4つのキーワードで考える、最強軍団への再建策
歴史的な大敗ながらも、観客動員数は昨年を大きく上回った。ヒーローインタビュー改革も進み、9月30日のファイターズ戦でお立ち台に上った、(左から)岸潤一郎選手、武内夏暉投手、西川愛也選手。
ライオンズに着任してから約1年半の間に起きた出来事をこのコラムで書かせていただきましたが、今回が最終回となります。
2024シーズンは、球団史上最も勝てないシーズンとなりました。松井稼頭央監督がセ・パ交流戦前に休養し、渡辺久信ゼネラルマネージャーが代行で監督も兼務しましたが、巻き返すことはできず、残念ながら3年ぶりリーグ最下位となりました。来シーズンは西口文也新監督のもと、秋季練習から選手一人ひとりが、この悔しさをばねに、しっかり猛練習を行ってくれるとこだと思います。
今年も元旦から能登半島での大地震が起こり、追い打ちをかけるような今夏の大雨。その他にも各地で天災により多くの被害が起きています。AIの急速な進化、世界各地で起こる紛争など、VUCAと言われるこの時代だからこそ、広報にも注目が集まっています。
そして、ライオンズの変革にも広報は絶対に欠かすことができないピースです。熱いファンに囲まれている球団であることを自負し、従来の手法に留まらず、新たなコミュニケーション手法で、選手と共にいかにして最強軍団を再建していくのか、4つのキーワードで考えたいと思います。
(1)課題解決――負のイメージ払拭とSNS投稿の見直し
1つ目のキーワードは「課題解決」です。チーム強化の観点でも広報が担えることは非常に多くありますが、ここは対戦相手のこともあり、あまり語るべきところではないため伏せさせていただきます。
球団の課題解決の面で言えば、固着する負のイメージの払拭が一つの例です。ライオンズの本拠地、ベルーナドームの立地は周囲に多摩湖や狭山公園など、豊かな自然が広がる場所にあります。
そんなベルーナドームは、都心から遠いイメージがありますが、他の球場とターミナル駅からの所要時間を比べると、決して遠くはありません。駅の改札から球場のゲートまでの距離の近さは12球団で随一。池袋駅から西武鉄道の特急ラビューに乗れば、最速32分(池袋から西武球場駅まで最速29分+改札から最も近い席まで3分と計算)で応援席に到着することができるのです。
これは、ビジターゲームでチームに帯同したときに気がつきました。通常、広報担当は宿舎とビジター球場を選手と共にバスで移動しますが、私はチームと異なる動きをしています。それはお客さまの目線を知りたいからです。
チケットを自分で買い、電車やバスを乗り継いで球場に向かい、入場ゲートを通り座席に到着します。この時、所要時間を計っていますが、最寄駅からビジター球場まで遠かったり、入場ゲートで必要以上に待たされたりと、ベルーナドームと比べ、大きな違いはありませんでしたし、それ以上に時間がかかる球場もありまた。
こういった「遠い」という固着したイメージを、定量的なものも用いて解消していきたいと思っています。実際に体感いただいた記者からも好評で、記事もアップされています。
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球団公式SNSも改善しました。軸足を外にも置く広報部門だからこそ、広聴機能は課題を見つけるのに大いに役立ちます。
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ライオンズに着任してしばらく経ったころ、ある知人から「ライオンズってすごく面白いイベントをやっているけど、SNSはチームや選手の投稿がメインだよね」と言われました。
調べてみると、主にプロ野球事業を主体としている部門がSNSの運営をしていたため、それ以外の情報が入りづらく、全社的目線から見ても有機的に機能しているとは言えませんでした。その解決策として、社内の情報が網羅的に入る広報部にSNSチームを組み入れることを経営に提案し、今年の4月から新たな体制で運用を始めています。
それまで、試合の勝敗などチーム関係の情報発信が主だったSNSは、スタジアムグルメやグッズ、ファンクラブ関連、自主興行イベントやスポンサーPRなど、幅広い情報を扱うことにより社内的な信頼度を高めました。
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それにより、SNSチームが新しいことにチャレンジする際、他部署も非常に協力的に動いてくれるようになり、より良質なコンテンツが提供できるようになりました。その結果、広報部移管後はX、Instagram、YouTubeの全てで目標数以上にフォロワーを獲得することができています。
(2)オンライン――PESOモデルで考える
2つ目のキーワードは「オンライン」です。統合型マーケティングコミュニケーションを行う上で、デジタルの領域は欠かせません。
前述のとおり、より高度なコミュニケーションを行うため、ライオンズでは「PESOモデル」を活用しています。
『広報会議』2017年10月号より
広く顧客接点を作れるペイドメディア(P)、評判を獲得し信頼を集めるためのアーンドメディア(E)、自社の自由な裁量で作れるオウンドメディア(O)、そしてUGCに代表されるようにすべての人が発信者になれるシェアードメディア(S)を有機的につなぐことで、体系的に顧客にアプローチしています。
PESOモデルの肝はシェアードメディアです。近年、アーンドメディアの代表格であるマスコミも、常時SNSをウォッチしています。なにかがバズっていたり、ブームの兆しがあると、それを報道する。いかに自社で創り上げたコンテンツが、SNSでエンゲージメントを高められるのかがポイントです。
単にインプレッションを上げるために奇抜なことを行うのではなく、長く歴史あるプロ野球だからこそ、正当な形で話題になるように努めています。
そのSNSで拡散された自社コンテンツをいかにメディアに取り上げてもらうか。当然、広報担当としては能動的にパブリシティを獲得する基礎体力的なスキルは絶対的に必要ですが、単に売り込みだけではなく、マスコミが取り上げなくてはならない必然性を自らで作っていくことも同時並行でやっています。
これは夢?? https://t.co/ZrkhtNypjJ
— Kyosuke Matsuyama/松山恭助 (@kyosuke_1219) August 6, 2024
最近の例では、ライオンズファンを公言している、フェンシング日本代表の松山恭助選手とXでコミュニケーションを図り、非常に大きな話題も呼びました。
その結果、松山選手のスポンサーのJTBさまも連携し、ライオンズの公式試合でセレモニアルピッチなどをやっていただくことにもつながりました。
9月29日、フェンシングの松山恭助選手によるセレモニアルピッチが実現した。
前述したようにSNSが広報部に加わることで、機能の向上が認められ、2024年10月1日付にはデザインとプロモーションの両部門が、新たに広報部に加わりました。所帯は大きくなりますが、基本的な考え方は変えず、仲間と共によく情報を共有し、高度な連携を図っていきます。