プロモーション領域で人の心を動かし「顧客化」することを得意とする博報堂プロダクツ。総合制作事業会社としてイベント、グッズなどを制作する過程では、サステナビリティに関連したクライアントからの要請も多く、コミュニケーション手法についての相談が増加している状況だ。そこで得られた知見を活かし、2023年には、サステナビリティ領域における企業のコミュニケーション課題を解決する専門チームも発足している。
より良い選択肢の提案へ
これまで各事業本部でバラバラに行ってきたサステナビリティ活動を、企業全体の動きへと進化させるため、2023年に博報堂プロダクツとしてのサステナビリティ方針を策定。社内における啓発と社外への発信を率いてきたのが広報部サステナビリティ推進チームの押本有里子氏だ。
「サステナビリティへの対応がコストではなく投資と捉えられるよう、社員や生活者に向けて、働きかけていく必要があると感じています」と押本氏。社員一人ひとりが、サステナビリティに対する理解を深め、社内の仕組みを整えること。そしてクライアントに対して世の中や環境により良い選択肢を提案し、生活者の行動を変えていくこと。この「両軸を推進していきたい」と意気込む。
企業活動においてサステナビリティを実装していくにあたり、同社では「①パーパス構築」にあたるサステナビリティステートメント策定、「②コミュニケーション設計・発信」「③具現化アクション支援」という3つのプロセスを整理し、このサイクルを回しながら社内外への理解浸透を図ってきた(図参照)。
図 サステナブル実装化サイクル
社員と社長が共につくる
まず注力したのは「サステナビリティステートメント策定」だ。社内のクリエイターをアサインしてチームを結成し、社長と対話しながら社会における自社の立ち位置を確認し、言葉を練り上げていく体制をとった。言葉の開発に加え、社員が自分ごと化しやすいようにイラストを基調としたワクワク感が伝わるステートメントムービーなども作成している。こうした取り組みを行った背景には、「サステナビリティ対応では、社員一人ひとりの行動と成長を大切にしたい。共感が得られるよう、社内のクリエイティブ力を発揮し、伝え方にはこだわってほしい」という岸直彦社長の思いがあった。
このクリエイティブ制作に携わったクリエイターはその後、企業のサステナビリティを支援する専門チーム「SUSTAINABLE ENGINE」のメンバーとしても活動。採用広報においても好影響が出ており、「このチームに入るにはどうしたらいいのか」と意欲を見せる若手社員も出てきている。
段階的な社内浸透
次のプロセス「コミュニケーション設計・発信」においては、サステナビリティステートメントに基づいた社内啓発と社外広報を行っている。
ステートメントの対外発表に先立ち、社内で研修動画を配信。その内容は押本氏が外部の有識者と対談し、サステナビリティステートメントの意図を解説するもので、ハイクオリティなビジネス動画のトーン&マナーに統一し、完成度を高めたことが、会社の本気度を伝えることに役立ったという。
加えて、方針や活動内容を取りまとめたサステナビリティサイトを先行して社内に公開。eラーニングではサステナビリティ方針についてクイズ形式にして理解を促進した。各事業本部長には個別にヒアリングし取り組み意義や方針を伝え、段階的に社内啓発を進めている。
こうした地道な積み重ねと並行し、社外広報も積極的に行っている。岸社長のインタビューをビジネス誌で広告掲載したほか、企業のサステナビリティ推進者約400名を対象にした「企業のサステナビリティコミュニケーションに関する調査」の結果をプレスリリースで配信。リリース情報はSEO対策にもなっており、サステナビリティコミュニケーションの専門家として、寄稿依頼や登壇依頼が舞い込んでいる。
社内の体験をビジネスに
そして「具現化アクション」のプロセスでは、社員一人ひとりの行動につなげる環境づくりが行われている。
実際にサステナブルな視点で行動に移している社員をインタビューし、読み物として可視化。サステナビリティサイトに掲載している。こうしたコンテンツは、隣の部署がどんな取り組みをしているのかを共有し、相互に刺激しあえる機会をつくっている。
また社員自身のパーパスと、会社が推進するサステナビリティの接点を探り、次なるアクションをカードに記入してもらう研修を実施。知識をつけたい社員には、推奨資格を案内するなど、各社員の状況にあわせた支援も行っている。
日々の業務の中で、サステナブルなアクションを加速していこうと、社内の新たなプロジェクトも立ち上げてきた。その一つが、グループ会社がNPOと運営する田んぼで、脱穀時に出るもみ殻をアップサイクルした「もみがらノート」の制作だ。同社デザイナーが循環をイメージしたデザインを施した手触り感のあるノートをステークホルダーに配布したことで、アップサイクルによる新たなビジネスの芽も見えてきた。
社内で実践してきた3つのプロセスを、クライアントのサステナビリティコミュニケーション支援にも活かし、生活者の行動変容につなげていきたい考えだ。
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