「Future of measurement 」―Googleのプライバシー・セキュリティ方針を解説(Google 小澤昇歩氏)

Googleはユーザーのプライバシー保護を最優先に考えています。2020年に発表したChromeブラウザでのサードパーティークッキー廃止は、当初2022年、その後2025年初頭から実施予定でしたが、様々な業界との協業や、プライバシー保護に加えセキュリティと企業の広告効果も両立させる必要性から、今年7月に廃止の方針を撤回しました。Googleは、プライバシーサンドボックスなどの新たな技術開発を通して、個々のユーザーを特定することなく、ウェブサイトや広告主が必要な情報を取得できる仕組みを構築し、プライバシー、セキュリティ、企業ニーズのバランスを図りながら、より良いウェブ体験を提供していきます。この記事では、Google Japan の Head of Measurement and Data の小澤昇歩が、プライバシーとセキュリティを中核に据えたこれからの新しい計測について解説します。

プライベートかつ安全な計測の未来

長年にわたり、私たちはデジタル広告の効果、その計測の未来について議論を重ねてきました。計測には何が必要なのか?広告主の皆様がビジネスを拡大させながらも、ユーザーのプライバシーを尊重するにはどうすればよいか?私たちは、その未来を「ファーストパーティ」「同意済み」「モデル化」として描いてきました。そして今日、これらの考え方は、もはや未来ではなく現状となっています。今こそ「新しい未来」を作り始めるときです。

ファーストパーティ、同意済み、モデル化の新しい未来とは?

  • ファーストパーティ: 自社が保有するデータをより積極的に活用していく。強固な競合優位性を築ける可能性がある
  • 同意済み: ユーザーから適切な同意を得た上で、プライバシーに配慮した方法でファーストパーティデータを収集・利用していく
  • モデル化: ファーストパーティデータをモデリングで強化し、様々なデータ欠損を補完する

これから作っていく「新しい未来」とは、私たちがマーケティング業界の皆さんと共に成し遂げてきた素晴らしい成果を土台にし、プライバシーとセキュリティを中核に据えた新しいテクノロジーを導入した先に実現するものです。

ここで言う「プライバシー強化技術 (PET) 」とは、個人のプライバシーを保護しながらデータを保存、収集、分析、処理できるテクノロジーのことです。PETは、技術的な設計自体にプライバシー保護の概念を組み込むことで、セキュリティとプライバシーを実現します。こうしたテクノロジーにより、業界は規制の変更やテクノロジーの変化に都度対応することなく、人々、広告主、パブリッシャーにとって良い持続可能な未来に向かって進むための最高の機会を得ることができます。

「新しい」計測の未来が解決すること

業界全体として、私たちはある矛盾に直面しています。それは、人々がプライバシーを気にしながらも、関連性の高い広告を受け取りたいと考えていることです【図参照】。

【図】ユーザーは自分にとって関連があり有益な広告だけを受け入れたいと考えている
イメージ アンケート結果

Googleが運営するサイト「Think with Google 」に掲載されたユーザーに対するアンケートの結果。

これから作っていく新しい未来においても、広告主はデータにアクセスして関連性の高い広告を配信し、ビジネスの成長に対する成果を計測する必要があります。一方、パブリッシャーは引き続き読者に魅力的なコンテンツと情報を提供する必要があります。同時に、人々は自分の個人に関する情報が尊重され保護されていることを知る必要があります。では、これら3つの要件を両立するには、どうすればよいのでしょうか?

答えは「プライバシー強化技術 ( PET )」

プライバシー強化技術 (PET) は、人々が(当然ながら)期待するプライバシー保護を提供すると同時に、ビジネスにとって有益なデータを利用できるように設計されています。利用方法によっては、データの使用方法に関する技術的なセキュリティ保証という追加メリットも提供します。最もよく知られている PET としては、集計、オンデバイス処理、データ クリーン ルーム、ノイズの追加などが挙げられます。

私たちの業界ではプライバシーの問題は、頻繁に議論されていますが、セキュリティも同様に重要なテーマです。この 2 つの概念を同時に実現することが、計測の未来にとって不可欠です。PET は大きく包括的なカテゴリです。だからこそ、これらのテクノロジーが何であるか、何をするか、どのようにプライバシーが保護された計測の基盤となるのかについて、理解し始めるところからはじめる必要があります。

Googleでは、長年にわたりプライバシー強化技術の開発と、それに対する投資を行ってきました。私たちのプライバシーへの取り組みは、ポリシーやツール開発のあり方に反映されています。例えば、Ads Data Hub や Privacy Sandboxのようなソリューションは、パートナー企業が顧客や消費者にプライバシーを配慮した方法で接し、有益な情報を収集できるように支援しています。私たちは、PETs(プライバシー強化技術)の分野での、さらなる革新を享受できる機会があると考えています。

Confidential Computing を掘り下げる

Confidential Computing は、本質的な技術的安全性を保証します。この技術は、将来の測定において重要な役割を果たすと考えられているプライバシー強化技術 (PET) の一例であり、Googleではこの分野への投資を拡大しています。Confidential Computing は、高信頼実行環境(TEE)と呼ばれる技術の中で行われます。高信頼実行環境 (TEE) では、「鍵」を持つ企業だけがデータにアクセスできる場所にデータを保管できるうえ、デジタル署名である Receipt によって誰がデータにアクセスしたかを確認できます。つまり、企業は、知らないうちに誰かからデータに不用意にアクセスされる心配をする必要がなくなります。しかしながら、セキュリティは全体像の一部にすぎません。

Confidential Computing が広告の将来に必要なものになるには、セキュリティに加えて追加のプライバシーレイヤーが必要です。すべての技術的保証が整っていても、ユーザーのプライバシーを優先しなければ、進化するプライバシー規制やシグナル損失などの原因となった問題の核心に迫ることはできません。Confidential Computing は、 セキュリティ要素とノイズ追加や集計などの他のプライバシー技術を組み合わせることでプライバシーを実現します。この手法は、2020 年のアメリカ国勢調査でも利用されました。データは個別に収集されますが、特定の人物に関する情報を明らかにしない方法で集約しながら、有用性を担保します。

プライバシーとセキュリティの両方を提供する保護機能が組み込まれている TEE は、業界、広告主、パブリッシャー、そして最も重要である人々にとって明確なメリットをもたらします。

新しい未来を見据える

私たちは、PET を基盤とした未来に向けて準備を始めなければなりません。そして、それらは万能な解決策ではなく、多くのプライバシー強化技術が連携し、多くの場合では複数のレイヤーによって機能します。今こそ、これらの技術に投資をはじめ、理解を深める時です。そして、言うまでもありませんが、変化は一夜にして起こるものではありません。

もし私たちがこの未来に向けた活動を開始しなければ、広告主にとって持続可能でも正確でもない、単純で一元的なソリューションに依存するリスクが生じます。すべての人に開かれた無料のインターネットを維持するためには、人々に愛され、頼られるコンテンツに対し、資金を提供する広告が必要です。この概念自体は複雑ではなく、プライバシー強化技術がその未来への道を切り開きます。

avatar
小澤昇歩氏

Google Head of Measurement and Data – Japan

2007年4月にVOYAGE GROUP(現: CARTA HOLDINGS) に入社。同年6月に株式会社fluctの設立参画。2010年同社の取締役に就任。製品開発、事業戦略、新規事業開発、マーケティング・PR、海外事業などを担当。2016年4月にグーグル入社。プログラマティック広告事業(旧 DoubleClick Ad Exchange)の日本統括などを経て、2022年より現職。

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