糸井重里さんに聞く、「不思議、大好き。」「おいしい生活。」などのコピーが生まれた現場(前編)

「人間であればすべてを受け入れる」という日刊アルバイトニュースの懐の深さを表現する

谷山:続いて取り上げるのは、学生援護会の「人間だったらよかったんだけどねぇ。」です。

学生援護会/日刊アルバイトニュース「牛」篇(1984年)テレビCM30秒
 
オバサン:あんた、日刊アルバイトニュース見たっていう学生さんなんだけどね。
オジサン:人間だったらよかったんだけどねぇ。
オバサン:惜しいけどねぇ。
M+S:だんぜん、日刊アルバイトニュース

谷山:これは、日刊アルバイトニュースのCMのセリフの一部で、僕も非常に印象に残っているコピーです。CMの舞台は、たい焼き屋さん。そこに学生帽をかぶった牛がやってきて、おかみさんが「あんた、アルバイトしたいって学生さんが来たんだけど」と言うと、ご主人が「人間だったらよかったんだけどねぇ」というストーリー。そのたい焼き屋さんの前で、日刊アルバイトニュースを手にした斉藤慶子さんが佇んでいるという設定でしたね。

糸井:牛がアルバイトしたいと訪れるシリーズのほかに、富士山が詰め襟を着て八百屋さんにアルバイトを申し出るというシリーズも制作しました。それに登場したのはキョンキョン(小泉今日子)でした。たしか、斉藤慶子さんが登場した次のシリーズだったと思います。

谷山:たい焼き屋さんは、麻布十番にある「浪花家総本店」がモデルでしたよね。

糸井:そうです。それをセットで再現しました。

谷山:僕はこのシリーズがすごく好きなんです。西武に代表されるようなカルチャーとしての80年代広告とは別に、こういう「軽み」みたいなものもその時代を象徴しているなと思っていました。

糸井:これは当時、西武の広告を一緒につくっていたピラミッドフィルムという制作会社から、「予算はあまりないんだけど、手伝ってほしい」と相談されたのがきっかけです。コピーだけでなく、すべて任せるという依頼で、そういう仕事を一度やってみたかったんですよね。それで、絵コンテから全部僕が描いています。演出は、1本目が関谷宗介さん、2本目が川崎徹さんですね。CMの最後に「だんぜん、日刊アルバイトニュース」というキャッチフレーズも入るのですが、そこまで一式考えました。

谷山:キョンキョンや斉藤慶子さんは、アルバイトに応募してきた学生という設定だったんですか?

糸井:いや、実は全然関係ないんです。応募してきたのは牛です。牛だけで終わらせちゃうのは、愛想がないかなと思って。

谷山:確かに、それだとシュールすぎますよね。

糸井:そうなんです。もし牛だけのシーンで終わってしまうと、つくり手がただ遊んでいるように見えてしまいます。「人間であればすべてを受け入れる」という日刊アルバイトニュースの懐の深さを表現する広告になることを意識してコピーを書きました。

谷山:このCMは今の時代でも、、リメイクすれば受け入れられる内容ではないかと思っています。

後編へ続く

糸井重里(いとい・しげさと)

1948年、群馬県生まれ。株式会社ほぼ日 代表取締役社長。コピーライターとして数々のコピーをヒットさせるとともに、作詞やエッセイ執筆、ゲーム制作など、多彩な分野で活躍。「ほぼ日刊イトイ新聞」では、「ほぼ日手帳」をはじめ「ほぼ日のアースボール」「ほぼ日の學校」などさまざまなコンテンツを手がける。

谷山雅計 (たにやま・まさかず)

1961年大阪府生まれ。コピーライター/クリエイティブディレクター。」84年東京大学教養学部教養学科アメリカ科卒業 同年博報堂入社。1997年に有限会社谷山広告設立。主な仕事: 新潮文庫「Yonda?」、資生堂「TSUBAKI」、東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、東洋水産「マルちゃん正麺」、キリンビバレッジ「生茶」、日本テレビ「日テレ営業中」など。著作に「広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉」、「広告コピーってこう書くんだ!相談室」(宣伝会議)。2019年4月から東京コピーライターズクラブ会長。

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