DAM(デジタルアセットマネジメント)とは何か?
皆さんは、DAM(デジタルアセットマネジメント)という言葉を聞かれたことはありますか。その名の通り、テキストに画像、音声や動画など多種多様なデジタルデータを一元管理することで、より企業としての“アセット”として活用しやすくする取り組みのことを言います。
日本市場においてもグローバル化が進み、さらに消費者ニーズの多様化も進展し、自社の商品やサービスを伝えるために制作されるコンテンツの量は格段に増えています。こうした環境で、DAMに対する期待が高まっていました。
加えて、ここ数年で爆発的に普及した生成AIは、そんなコンテンツの制作プロセスを強力に支援するツールとして注目されています。しかし、生成AIが果たす役割は制作工程のスピードアップやコスト削減だけではありません。顧客ごとのニーズに応じ、膨大なコンテンツをパーソナライズして最適な情報を提示するためのエンジンとして機能しうるものでもあります。
そして生成AIの力を最大限引き出すには、デジタルアセットのライフサイクルを統合的に管理するデジタルアセット管理(DAM)が欠かせないのです。増大するコンテンツと生成AI、そしてパーソナライズが広告クリエイティブにどのような影響を与えるのか、DAMがなぜ必要なのかを見ていきましょう。
限られたマーケティング予算でも必要とされるパーソナライズした大量コンテンツ
かつて企業と顧客をつなぐ接点といえば、自社Webサイトや販促ツール、広告、そして営業担当者など限られたタッチポイントしかありませんでした。しかしテクノロジーが進化し、SNSや動画、さまざまなデジタル広告などデジタル上でのタッチポイントが増えると共に、画像や文章、動画、3Dなど多種多様なコンテンツが求められるようになりました。
増えたのはコンテンツのフォーマットだけではありません。顧客一人ひとりと、つながることができるようになったため、コンテンツに対するニーズもより細分化されるようになりました。さらには国・地域の言語への対応も必要です。このようにきめ細かなニーズに応じてパーソナライズ化が進むなか、コンテンツの種類と量に対する需要は拡大し続けています。
DAMは、コンテンツを構成するデジタルアセットを管理する基盤です。情報を更新し、常に最新の正しい情報を提示するためにDAMは欠かせません。
マーケティング活動で陥りやすいデジタルアセットの制作・管理の課題
そんなデジタルアセットの制作・管理に関し、大きく2つの課題が指摘されています。
ひとつは、年々高まるコンテンツ需要に対し、制作工程のスピードアップが求められていること。もうひとつが、日々生まれるデジタルアセットの管理が制作会社・事業会社・広告代理店とバラバラで行われ、さらに社内でもマーケティング部門や営業部門、広告宣伝部門など部門別に分散され、一元的にコンテンツの効果分析が行えないことです。
これらの課題解決の手段として期待されているのが生成AIとDAMを組み合わせた活用です。
制作活動における生成AI導入のメリットとリスク
生成AIの登場により、クリエイティブの制作プロセスは大きく変革されようとしています。イラストが描けなくても生成AIでイメージに近い絵を創作できますし、クリエイターの作業のスピードアップにも貢献しています。
その一方で、生成された成果物の著作権抵触リスクや、低クオリティの成果物をそのまま広告クリエイティブに用いることでのブランド毀損リスクもあります。
ここで立ち戻って考えて欲しいのは、「なぜコンテンツが増え続けているか」という根本原因です。それはすなわち細分化したニーズ、個々の顧客の知りたい情報を提供するためであり、パーソナライズを実現するためです。
生成AIは制作プロセスの完成までのスピードを早め、クリエイターの生産性を向上しますが、そもそも「コンテンツを短期間で大量につくる」ことが目的なのではなく、「顧客ニーズに合わせて最適な情報を提供する=顧客体験を向上させる」が目的です。その実現のためには生成AIを制作活動だけに適用するのではなく、マーケティングプロセスを通貫するコンテンツライフサイクル全般に生成AIを取り込むことが必要です。
クリエイティブ制作を含め全マーケティングプロセスで生成AIを活用
生成AIはコンテンツ制作だけでなく、マーケティング戦略の企画立案から実行、分析に至るまですべてのプロセスに適用でき、いずれのプロセスでも作業スピードと生産性の向上が期待できます。
クリエイティブ制作でいえば、生成AIの得意分野であり、かつ低リスクで活用できるのは「バリエーションの量産」でしょう。クリエイターが制作した基本パターンをベースに、背景や色、オブジェクトの配置、テキストのフォントやコピーといったアセットを変え、複数のクリエイティブパターンを量産するという使い方です。これなら著作権やクオリティのリスクも避けられます。
そして生成AIが量産したクリエイティブを用い、どのセグメントにどんなクリエイティブが効果的なのか検証します。これまでは、大量のクリエイティブを用いたパーソナライズの検証は非常に時間がかかるという問題がありました。しかし検証・分析に生成AIを活用することで、検証工程自体の短期化・スピードアップが見込めます。
そしてクリエイティブの各アセットのパフォーマンスを細かく分析するには、プロセス全体でアセットを管理する仕組みが必要です。これを担うのがDAMなのです。
生成AIを活用して反復的なクリエイティブ・サイクルを実現した成果
アドビでは自社オウンドメディアやキャンペーン用Eメール、マーケティング・バナーやディスプレイ広告のバリエーション量産に生成AIを活用しました。そしてテストのフィードバックを受け、各セグメントに最適なアセットの組み合わせを特定して展開することで、クリエイティブのパフォーマンスの最大化を図っていきました。
こうして「大規模コンテンツ制作」から「大規模コンテンツの最適化」までの反復的なサイクルを実現した結果、テスト施策によって効果に幅はありますが、当社サービスのARR(サブスクリプションサービスの年間経常収益)は29〜214%増、CTRは26%増、コンテンツ制作の生産性は4倍になりました。
企業の収益に貢献する、生成AI✕DAMの活用
企業の収益に貢献する、DAMと生成AIの活用を考える際、ポイントとなるのが、生成AIだけでなく、DAMが大量のデジタルアセットと各々の属性や内容を表すメタデータを合わせて管理することです。
各デジタルアセットがどのような特徴を持っているか、いつ作成されたものか、関連するアセットは何なのか、どのフォルダーに格納されているのか、アセットのさまざまな属性をメタデータとして付与・管理することで、アセットの検証や再利用が容易になります。
同じ製品・サービスの広告クリエイティブでも、フォントの色や形、イラストの配置を変えただけでリーチできるターゲットが異なるのであれば、どの層にどんなアセットを使ったどのようなクリエイティブが効果的だったのか、細かく分析できます。
生成AIにより検証サイクルがスピードアップし多くのテストを実施できるので、将来的にはそのフィードバックで最適なアセットパターンを生成AIが自動的に制作し、パフォーマンスを自律的に向上させることも不可能ではありません。
今後、DAMと生成AIを有効活用できるかどうかで得られる収益は大きく差が付くはずです。さらなる飛躍を目指す企業に、DAMと生成AIは欠かせない存在なのです。