当初は会員制クラブの名称だった「くうねるあそぶ。」他、糸井重里さんに聞く名作コピーが生まれた現場(後編)

「夢を見よう」という発想ではなく、「夢が見えたら、動かせよ」

夢には翼しかついていない。
足をつけて、
歩き出させよう。
手をつけて、
なにかをこしらえたり、
つなぎあったりさせよう。
やがて、目が見開き、
耳が音を聞きはじめ、
口は話したり歌ったりしはじめる。
 
夢においしいものを食べさせよう。
いろんなものを見せたり、
たくさんのことばや歌を聞かせよう。
そして、森を駆けたり、
海を泳いだりもさせてやろう。
 
夢は、ぼくたちの姿に似てくるだろう。
そして、ぼくらは、夢に似ていく。
 
夢に手足を。
そして、手足に夢を。

(ほぼ日/2016年)

谷山:最後に紹介するのは、株式会社ほぼ日の企業スローガン「夢に手足を。」です。この言葉は、ほぼ日で働く人たちにはおなじみですが、一般的には知らない人も多いのではと思います。僕が初めてこの言葉を見たのは2016年で、そのとき本当に驚きました。糸井さんから、このコピーについて説明をお願いします。

糸井:僕は、「夢」や「愛」や「地球」といった言葉は、あまり使わないほうがいいと思っているんです。というのも、これらの言葉は「いいに決まっている」言葉だから。「夢があっていいですね」とか、「夢を持たなきゃ」とか、「もっと大きな夢を持とう」などと言うと思考が停止して、言葉だけで終わってしまう気がするんです。だから、夢という言葉は使えずにいました。

だけど、「夢を見よう」という発想ではなく、「夢が見えたら、動かせよ」と捉え直すと、夢という言葉が使えるような気がしました。

僕自身、「自分には夢がないな」と思っていました。だけど、よく考えると、夢がないのではなく、実現しようとするから、夢とは呼べなくなるんだと思って。そういった考えであれば表現できるかなと思い、社内で使える言葉として書いてみたのが「夢に手足を。」でした。

写真 人物 個人 糸井重里さん

谷山:夢や未来というワードを使うコピーは、ほとんどいいコピーがなくて、その中でこれはダントツナンバー1だと思っています。みんな「夢には翼がある」と素敵なことのように言いますが、その翼の前にもっと必要なものがある。「手足」が必要なんじゃないかと。それを明確に示していて、説得力があります。手足のない夢を夢と言っている場合じゃないと、本当に感心しました。

僕もあまり自分で夢は持たない。夢じゃなくて計画だということにしておこうと思って、いろいろなことをやっていくタイプの人間なので夢は遠ざけていました。でも、夢に「手足が生える」ということに驚いて感動して…。こんなすごいことを言える経営者はいません。それくらい、この言葉が大好きです。

糸井:うちも使っていいですかとよく言われます(笑)。

谷山:CMプランナー 山崎隆明さんにこのコピーの話をしたら、いたく感動して。これ絶対にTCC賞に応募してほしいと言っていたのですが、応募されないから。僕と山崎さんの間では2016年グランプリはこれ、となっています(笑)。

今日はコピーにとどまらず、たくさんのお話いただきました。糸井さんとお話をさせていただく機会はこれまでもありましたが、自分が思っていた糸井さん像と少し違う印象を受けました。言葉の使い方や技法ということだけではなく、人との出会いや現場に身を置く中で経験したことが、コピーにも深く関わってくる。今日はあらためてそのことを知ることができたと思います。

写真 人物 プロフィール 谷山雅計さん、糸井重里さん

糸井重里(いとい・しげさと)

1948年、群馬県生まれ。株式会社ほぼ日 代表取締役社長。コピーライターとして数々のコピーをヒットさせるとともに、作詞やエッセイ執筆、ゲーム制作など、多彩な分野で活躍。「ほぼ日刊イトイ新聞」では、「ほぼ日手帳」をはじめ「ほぼ日のアースボール」「ほぼ日の學校」などさまざまなコンテンツを手がける。

谷山雅計(たにやま・まさかず)

1961年大阪府生まれ。コピーライター/クリエイティブディレクター。84年東京大学教養学部教養学科アメリカ科卒業 同年博報堂入社。1997年に有限会社谷山広告設立。主な仕事: 新潮文庫「Yonda?」、資生堂「TSUBAKI」、東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、東洋水産「マルちゃん正麺」、キリンビバレッジ「生茶」、日本テレビ「日テレ営業中」など。著作に「広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉」、「広告コピーってこう書くんだ!相談室」(宣伝会議)。2019年4月から東京コピーライターズクラブ会長。

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