AIでパーソナライズはどこまでできるのか? 7業界のマーケターと議論「データマーケティングの現在地」

顧客接点のデジタルシフトが進んだことで、データを活用した顧客理解は一般的になりつつあります。一方で顧客との接点は複数部門にまたがるため、データの分散化や分断が新たな課題として浮き彫りになってきました。月刊『宣伝会議』編集部では、顧客データソリューションを提供するTealium Japanと共に「宣伝会議 マーケティングサロン」を開催。データをもとにした統合的な顧客理解、さらにはパーソナライズをテーマに、7社のマーケティング担当者と議論しました。

写真 人物 (左から)博報堂 金子明彦氏、SBI グループ 杉山拓也氏、Tealium Japan 海老澤澄夫氏、ゴールドウイン 冨田良介氏、リコージャパン 羽賀芳昭氏(※2024年6月時点)、LIFULL 梁取義宣氏、ローソン 佐々木徹氏

(左から)博報堂 金子明彦氏、SBI グループ 杉山拓也氏、Tealium Japan 海老澤澄夫氏、ゴールドウイン 冨田良介氏、リコージャパン 羽賀芳昭氏(※2024年6月時点)、LIFULL 梁取義宣氏、ローソン 佐々木徹氏

データ活用を推進する人材 確保も育成も各社の共通の課題に

マーケティング活動におけるデータ利活用が進む中、マーケターにもデータに関する基本知識が必要とされている。加えて、顧客に関するデータを活用するとなると、マーケティング部門だけにとどまらない範囲となり、他部門との連携という新たな課題も生じる。業界が違えども、こうしたステージにおいて直面する課題には共通点があるはず。そんな仮説のもと、議論が進められた。

ディスカッション前半では、統合的な顧客理解の実現や、パーソナライズマーケティングを目的とする「攻め」のデータマーケティングについて各社の取り組みを聞いた。

LIFULLの梁取氏が担当する領域は、CDPを活用した顧客体験の向上。

「CDPの導入によって、ユーザー一人ひとりをより深く理解できるようになりました。私たちの部門では顧客体験を向上させるため、プロダクトやマーケティング領域でデータを活用した様々なプロジェクトを支援しています」と梁取氏は話した。

また「攻め」のテーマで参加者の関心が高かったのが、パーソナライズをどこまでの粒度で実現すると投資効果が高いのかという論点。ゴールドウインの冨田氏は、「自社ECサイトにおいて会員ランク制を導入。上位の顧客ほどWeb接客やメルマガで先行販売への優遇制度などのアプローチを行っている」と自社の取り組みについて話した。

効率的なコンテンツ展開 不可欠なのはCDPの整理

顧客接点に対する課題感を語ったのはSBIグループの杉山氏だ。同氏が前職で勤務していた銀行では、国内の銀行ではほとんどCRMが導入されていなかった1999年からCRMシステムを活用していた。

一方で、金融機関が取得できる情報の活用の難しさについても話す。

「決済情報は確かに非常に価値がありますが、銀行という業態特性上、お客さまと恒常的な接点を持つことが難しく、情報の更新頻度も少ない点を課題に感じていました」(杉山氏)。研究会に参加をしていたローソンなどの小売りと比べると、銀行は日常的な顧客接点は決して多いとは言えない。データ利活用の戦略においては、リアル・デジタル問わず、顧客との接点を持つ頻度も、大きく影響してきそうだ。

そうした環境であったものの杉山氏は、店舗での接客以外の非対面チャネルにおける各種接点を、タグマネジメントを用いて統合するプロジェクトを遂行。例えば、サイト閲覧動向などの顧客行動をリアルタイムでプロファイリングし、情報量の増加を目指した。

一方で、多すぎるデータをどのように処理するかという課題を挙げたのはローソンの佐々木氏だ。グループ全体のデータを一元管理するプロジェクトが発足したものの、データが膨大であるうえ、部署によって活用したい目的も異なり、社内調整が必要になる場面もある。しかし、佐々木氏は今後AIも活用して、可能であればパーソナライズマーケティングを実現したいと話す。

この投げかけに対して梁取氏から、LIFULLでのAI活用の事例が紹介された。梁取氏は、AIを使ったパーソナライズの取り組みで、すでに成果が出ていると話したうえで、「個々の顧客に合わせパーソナライズしたコンテンツ制作が課題になっている」と語った。

またパーソナライズオファーの実現に際しては、その企業の商品形態の特徴も影響すると指摘。例えば、旅行のような商材は同じパッケージプランでも出発日が違うだけで、異なる商品として扱わざるを得ない。

金融機関は商品アイテムのバラエティは少ないが、逆にバラエティが少ない商材の場合には、パーソナライズしたオファーになりづらいという課題があるという。とはいえ、どの商材であったとしても、パーソナライズした対象に送るコンテンツを生成する、その源となるCDPの整理が不可欠だとも話した。

顧客情報を丁寧に扱う姿勢でユーザーの不信感の軽減を目指す

後半では、「守り」のデータマーケティング、主にデータプライバシーやデータセキュリティといったテーマについて、意見が交わされた。

リコーの羽賀氏は、自社の方針について、丁寧に情報を扱う姿勢を、顧客から見えるようにすることを重視してきたと説明する。名刺交換で得た名刺情報をどのように使用するかについて、営業職の名刺の裏に説明を記載したこともあるという。

博報堂の金子氏は「データ利用の同意を得ていても、データを使用されることに不快感をおぼえてしまう人もいる。特に日本は、情報の取り扱いに対して懸念を抱く人が多く、法的に問題がないことと顧客の不快感は別で考える必要がある」と指摘した。

また、SBIグループ杉山氏は消費者からのクレーム対策として、クレーム管理を行っているコールセンターとマーケティングの部署を物理的に隣接させていたと話す。コールセンターがクレームを受けた際、誰が情報をもっていて、誰が情報をどのように扱う予定か、などをマーケティングチームが迅速に答えられるガバナンス体制を整え、データセキュリティをコントロールしたという。

議論を終えてTealiumの海老澤氏は「異なる商材を扱うマーケターの皆さんが集まったが、デジタルマーケティング実践上の課題は、業種を超えた共通点が見えてきた」と総括した。今回共有された詳細事例をもとに改善をすすめたいとし、研究会を締めくくった。

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写真 マーケティングサロンの様子。当日はオブザーバー含め12名が参加した。

マーケティングサロンの様子。当日はオブザーバー含め12名が参加した。

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