「インベスタージャーニーマップ」を基にした、モスの個人株主施策


今回のコラムでは、私が個人株主にヒアリングして作成した「インベスタージャーニーマップ」と当社の個人株主施策についてお話をします。

「インベスタージャーニーマップ」とは、私の作成した造語で「カスタマージャーニーマップ」の対象を個人株主に置き換えたものです。

フィリップ・コトラーが、「マーケティング4.0」の中で定義する「カスタマージャーニーマップ」の5Aのフレームワークに新たなAである「ACT ACTIVELY(自発的な行動)」を加え、6Aのフレームワークで構成しました。

これは、個人株主の意識変容や行動変容を促すには、4つ目のA(ACT)以降が重要であるという仮説に基づいたものです。これにより、個人株主との関係構築において、企業側の対策が整理できます。

▼フィリップ・コトラーの定義するカスタマージャーニーの5Aのフレームワーク
認知(AWAR)、訴求(APPEAL)、調査(ASK)、行動(ACT)、推奨(ADVOCATE)

▼インベスタージャーニーマップの6Aのフレームワーク
認知(AWAR)、訴求(APPEAL)、調査(ASK)、行動(ACT)、自発的な行動(ACT ACTIVELY)、推奨(ADVOCATE)

このマップにより、潜在株主が当該企業(今回はBtoC企業に限定)の株主となり、ファン化が進み、他者への推奨に至るまでの道のりを調査しました。

調査対象者は、個別銘柄に株式投資を行っている任意の個人株主11名、投資歴2年から20年以上、総保有企業数は90社です。それぞれに各30分ずつのインタビューを実施しました。

当初の仮説通り、認知から調査までは最低限のインフラ整備が必要ですが、そこには企業側の打ち手はさほど多くないことがわかりました。また、個人株主をファン化し、推奨者になってもらうには、やはり行動と自発的な行動の段階でのアプローチが最も重要であることがわかりました。

一方で、11通りのインベスタージャーニーマップを作成し、タッチポイントを中心に比較したところ、株式投資経験の有無や店舗・サービスの利用頻度も大きく影響することがわかりました。これを4象限に整理したのが次の図です。

グラフ その他 株式投資経験

今回のインタビューで特に明確になったのは、株式に関心があっても投資未経験者にとっては、株式投資はハードルが高いこと。さらに、ヘビーユーザーであるほど、元々持ち合わせている愛着から、意識変容や行動変容は起こしやすいことの大きく2点です。

このことにより、企業側が優先して対応するべき対象は以下としました。
① 株式投資経験者かつヘビーユーザー
② 株式投資経験者かつライトユーザー
③ 株式投資未経験者かつヘビーユーザー
④ 株式投資未経験者かつライトユーザー

最も優先すべき「①株式投資経験者かつヘビーユーザー」のインベスタージャーニーマップは次の通りです。

(BtoC企業における)株式投資経験者かつヘビーユーザーのインベスタージャーニーマップ
グラフ その他 (BtoC企業における)株式投資経験者かつヘビーユーザーのインベスタージャーニーマップ

現在当社では、このインベスタージャーニーマップと当社のアクションとの比較を行い、タッチポイントごとの対策を行っています。

当社が行っている、タッチポイントごとの対策は以下の通りです。

認知

この段階では、個人株主に特化した施策は困難であり、タッチポイントとなり得る従業員のエンゲージメントの向上や店舗(店舗を有する場合)における顧客満足度の向上など、本業における従来の顧客アプローチや良質な企業情報の発信を愚直に実施しています。

訴求

ヘビーユーザーにとっては、実店舗における株主勧誘リーフレットは有効であるとの判断のもと、当社も2024年6月より当社グループの直営店250店において株主勧誘リーフレットを設置しました。8月末時点で株主勧誘リーフレットのQRコードを通じて当社HPや株価掲示板へアクセスいただいた方は約1000人いらっしゃるので、一定の効果が見え始めています。

リーフレットでは、新NISA情報や株主メリット、成長性などをお伝えしていますが、アンケートなどを参考に今後ブラッシュアップをしていきます。そのほか、証券会社などが主体の個人株主対象の説明会での講演についても継続して実施しています。

調査

2024年12月の公開を目指し、企業サイトのIR情報、サステナビリティパートについてリニューアルに取り組んでいます。機関投資家だけでなく、初めて訪問してくれる個人株主の方にとってもわかりやすく、興味をもっていただける内容を意識しています。

自社サイト内の「モスの森」では、店舗を含めた当社の社会活動について定期的に発信することで、企業への親しみやすさの醸成を図っています。さらに、自社サイトだけでなく、株式専門情報メディアへの情報掲載を狙い、証券会社他、IR関連メディアとのリレーションを強めています。

行動

個人株主に意識変容や行動変容を促すためには、直接接点を持つことが重要ですが、その機会は多くはありません。まずは店舗において、株主が株主優待券を使用の際に、店舗スタッフが「いつもご支援ありがとうございます」の声がけを行うなどの啓発を継続して実施しています。

また、株主イベントなどに興味を持っていただくべく、統合報告書や株主通信、株式書類での報告などを通じてイベント情報の発信を行っています。

自発的な行動

2024年度は、株主イベントとして第2回のコラムでご紹介した「株主様会社見学イベント」の複数開催に加え、地方における株主様店舗見学イベントを計画中です。ここで、さまざまな価値提供を行うことで、さらなるファン化を促します。
※詳細は、第2回コラム をご覧ください。

また年に1度、株主アンケートに協力いただくことで、声の収集や株主の属性把握に努めています。

推奨

2023年度に実施した前段の「株主様会社見学イベント」では、「当社の株主になることを友人や知人に薦めたいと思いますか」という質問について、44名中38名に「薦めたい」とご回答いただきました(うち14名が「是非薦めたい」、24名が「薦めたい」)。

加えて、イベントや年に1度の株主アンケートに対するフィードバックも大切にしています。機関投資家とのIR面談で出た意見も含め、年に2回、経営会議では意見の共有・検討・対策立案を行っています。その結果は、株主通信、統合報告書などで株主にも報告する、というサイクルをしっかり回していくことが、経営への規律付けにも繋がり、株主と企業が良い関係をつくれるものと実感しています。

グラフ 株主・投資家の皆様の声を生かすPDCAサイクル

 
 

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金田泰明(モスフードサービス 執行役員 社長室長)
金田泰明(モスフードサービス 執行役員 社長室長)

1997年入社。直営部、新規事業部、営業部を経て2008年より社長室へ。社長室では、主に広報IRを担当し、2020年より現職。現在は広報IRに加え、サステナ、秘書を統括。現在、モス初のドリンク専門店のプロジェクト責任者も務め、自社特有のバリューチェーンを活用し、健康やエシカルに特化した「Stand by Mos」をこの8月に東武東上線池袋駅構内に新規出店。規格外野菜を積極活用し、年間の食品ロス廃棄量4.6トンを見込む。

金田泰明(モスフードサービス 執行役員 社長室長)

1997年入社。直営部、新規事業部、営業部を経て2008年より社長室へ。社長室では、主に広報IRを担当し、2020年より現職。現在は広報IRに加え、サステナ、秘書を統括。現在、モス初のドリンク専門店のプロジェクト責任者も務め、自社特有のバリューチェーンを活用し、健康やエシカルに特化した「Stand by Mos」をこの8月に東武東上線池袋駅構内に新規出店。規格外野菜を積極活用し、年間の食品ロス廃棄量4.6トンを見込む。

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