カンヌライオンズの潮流とPRの未来 ~アワード受賞のヒントを探る~【後編】

事業会社とエージェンシーで取り組むブランド構築

山口
私は日本パブリックリレーションズ協会の理事長という立場ですが、この協会は事業会社とエージェンシーの両方が集まっています。ブランドというものは、おそらく事業会社だけでも成り立たないだろうし、エージェンシーの提案からだけでもなかなか成り立ちにくいので、両者の付き合い方をすごく考えさせられるプロジェクトかなと思います。

Unileverの主力ブランド 「DOVE」では、ロンドンのオグルヴィと手を組み、20年前から「Real Beauty」キャンペーン を実施しているそうですが、今年のカンヌに出品された注目すべき2作品をご紹介します 。

一つ目の「THE COST OF BEAUTY(美しさの代償)」は、メアリーという少女が、SNSの情報などに翻弄され、体型を気にするようになり、拒食症とうつ病に追い込まれていくところから、笑顔を取り戻すまでを描いた作品です。

「Real Beauty」というテーマを扱う「DOVE」が、こういった側面にも目を向け、作品の終盤でFacebookやInstagramを運営するMeta社の ザッカーバッグCEO がSNSの罪を認める結末になるという。ここまでの影響力を持ったというのは、なかなか素晴らしいなと思っています。

二つ目は「THE DOVE CODE」。20年間「Real Beauty」というテーマに取り組み続けたからこそ、「DOVE」のブランド資産をうまく活用しながら、AIを使って現代化した事例です。

通常、AI画像生成ツールで「世界一美しい女性」などと検索すると、AIが作成した女性の画像が表示されますが、検索ワードに”according to Real Beauty Ad”(「Real Beauty」キャンペーンによると)という言葉を追加することで、 「DOVE」の過去の広告やキャンペーンに登場した、幅広い人種や年齢のさまざまな女性の画像が次々と表示されるというものです。

エントリービデオの最後に登場する”Let’s Change Beauty.” というタグラインは、正しいブランドアクティビズム(ブランドの価値観・スタンスの主張)を感じるほどで、AIの最高の使い方かなと思います。AIについては、否定的な議論もあるだろうとは思いますが、結局、AIは人間がリクエストしたことに対して答えを上げてくるだけなので、問いかける人間側の力量が試されているなと感じたキャンペーンです。


ここまで結果が出たのがすごいと思います。やはり、ブランドの継続ですよね。

田上
本当に脱帽です。何年も続けているうちにキャンペーンを変えたくなるし、アイディアが尽きたことも、きっとあったんじゃないかなと想像するに、各国の「Dove」にブランドのフィロソフィーが長年にわたり、しっかりと継承されていること、モノを売りたいという一過性のものではなくて、会社として、ブランドとして、社会とどう向き合っていくのかということを継続してきたことをすごく感じて、本当に素晴らしいなと思いました。

山口
今年のカンヌのPR部門の評価基準に、インパクトの視点と未来に向けての視点とがありましたが、この作品はPR業界が将来にわたって誇れるものじゃないかなと思いました。やはり、ブランドをつくるには、時間がかかるということなんでしょうね。

田上
キャンペーンをコロコロ変えちゃダメというのは、事業会社出身者として、すごく身にしみます。ついつい変えたくなりますよね。


提案するエージェンシー側も短期間でキャンペーンを変えた方がいいかなと思っちゃうんですけど、積み重ねがあってはじめて常識が変わるわけですからね。言葉による 説明ではなくて、ウエブで検索した時に見た目ですぐに分かるのは、すごいことですよね。そこまでたどり着くのは大変ですが、新しい概念はこうやって浸透していくんだなという事例ですよね。

山口
昔、PR領域の先輩に「PRってどういうこと?」と聞いたら、「小石を積み上げて川の流れを変える」という表現で、時間がかかるものだと説明されて。「Dove」のキャンペーンは、この典型的な事例だなと思いました。

私は昨年まで広告代理店の側からブランドのつくり方を見ていましたが、マーケティング業界が単年度の成果をすごく追うようになったので、もしかしたら事業会社の方からのブリーフィングやオリエンテーションが目先のところに行きがちなのかなと考えていました。

田上
事業会社としては、短期のビジネスがないと次の年の予算につながらないので、事業会社の担当者が、短期的に結果を出しながらも、中長期の結果を出していくこと、ブランドを育てていくことの両軸を柱として持ちつつ、エージェンシーの皆さんと協業していく必要があると、すごく思いますね。エージェンシー任せではダメだし、エージェンシーによるクリエイティビティがなかったら絶対にブランドは成立しないので、それぞれがそれぞれの役を全うしながら、 社会発想で取り組んでいくことが大事だなと思っています。

カンヌに行ったら事業会社のグローバルの経営陣 の方にお会いする機会がたくさんあって。日本も「キャンペーンやコミュニケーションは、マーケティング部門だけの仕事」という考えから脱却する必要があると思いました。もっと本気で「経営戦略にクリエイティビティを取り込んで行く」時代に向けて、アクセルを踏んだ方がいいんじゃないかなと、事業会社の経営陣の一人として、非常に強く感じました。

カンヌの道も「PRアワードグランプリ」から


「PRアワードグランプリ」が改革されてから、もう10年ぐらい経ちますが、グローバル基準にどんどん近づいているので、カンヌなどのアワードを目指す第一歩になるんじゃないかなと思います。

田上
カンヌと評価基準がほとんど一緒ですよね。私は「PRアワードグランプリ」の審査員をかつて3年間やらせていただき、今回、カンヌの審査員を初めて務めたのですが、非常に感じが似ていると思いました。そういう意味では、カンヌを目指す方は先に「PRアワードグランプリ」でエントリーボードをつくると非常に整理されますし、審査の過程で何が足りないのかということがご自分でも分かった上で、来年のカンヌのアワードのエントリー につながるんじゃないかなと思うので、「PRアワードグランプリ」は登竜門と言えるのではないでしょうか。

私も今年久しぶりに「PRアワードグランプリ」の審査員に戻ってきたので、すごく楽しみにしていますし、プレゼンの中でお会いできる方には、「カンヌに行くには、ここを変えた方がいいよ」というアドバイスをしたいなと思います。

山口
「カンヌの道も『PRアワードグランプリ』から」ということで、10月15日(火)までエントリーを受け付けておりますので、 ぜひご応募ください。

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