社内のDE&I推進プロジェクト、活動を「プ譜」で具体化(大広・大広WEDO)

2023年より、大広・大広WEDO社内で有志社員が進めているDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)推進のための「COCO-PJ」。年齢、性別、職種、部署も異なる多様なメンバーが20名弱集まり、実務の傍ら活動を推進しています。そんなCOCOプロジェクトではプロジェクトの言語化・構造化ツール「プ譜」を取り入れています。プロジェクトリーダーの岸本尚実さんに、プ譜考案者の一人である前田考歩氏が話を聞きました。
表 プ譜(プロジェクト譜)

プ譜(プロジェクト譜)とは:プロジェクトの全体像、因果関係、構造を表現するためのフレームワーク。将棋の「棋譜」になぞらえて命名。「プ譜」の解説動画はこちら

近年社会的な要請を受け、SDGs、DE&I、DX、CSRなどの社内プロジェクトが各企業で立ち上がっています。しかし、これらのプロジェクトはテーマが広く、大きすぎて、活動の範囲(スコープ)や目標設定が難しいという課題があります。
テーマが広く、大きすぎることは、テーマに対するプロジェクトチームメンバーの課題意識や目指す方向性がバラバラになりがちという課題も生みます。これらの課題が原因となって、いつのまにかプロジェクトが雲散霧消してしまったり、成果らしい成果を出せないまま、形ばかりの報告書を出して終わってしまったりということが起きがちです。
この記事では、書籍『予定通り進まないプロジェクトの進め方』で提唱され、教育講座でも人気のプロジェクトマネジメントのツール「プ譜(プロジェクト譜)」を使用し、社員起案のDE&Iプロジェクトを推進し、成果を出した事例を紹介します。

女性活躍推進プロジェクトからDE&I推進にリニューアル 注力領域を定めるために「プ譜」導入

COCO-PJ(誰もが心置きなく活躍する職場創りプロジェクト)は、大広・大広WEDOの有志社員による会社公認のDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)推進プロジェクトです。当初は女性活躍推進プロジェクトとしてスタートしましたが、社会の変化や政府の政策(ダイバーシティ2.0)を受け、2023年にDE&I推進プロジェクトとしてリニューアルしました。
COCO-PJではリニューアル当初からプロジェクトの言語化・構造化ツール「プ譜」を取り入れていたと言います。プ譜を活用したプロジェクト全体像の把握や方向性の共有、チームビルディングの実践などの工夫と成果について、プロジェクト・サブマネジャーの岸本尚実さんに聞きました。

写真 人物 集合 子ども会社参観日

子育て中の社員の理解を深める一環としてCOCO-PJが行った「子ども会社参観日」。

━━COCO-PJではどのような活動を行っているのですか?

主に4つの分科会に分かれて活動しています。社内におけるDE&Iに関する現状把握や課題の顕在化のための調査、アンケートなどを行う調査チーム。社員への情報提供方法の改善、風土改革などを担当するコミュニケーションチーム。子育てチームと介護チームはそれぞれのテーマに関する制度導入や企画などを、担当部署と連携して提案・交渉しています。全体会を月1回開催して、プロジェクト全体の進捗共有、情報交換などを行っています。

━━社員の自主的なプロジェクトとして立ち上がったとのことですが、これまでプロジェクトを進めるうえでどのような課題がありましたか?

もともとは女性活躍推進プロジェクトとしてスタートしていたので、目指したいこととやるべきことがコンパクトでわかりやすかったのですが、テーマがDE&Iと大きくなったことと、メンバーが課題に感じることが異なっているため、最初はプロジェクトのスコープや方向性がぼやっとしていました。注力領域を定めないとリソースが分散して効果が出なくなると考え、この1年から3年の注力領域を決めるために、COCOプロジェクトの目標である「誰もが心置きなく活躍できる職場をつくる」をお題にして、メンバーそれぞれにプロジェクトの進め方をプ譜に書いてきてもらうことにしました。

メンバーが考えたプ譜

メンバーが考えたプ譜(拡大してご覧ください)

━━さまざまな選択肢の中から、どのような理由でプ譜を選んだのですか?

