なぜパーパスを重視する企業が増えているのか
セミナーは 1.パーパス策定のプロセス、2.パーパス策定後のブランド浸透、3.トークセッション、4.ネットワーキングの大きく4つのパートに分けて進行された。1の策定プロセスに関しては、モデレーターを務めたIGI代表の井上元気氏が解説した。井上氏はIGIが掲げるパーパスについて触れながら、クライアントに寄り添いながらパーパスブランディングを支援する自社の紹介から、ブランディングの重要性に関するテーマに進んだ。
近年のパーパスブームともいえる状況は、新型コロナウイルスの感染拡大による社会環境の大きな変化と合わせて起きた。井上氏はその要因について「コロナ禍で企業と人に距離ができたときに、新しい求心力を必要とした、という背景があるのではないか」と分析した。また、パーパスが社内外に浸透している企業に関しては、売上、純利益、営業利益などの数値が伸びているというデータも紹介し、その重要性を説いた。
IGI代表の井上元気氏
ほかにも、コーヒーチェーン3社のパーパスを例示して、どのパーパスがどの会社のものかを考えるアイスブレイクも実施した。井上氏は「当てられなかったとすれば、その企業はもしかするとパーパスの中に自分たちらしさをうまく表現できていない可能性がある。短い文面にその企業らしさを込めることが重要」と指摘した。
井上氏は続いて、IGIが携わったぐるなびのパーパス策定プロセスを紹介した。ぐるなびは2019年の社長交代を機にリブランディングに着手し、創業者、経営者、社員の思いを可視化するインタビューを実施。全社で議論しパーパスにたどり着いた過程を、その様子を撮影した動画を交えて説明した。
ぐるなびのパーパス策定と社内浸透施策
2つ目のパートではぐるなびの廣瀬一子氏が登壇し、リブランディング実施の決定、パーパス策定からの4年間でいかに社内での浸透施策を進めてきたのかについてプレゼンテーションした。そして「ブランド浸透の基本方針は、新しいパーパスや理念体系をつくって終わりではなく、そこからがスタート。特に社内の浸透施策に一番重点を置いて進めてきました」と力を込めた。
ぐるなび ブランドマネージャーの廣瀬一子氏
ブランド浸透において重要なことは、社員一人ひとりがパーパスを理解し、行動に反映していくことと捉え、ぐるなびでは社員が自社のファンになっている状態をKGIに設定した。「KGIを達成するキーサクセスファクターとして、共感度、理解力、行動力の3点に寄与する取り組みを推進しました」(廣瀬氏)
最初のアプローチとして、社内向けにブランド再構築の背景や策定プロセスの詳細、アウトプットなどをまとめた解説資料「BRAND GUIDEBOOK」と、プロセスや実際のワーク内容などをまとめたレポート動画「WORKSHOP REPORT」、そして社内版と社外版を作成した「PURPOSE BOOK」という3つのツールを活用したことを解説した。動画に関して廣瀬氏は「気軽に見ることができ、一定のテンポで情報が入ってくる利点だけではなく、BGMや見せ方次第で感情に訴えかけられる良さもある。内容がより伝わりやすくなるのでインナー向けの浸透ツールとして非常に効率が良い」と評価した。
また、ブランド浸透をより推進させるために人事部とも連携し、パーパス策定と並行して新たな人事評価制度も策定、導入したことにも触れた。この新評価制度の中の「コンピテンシー評価」は、ぐるなびの新たな理念体系の「社員の行動変革」と連動しており、パーパス実現のための個々の社員の行動が、評価にもつながる仕組みとして設計されている。
人事部との連携ではほかにも、新入社員研修で社員が自らのパーパスを策定するワークの導入などについて、その狙いを紹介した。
社内向けの施策に加えて、パーパス策定後の3つの取り組み、コロナ禍におけるワクチン接種支援のプロジェクト「つなぐワクチン プロジェクト」、「GURUNAVI FOODHALL WYE」の店舗開発事業、5つのコンソーシアムの1社として参画している10年の⻑期計画事業「グリーンイノベーション事業」についても紹介した。パートの最後には杉原章郎社長のメッセージ動画が公開された。杉原社長は動画内で「ブランドづくりは一朝一夕ではなく、苦労しながら可能性を模索して進化させていくものだ」と強調した。廣瀬氏は動画を受けて「浸透施策は何よりも、とにかく継続してやり続けることが重要」とまとめた。
社員の自発的な行動を促すクリエイティブの力
トークセッションでは再び井上氏をモデレーターに、廣瀬氏とパーパス策定プロジェクトをリードした竹嶋晋氏(たきコーポレーション ZERO)、クリエイティブディレクターをつとめた木村高典氏(たきコーポレーション IGI)も加わり、事前アンケートなどで参加者から募った質問なども交えて進行した。議論は「策定編」、「浸透編」、「未来編」に分けて展開した。
「策定編」では、ブランディングやパーパス策定の過程で充実感を覚える瞬間や苦労について、社内広報を担当しているという参加者からの質問をもとに社内の抵抗にも触れて議論した。社内での協力体制構築について竹嶋氏は「コミットしている人だけに伝えるのではなく、逆に、コミットしていない人に共感してもらう」ことが大事であると話し、そのために参加者として考える機会の提供につながるワークショップを重視していると指摘した。
「浸透編」でも社員の主体的参加をいかに促すかについて話題に上った。廣瀬氏は実務家の立場から、自身はほぼ一人でプロジェクトを進めている現状にも触れながら「社内の各部署と連携し、巻き込んでやっていくと会社をよくしたいと願う熱意を持った社員に出会う。そうした社員と励まし合い、触発されながら取り組んでいる」と話した。
木村氏は浸透のプロセスについて「会社からパーパスをやれ、行動指針通りに動けといわれても抵抗がある。自発的に動いてもらえるような施策を考えるのはクリエイティブの力の見せどころ」と支援側の立場から発言した。
「未来編」では井上氏が廣瀬氏に対して、この4年間でのパーパスブランディングの達成度について問う場面があった。廣瀬氏は25%と回答し「日によっては50%くらいに感じられることはありますが、それ以上にはできていない。それは業績として社会に認められるだけの成果が出せていないから。ステークホルダーである株主の方々や、社会にも認めていただけるようになって初めて80〜90%といえると思っているので、そこを踏まえるとまだまだ道半ばという評価になる」と説明した。
こうした登壇者の議論や参加者との質疑を経て、4つ目のパートでは参加者も交えたネットワーキングも行われ、パーパスブランディングを推進する企業の担当者や、これからパーパス策定、リブランディングを検討している参加者と交流の機会が設けられた。
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