「海に依存しない陸上養殖で未来の魚食文化を創造する」FRDのマーケティング戦略

生活者の意識・行動の変化が激しい時代。生活者の支持を得るブランドになるためには市場の動向に合わせてスピーディーな意思決定も必要です。こうした市場で顧客を増やし成長を遂げるスタートアップ企業では、どのようなマーケティング戦略が企画され、また実行されているのでしょうか。新興企業の戦略から新しいマーケティングの方法論を導き出します。今回は、FRDジャパン チーフマーケター宮川千裕 氏に話を聞いた。

 

※本記事は、月刊『宣伝会議』11月号の連載「急成長スタートアップ企業に聞く!『わが社のマーケティング戦略』」に掲載されています。

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宮川千裕 氏

FRDジャパン
チーフマーケター

【FRDジャパン会社概要】

設立年 2013年
従業員数 29名
事業概要
高度ろ過技術を用いた陸上養殖設備で高鮮度・高品質のサーモンを生産し、通年での出荷を実現。

日本の食の課題を解決するサーモンの陸上養殖

「海に依存しない陸上養殖で未来の魚食文化を創造する」というビジョンを掲げ、サーモンの陸上養殖を手掛けているFRDジャパン。現在では、千葉県木更津市にあるプラントで、陸上養殖で育てたサーモントラウト「おかそだち」を年間約30トン生産、および販売している。事業立ち上げの背景には、日本におけるサーモン養殖が抱える課題があった。従来の陸上養殖は、海や川の近くで水を入れ替えながら行われる。しかしながら、日本をはじめとするアジア地域でサーモンを養殖するには夏の水温が高くなるため、養殖池の水温が上がりすぎてしまうという課題があったのだ。冷たい水で育つサーモンを夏にも養殖するためには入れ替える水の温度を下げなくてはならず、その電気代のために膨大な冷却コストがかかってしまう。その結果、1年を通じて安定生産することが難しいという状況が続いていた。

この課題を解決したのがFRDジャパンだ。同社が開発した閉鎖循環式陸上養殖システムを用いると、換水率を最低限に抑えながら水を循環させることが可能になる。この技術により、海からも、川からも離れた陸上での養殖、ならびに年間を通じた生産と価格の安定したサーモンの生産を実現した。換水率を最小限に抑えることで冷却コストを軽減できるうえに、海水からの魚病や、海上養殖ではたびたび問題になる餌などによる海洋汚染のリスクを防ぐことができるようになった。

同社ではこの事業を拡大させ、国産サーモン「おかそだち」の販売数を伸ばすことを当面の目標に掲げている。設備投資のコストがかかるものの、現在、国内で消費される養殖サーモンの9割以上は輸入品。「ノルウェーやチリといった外国から輸入されたサーモンは輸送費、関税がかかるため、国内での陸上養殖サーモンでも価格競争力を発揮できる」と同社のチーフマーケター 宮川千裕氏は話す。

現在は木更津市の実証実験プラントを運営しながら、富津市により大型の商業プラントを建築している最中だ。2027年から出荷開始を予定しており、将来的には生産量を3500トンまで増やすことを目標としているという。

写真 おかそだちサーモンの販売ブース

おかそだちサーモンの販売ブース。

イメージ おかそだちサーモンのブランドロゴ。

おかそだちサーモンのブランドロゴ。

限られた顧客だからこそ商品に込めるメッセージ

現在、FRDジャパンで生産できるサーモンの量は年間で30トン。年間20万トン前後ある国内消費と比べると、その量には限りがある。一方で、国内の一次産業や、食料自給率、海洋汚染、漁業の持続可能性など、社会課題に対応した事業内容であり、取引を希望する企業からの問い合わせは多いという。またテレビや雑誌など、メディアにも取り上げられることが多く、知名度に関しても、自社で広告を打たずとも確保できつつあるという。生産量が限られているため、取引先を制限したうえで、限定した店舗で限定した曜日に販売・提供しているのが現状だ。
だが限定された取引先としか付き合えない以上、既存の顧客との関係性を大切にしていると宮川氏は話す。
…この続きは10月1日発売の月刊『宣伝会議』11月号で読むことができます。

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