ミリモルホールディングス 代表取締役CEO 河野貴伸氏
膨大な知識とノウハウを蓄積した「MMot」が社内パートナーに
企業のブランディングにAIを伴走させ、創造性を活かせる領域に人的資源を集中させる…。そんな構想を描き、設立されたミリモルホールディングスは、「AI×事業支援」をテーマに2024年3月から新サービスを提供している。代表はブランディングやコマース領域の専門家である河野貴伸氏。ブランディングエージェンシーFRACTAの創業者でもある同氏が、ミリモルホールディングスを新たに設立したのは、FRACTA時代に感じていた課題があったからだという。
「前職時代から、クライアント企業が自走する組織になることを目指して、支援を行ってきましたが、機動力や適応力の面で難しさを感じていました。日本の広告会社やクリエイティブエージェンシーは非常に手厚いサポートを提供していますが、クライアント企業内に、それを内製で実現できるような体制をつくるのは困難。特に、日本の雇用慣習や部署異動、転勤も多い中で、社内にデジタルやクリエイティブ、マーケティングの専門家を確保するのは難しいという現実がありました」(河野氏)。
また、同氏は人的なコスト面でも課題感を持っていた。「前職では、その企業の専任として当社メンバーを社員のような形で送り込んでいたので、地方の中小企業やものづくり企業にとっては、金銭的な負担が大きくなる傾向にありました」。
そうした課題を抱えていた河野氏にとって、2021年頃に登場し始めた生成AIの存在が大きな転機となった。河野氏はもともと機械学習に精通しており、Eコマースでも機械学習を利用してきた経験がある。これらの知見を活かして生成AIを使ってみた結果、「これは使える」と実感したという。
「最も重要なのは、ブランドやビジネスのそれぞれの規模に応じて、企業ごとに今、本当に必要なものをオーダーメイドで設計することだ」と考える河野氏だが、それを人間だけでやろうとすると、非常に膨大なノウハウが必要で、そもそも一人ですべての事例に対応できる人材がいないのも事実だ。そこで同社では、AIにブランディングやマーケティングの専門知識を学習させ、企業に適したソリューションを提供する。
ソリューションの名称は「MMot(もっと)」。人が常に伴走しなくても、「MMot」に一定のメソッドや知識を学習させることで、社内のパートナーとしてサポートする役割を担わせることができる。
「私たちの知見だけでなく、その会社特有の知識や情報もどんどん学習させていくことで、『MMot』は進化し続けます。その結果、企業の社内にはまるで多様な専門知識を持つ人材がいる状態、つまり過去の経緯なども踏まえて24時間365日さまざまな対応を行ってくれる頼れる存在が生まれつつあります」。
とある企業が「MMot」を導入し、3~4カ月ほど運用した後、担当者が産休に入ることになり、新人への引き継ぎが必要になった。その際に産休に入る社員と引き継ぐ社員、『MMot』の3者で会話し、最終的に『MMot』がまるでベテラン社員のように引き継ぎ内容を伝えたという。しかもAIなら24時間いつでも丁寧に対応してくれる。「引き継ぎが楽だった」「どんな時間でも気軽に質問できるおかげで仕事が楽しくなった」という声も届いているという。
人間に残された役割は「体験」を創造すること
同社が相談を受ける内容は大きく3つに分かれる。ひとつ目は、「DXが必要だが進んでいない」など、やるべきことはわかっているがうまくできていないケース。2つ目は、「新規来店客が減少している」というように事業が単純にうまくいっていないケースだ。そして3つ目は、特に今すぐ重大な問題があるわけではないが、これからの成長を見据えてブランディングや事業の現状を再評価したいというケースだ。相談内容に応じて、同社は【図1】の通り、5つの共通ソリューションを提供するが、いずれも「医師による体の診断と治療に似ている」と河野氏は話す。
「企業経営の資源である人、もの、金がどこでどう滞っているのかをまずはコンサルテーションしながら原因や課題を判断します。そして、必要に応じて専門家が入りながら、『MMot』がパートナーとして治療をサポートし続けるイメージです。ブランドは多様であり、ひとつの理論が全ての企業に当てはまるわけではありません。私たちは、漢方の処方箋のようにその企業に合わせてブランディングをパーソナライズしていくことを目指しています」。
近年、急速な進化を遂げるAIの領域。「定量的な部分はAIに任せ、人間は体験を創り出すことに注力していきたい」と河野氏は話す。
「人間に残された役割は体験を創造することです。これは人にしかできないこと。前職でも老舗から新進気鋭ブランドまで、総勢26のブランドを体感し、購入できる『文化商店』の取り組みなどリアルな体験価値の重要性に着眼してきました。お客さまにどのような体験や記憶を提供するか、その設計には、人間にしか見えていない視点が必要です。だからこそ私自身も当社のメンバーも、音楽活動やエンタメ関連のプロジェクトなどのリアルな体験を通じて、人間にしかできない企画や計画を実現しようとしています」。
今後、同社が目指すのは日本が世界に向けてビジネスをさらに広げていくための支援だという。日本には多くの中小企業が存在し、大企業の一部署がスピンアウトして新しい事業に挑戦するケースも増えているため、まだまだ挑戦できることはたくさんあると河野氏。ただし、そこに多大なコストや人的リソースを割くのではなく、「AIと人間のハイブリッドアプローチを最大限活用していくことが重要」だと言い切る。
「AIの導入に難しさを感じる企業は多いと思いますが、そこをクリアしなければ日本企業が世界で、この先競争力を持つのは難しい。ですから、まずはAIと人間の橋渡し役である私たちに悩みを相談してほしいと思います」。
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