ブランドには、世界をより良くする使命がある
橋口:今日僕がお話ししたいのは、なぜ今DEIをブランドに求めているかということです。僕は、現代社会におけるブランドの使命についていつも考えているのですが、答えはとてもシンプルで、世界をより良い場所にすることなのだと思っています。もちろんお金を儲けることも大切ですが、それは息をすることやご飯を食べることと同じで、それで何をするかといえば、世界をより良い場所にするということなのだと思います。
今は世界的にそうした潮流になっていて、ドイツ人の哲学者であるマルクス・ガブリエル氏は、著書『倫理資本主義の時代』で「企業の目的は善行であり、善行によって利益を得ることである」と言っています。一見きれいごとのように聞こえますが、気候変動や猛暑、環境破壊などの問題が広がる中で、資本主義というものが限界に来ているということは、何となく皆思っているわけです。
では、今後どうすべきか。僕は、倫理資本主義にあるように、資本主義はそもそも世の中を良くするためのものだと考えて仕事をしていきたいと思っています。というのも、今の社会にいろいろ問題はあるものの、大きな目で見れば、極端な貧困や不幸にある人は減っていると言われています。この流れをもっと推し進めて、その資本主義の力を良い目的に使えば今の課題を乗り越えられるのではないかという考え方があり、よく広告クリエイティブの世界でソーシャルグッドだと言われるDEIやSDGsなども、その論理資本主義の流れの中で登場してきているのだと考えています。
DEI×クリエイティブの最大の成功例は、パラリンピックの広告です。2012年のロンドンパラリンピックの広告では、パラアスリートの凄さをスタイリッシュな映像で描きました。それまで障害者スポーツはチャリティーのような視点で見られていましたが、本当はスーパーヒューマンのかっこいいアスリートなのだという文脈でCMをつくったんです。これは、当時カンヌライオンズのグランプリも獲った名作で、その年のパラリンピックのチケットは完売し、その次に開催されたパラリンピックの視聴率にも非常に良い結果をもたらしました。
しかしその一方で、障害者をスーパーヒューマンと持て囃すのではなく、むしろ彼らを普通の人間として暮らせるようにしなければならないという批判も起きました。そこで、この広告のつくり手は、表現をアップデート。地道に練習している人間らしい側面や、日常生活での生きづらさも描き、その批判に見事に応えたんです。
このように、DEIのクリエイティブに100点満点はあり得ません。当事者と対話をして、批判を受け止めて、表現をアップデートし続けることが大切だと考えています。僕らのBORDERLESS CREATIVEのチームでも、ブランドとクリエイターと当事者や専門家が一緒になってセッションしながらつくっていくことを提唱しており、それがこれからのクリエイティブビジネスの主流になっていくのではないかと思っています。
阿部:本講座の中でも、座学の回もあれば、ワークショップも交えて対話をしながら、互いにつながり合い、ともに学び合える内容にしていきたいと考えています。
質疑応答
Q1.無料体験講座で初めてDEIに触れて興味を持ったという人でも、本講座のカリキュラムについていけますか。
A.まったく問題ありません。特に最初の2回では、DEIが注目されるようになるまでの歴史からさかのぼってお伝えします。僕たちも決してDEIのエキスパートというわけではありませんし、一緒に皆さんと学びながらやっていこうと考えています。
Q2.DEIの視点は、プロダクト開発にも生かせますか。
A. 今年のカンヌライオンズでは、トランス女性向けの肌ケア商品がグランプリを獲得しました。DEIの視点は、広告クリエイティブ以上にプロダクト開発で注目されていますし、実際にすごく活用できるのではないかと思っています。
DEIとコミュニケーションについて学ぶ
BORDERLESS CREATIVE SCHOOL 今期初開催です!
◯2024年10月22日(火)開講
◯全8回、隔週火曜日19:00-21:00開催
◯教室参加/オンライン参加 自由選択制
◯定員は25名、先着順で受付中