危機管理広報で覚えておきたい6つのポイントとは? 変遷・事例解説

月刊『広報会議』で連載「リスク広報最前線」を執筆する弁護士・浅見隆行氏が、「危機管理広報」の変遷を振り返りながら、広報担当者が覚えておきたいポイントを解説します。
※本稿は『広報会議』2024年11月号を転載しています。複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか、事例をもとに解説する連載「リスク広報最前線」のバックナンバーは、広報会議デジタルマガジンよりご覧ください。

1.危機管理広報は当たり前の時代

この10年での最も大きな変化は、「不正や不祥事を起こした企業は危機管理広報をするのが当たり前」という意識が世の中に定着したことです。

最大の要因は、2016年2月に日本取引所が「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」を策定し「迅速かつ的確な情報開示」を上場会社に求めたことです。

ただし、厳密に言えば、これは上場会社の「開示」を求めただけで、危機管理広報を求めたものではありません。

2.開示や法令に基づく公表とは違う

危機管理広報は、「開示」規制に服していない非上場会社や、法令に基づく公表・報告義務を負っていない状況でも行う必要があります。これは、裁判所も指摘しています。

TOYO TIRE(旧東洋ゴム工業)が大臣認定の性能評価基準に達していない免震ゴムを出荷していたケースで、2024年1月、大阪地裁は、「可及的速やかに国交省に報告するとともに、一般に向けてかかる事実を公表することが求められる」「調査に要するとして長期にわたって報告・公表をしないことは通常は相当ではなく」「調査の途中においても速やかに何らかの報告・公表をすべき場合もある」として、法律上の公表義務がなくても、公表(危機管理広報)が遅れたことについて取締役の法的責任があることを認めました。

しかし、残念ながら、法令に基づく公表・報告義務と危機管理広報とは別ものであることが理解されていないケースも未だに散見されます。

最近では、2024年1月以降の紅麹関連製品での小林製薬の対応です。小林製薬は1月には医師から紅麹関連製品を摂取した消費者に健康危害が生じているとの報告を受けていたものの、消費者庁への報告を必要とする因果関係の有無を明らかにすることに時間を費やし、事実を公表したのは3月22日でした。

報告義務と危機管理広報は別ものであるとの意識があれば、社長が認識した2月6日のタイミングで消費者に向けて注意喚起すべきでした。

3.信頼回復の手段として活用する

危機管理広報を、信頼を回復するための手段として活用している企業も少なくありません。特に大規模な不正・不祥事が起きた場合はなおさらです。

2000年に集団食中毒事件を起こした雪印メグミルク(旧雪印乳業)は、現在も自社サイトの沿革のページに集団食中毒事件を掲載し、サステナビリティのページにも集団食中毒事件のほか、雪印食品(当時)が2002年に起こした牛肉偽装事件を掲載し、事件を風化させないようにしています。

三菱自動車は2016年に公表した軽自動車の燃費データの不正について、現在も自社サイトのニュースルームに「燃費問題」と題して情報を掲載し続けています。

神戸製鋼所は2017年に公表した品質不適切問題について、現在も「品質不適切行為に係る再発防止策の進捗等について」と題する専用ページを設けて情報を掲載し、トップページには専用ページへのリンクを貼っています。

いずれも過去の不正・不祥事をきっかけに、安心・安全を意識する会社に生まれ変わろうとしている企業姿勢を伝えようとしていると理解できます。ネットの時代ならではの危機管理広報と言ってもいいでしょう。

4.攻めの広報、企業価値の向上につなげる

企業価値の更なる向上のために危機管理広報を「攻めの広報」として用いる動きも増えてきたように感じます。

2023年には旧ジャニーズ事務所での性加害問題が世の中の話題になりました。

アサヒグループホールディングスは、人権尊重の観点から、ジャニーズ事務所とのCM契約を終了させ、今後も所属タレントを起用しないことを明らかにしました。

コーセーは、改革や取り組み状況の報告を求め、必要に応じて情報提供を要請することを明らかにしました。

住友金属鉱山は、調査、救済措置等が実行されない場合には取引関係を維持できないことを書面で申し入れたことを明らかにしました。

これらの広報は、取引先である旧ジャニーズ事務所で起きた不正・不祥事をきっかけに、自社が「ビジネスと人権」という経営課題を単なるお題目にしているのではなく、真伨に向き合っている企業であるとの本気度のアピールとしても機能しています。取引先や世の中の人たちにも「『ビジネスと人権』に厳しい会社」との印象を与え、企業価値の向上につながっているように思います。

5.ガバナンスの機能と危機管理広報

不正や不祥事をなぜ問題だと捉えているのか、なぜ対処するのかを説明し、ガバナンスが機能していることを伝える広報も増えているように思います。

2022年には吉野家ホールディングス執行役員兼吉野家取締役が大学の社会人向けマーケティング講座で不適切な発言をしたことについて、同社は「講座内で用いた言葉・表現の選択は極めて不適切であり、人権・ジェンダー問題の観点からも到底許容できるものではありません」とする声明を出し、執行役員・取締役からの解任理由としました。

こうした情報発信は、人権・ジェンダー問題に真摯に取り組んでいる企業姿勢を公表するだけでなく、この企業姿勢が役員間に浸透しているからこそ解任にまで至ったとして、役員間のガバナンスが機能していることのアピールにも成功しています。

6.日頃の広報でも企業メッセージを示す

現在、多くの会社がカスタマーハラスメントに関する基本方針を公表しています。

例えば、JR西日本グループは、単に方針の内容を列挙するだけではなく、冒頭に「策定の目的」として「質の高いサービスを提供するためには、グループで働く従業員の人権が守られ、心身共に健康で安心して働ける環境を整えることも大切であると考えております」などと、企業のメッセージを記載しています。

ガバナンスなど社内体制の整備に関わる広報は、コーポレートガバナンス報告書に代表されるように無味乾燥になりがちですが、こうした企業のメッセージを入れることで、会社の人間味が社外にも伝わり、企業への信頼が増していきます。

広報担当者の皆さんは、他社の広報の動向を見ながら試行錯誤し、新しい危機管理広報のあり方を模索していってください。

浅見隆行

あさみ・たかゆき 弁護士。1997年早稲田大学卒。2000年弁護士登録。中島経営法律 事務所勤務を経て、2009年にアサミ経営法律事務所開設。企業危機管理、危機 管理広報、会社法に主に取り組むほか、企業研修・講演の実績も数多い。


『広報会議』連載「リスク広報最前線」は連載100回目を迎えました。
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