クライアントがモロッコの団体ということで英語の文献がほぼなく、オリエン後には各国代表がクライアント担当者のもとに集い、1時間にわたって質疑応答が行われました。

写真 オリエン

オリエンは19時から、会場の地下ステージにて行われた。

視点が異なるゴールド受賞チームの企画

Jood Kitchenのオリジナリティは大きく2つ。ひとつ目は、ケータリングで提供する食事はホームレスの人がつくっていること。2つ目は、Jood Kitchenに支払ったお金はホームレスの人への支援に繋がること(ランチを食べると、ホームレスの人の支援に繋がります)。

ゴールドを受賞したシンガポールチームの作品のコアアイデアは、ホームレスの方がつくる食事を「税控除を受けられるお弁当」として見せていく、というものでした。「Jood Kitchenで食事をすると寄付になる」ではなく、「寄付すると食事がついてくる」座組みに転換することで、購入者が税控除を得られる仕組みにしたのです。

実データ グラフィック 「Lunch (Tax) Break」

ゴールドを受賞した「Lunch(Tax)Break」(シンガポール)。

多くのチームが「ホームレスの方がつくる料理」自体の価値の見せ方を模索する中、ゴールドの案は「寄付」という1レイヤー上の、仕組み自体に価値を見出した、視点の異なるアイデアでした。

一方、私たちの企画は、「ホームレスの人がつくる料理」の価値を掘り起こし、その見せ方を探る方向に舵を切っていました。

提出した企画は次のとおり。

タイトル:The GRITtiest CAFETERIA in the world

説明:ターゲットの意志決定者が社員食堂に求める価値は、従業員のエンパワーメント。企業の生産性向上の要素として近年ビジネスで注目される「GRIT(やり抜く力)」という概念があるが、「実は今回働くホームレスの人は、厳しい状況でも奮闘するGRITな人である」という発見から、Jood Kitchenを「人生の先輩であるホームレスの人が従業員をエンパワーメントする食堂」と位置づけ、企業の意思決定層にアプローチするもの。

実データ グラフィック The GRITtiest CAFETERIA in the world
実データ グラフィック The GRITtiest CAFETERIA in the world

実際に提出した企画。

注目したのは、「どんな困難を前にしてもやりぬく力」を指した、GRITという概念です。世界中の著名人が登壇するプレゼンイベント「TED」で提唱されてから、成功者に共通する力として近年ビジネス界で注目されていて、GRIT力を従業員に身につけさせるために苦心している企業も多々あるそうです。

Jood Kitchenで働くホームレスの方は、家のない苦しい生活を耐え抜き、再起を図っています。どんな困難の前にも諦めず克服する姿は、まさに「GRITな人」だと考えて企画を考案しました。

実データ グラフィック The GRITtiest CAFETERIA in the world

企画では、ホームレスの人たちを「GRITな人」だと伝えた。

考案する際は、「ターゲットである企業の意思決定層がケータリング・社員食堂に求める価値」と、「Jood Kitchenが提供しうる価値」が重なる部分を探す作業から着手しました。

グラフ ターゲット層と課題のポイントの整理

企画を考案する際に、ターゲット層と課題のポイントを整理した。

写真 人物 複数スナップ 厚木麻耶、東加奈子

提出締切の2時間前、企画の詰めに時間がかかり焦っていたときの2人。

ゴールド受賞チームと比較し、本選を振り返る

審査員の方からは、次のようなフィードバックをいただきました。

・審査員の講評:

「モロッコの人たちにこれが本当に刺さるのか確信が持てなかった。PRというよりはAD(広告)っぽい施策」。ターゲットのニーズとの整合性を強く意識し企画を組み立てたものの、モロッコという土地との“cultural relevancy”を意識した前段をつくれたら、より企画を強固にできたかもしれません。

振り返ると、「ホームレスの人がつくるからこそのケータリングの価値」を発見するという企画の方向性は、かなり困難だったと今では思います。実際、ゴールド以外の多くのチームが同じ道をたどり、同じく苦戦していました。

今回、アイデアの中でどこをコアに据えるべきかの検討の時間を十分に確保できなかったのは反省が残ります。今後はコンセプトを考案したら、コンセプトの解像度をあえて上げたり下げたりしてみることで、どこをコアアイデアに据えるべきかをじっくり検討し、そのうえで、コアアイデアを強化するEXECUTIONを導き出したいと思います。

写真 カンヌライオンズのステージ

各部門のゴールド受賞チームは、カンヌライオンズのステージで表彰された。

「PRとAD(広告)の違いってなんだ?」という段階から、半年間でさまざまな先輩にお話をうかがい、企画の練習をしたことで、自分たちの中でのPRの解像度は確実に高まったと感じています。

審査員の方に「どちらかというとAD(広告)っぽい企画だね」と言われたことは非常に悔しいですが、堂々とPRパーソンを名乗れるようになるまで、挑戦を続けていきたいと思います。

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