PR(パブリック・リレーションズ)が、新しい局面に来ている。そのことを、PR4.0と名付け、いかに進化したのか、あるいはしていく必要があるのかということを、提言しようとしているのが本書である。
PR1.0とは、情報拡散を目的とするPRであり、PRはパブリシティを中心として語られていた。PR2.0とは、2010年頃からのアウトプットからアウトカムを重視する局面のことである。広告換算費ではなく、売上向上は行動変化など実質的な成果が重視されるようになったのである。そして、PR3.0では、2020年にバルセロナ原則3.0がだされ、アウトカムだけではなく社会へのインパクトまで評価されるようになった。
そして、PR4.0の世界は今後、どうなるのか。そのことについて、経営環境の変化につれて、コミュニケーションがいかに変化するのかを検討している。
環境の変化のひとつがメディアの変化である。欧米ニュースメディアがサブスクによりグローバル化ししていったこと。一方で、共通の価値観をもつマイクロコミュニティに影響するインフルエンサーがよりエンゲージメントを高めることができるようになってきている。さらに、オーディエンスの多様性を意識せねばならない環境となったことにより、ジェンダーバイアスやステレオタイプが炎上を招くなど、多様性を意識する必要がでてきていることである。
ふたつめが、コミュニケーションの相手の拡大である。企業の原理が、株主の利益の最大化の意識から、ステークホルダー資本主義へと変化してきたため、すべてのステークホルダーの幸せを追求することが重視され、社会課題への取り組みが盛んになってきた。また、コミュニケーション重要な対象として、インターナルが挙げられている。パーパスや理念への共感が、社員がそれを体現しているブランドとなり、企業価値を高めからである。採用時から経営理念に共感していることは、ミスマッチを防ぐことにもできる。
3つ目が、求められる企業のあり方の変化である。たとえば、偽情報の脅威、ソーシャルメディアによるリスクなどとともに、意思表示をしないことへのリスク、意思表明と行動のギャップ(ウォッシュ)への批判などが挙げられている。企業による本気のCSR、ESG、SDGsが求められるのである。透明性の高い取り組み、ウォッシュと呼ばれない取り組みが必要ということになる。
「価値づくり広報モデル」という言葉が出てくるのだが、それは、企業がどのような社会的影響を与えたいのか、どのような存在として認識されたいかという明確なビジョンを持ち、それに基づいて、広報・PR戦略を策定することとしている。そのために7つの具体的な指針が示されている。その具体的な内容は本書をご覧いただきたい。事例として、防衛省、ヤッホーブルーイング、三井化学、東北電力などが取り上げられており、企業の価値づくりに寄与する広報のあり方を感じることもできる。
内容のひとつひとつは、常日頃、企業を取材していて感じていることが言語化されており、納得感のあるものである。しかし、その視座はコミュニケーションの問題だけでなく、経営そのもののあり方に踏み込んでおり、やや理想像を追い求めすぎかもしれない。企業の日常業務の中で、このような大きな視座で仕事に取り組める人は少ないのではないかと感じた。
それでも、会社組織がインテグリティ(誠実さ)を大事に経営すべきである、という当たり前のことを、再認識させてくれるのが本書である。
定価:2,200円
(本体2,000円+税)
『新しい「企業価値」を創出する PR4.0への提言』
編著:株式会社 電通PRコンサルティング
本書は、電通グループ内のPR領域における専門会社である電通PRコンサルティングが2020年8月から3年間、月刊『広報会議』(宣伝会議発行)において連載した「データで読み解く企業ブランディングの未来」をベースに、現在、そして来るべき広報の未来に向けて加筆しました。
『PR4.0への提言』は、序章と7つの章で構成されています。序章では、まずPR(パブリックリレーションズ)の進化について振り返ります。PR1.0は情報拡散を目的としたPRとして位置づけ、その後はPRの効果測定の指針として世界的に採択されている「バルセロナ原則」(※)に照らし合わせ、現在、自分たちの、2.0(アウトプットからアウトカム)、3.0(インパクトの評価)としています。そして来るべき「PR4.0」はどこに向かうのかを、本書を通して考察していきます。
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