プ譜を知ったのは、会社でプ譜を用いたプロジェクトのワークショップに参加したのがきっかけです。パワーポイント1枚でプロジェクトの全体像を表現できるのと、プロジェクトマネジメント経験のない人でも書きやすいので使うことにしました。

━━書かれたプ譜を拝見すると、同じ題材でも課題に感じているところが異なっていたり、「誰もが心置きなく働ける職場」というものに抱いているイメージが多様であることがわかりますね。

それぞれ、自分の気になることについては具体的な施策がたくさん出てきます。そうした差異は悪いことではなく、むしろプロジェクトを進める原動力につながると思っています。とはいえ、バラバラなままではいけないので、私の方で全員の考えを集約して、1つのプ譜にまとめました。

COCO-PJの全体像を現すために、プ譜は最終的に1枚に集約。

COCO-PJの全体像を現すために、プ譜は最終的に1枚に集約。

この過程で、課題感として大きく、解決したときのインパクトの大きいものが4つの分科会になりました。

━━挙手制で、かつ現業の傍らに行うプロジェクではメンバーの考えや意見をどこまで尊重するのかが難しいと思いますが、マネジメントの際に気をつけたことはありますか?

メンバーの「課題を解決したい」という意思を尊重することは大前提です。ただ、現業との両立ということで、使える時間は限られています。施策の取捨選択では、国の制度など自分たちでは動かしがたいものは対象から外し、自分たちが影響を与えられるものから取り組もうという基準を設けました。また、制度の導入などについては、自分たちには提言できても実際に動くのは人事を担う部署なので、COCO-PJでなければできないことは何か?ということを考えるようにしました。

子育て中の社員に向けた施策や介護の実態調査など、さまざまな施策が生まれた

━━集約されたプ譜の中間目的を見ると、自分たちだけですぐに成果を手に入れられるものもあれば、会社の人事部などとの連携が必要なところや、影響を与えるのに時間のかかるものもありますね。このように整理したなかで、具体的にどのような活動に落とし込んだのでしょうか?

最初に行ったのは、COCO-PJの子育て中の社員が子育ての相談に乗る「COCOトークルーム」という施策です。リアルとオンラインで実施しました。話している内容は子育てに関する井戸端会議のようなものですが、最初は子育て中の社員のために始めた活動が、実は相談にのるメンバーの息抜きにもなったり、子育て中の社員の実態を知れたりと、当初考えていたよりも得られるものが多い施策になりました。相談をする社員にとっても、会社公認のプロジェクトということで、相談にのることが会社貢献にもつながり、関わる人たちが全員WIN-WINの関係になっています。
介護については社員の実態がわからなかったのでインタビューやアンケートから始めました。当初、アンケート回答者は20~30名を想定していましたが、約120人の回答があり、このテーマについて関心を持っている社員が多いことが顕在化されました。
他にも、会社に子育てや介護に関する制度はあっても、それが社員に伝わっていない実態がわかったので、月1回、DE&Iに関する情報を紹介するメールマガジンを発行することにしました。そのなかで、利用者目線での制度紹介を行ったところ、「メルマガを見てるよ」といった反響が出てきて、全社会議のなかで社長からメルマガに記載したハラスメントの話題を取り上げてもらい、徐々に社内での認知度も上がってきたと思います。

議事録でもプ譜を活用、チームビルディングにも効果を発揮

━━これらの活動を行う上で、プ譜はどのように役立っているでしょうか?

チームビルディングでの効果が大きいです。最初に一人一人の考えをプ譜に書き、それを一つにまとめていくことで、それぞれ出発点や課題意識の異なるメンバーの視座を揃え、共通認識の形成と意識づけができました。プロジェクトで目指すもの、方向性、個々の施策の関係を1枚で可視化することができるので、自分の注力領域だけでなく、プロジェクト全体のことを意識して行動してもらっていると感じます。
また、ミーティングの場でも議事録代わりに使っています。議事録は話していることのレイヤーや関係性がわかりづらく、読むのに時間がかかったりするのですが、1枚の図にまとまっていることで、今の状況の把握やこれからの進め方がわかりやすく、考えやすくなるという利点があります。

━━COCO-PJのような社内プロジェクトを行っている方へ、アドバイスがあればお願いします。

COCO-PJでもそうでしたが、DE&Iのようなスコープの広いテーマでは、メンバーの中には「最初に何をしたらいいんだろう?」と迷ってしまう人もいると思います。COCO-PJでは、自分たちが影響を与えられることを「小さくてもいいので動かそう」「アクションに還元しよう」ということを伝え、実行してきました。その過程で、会社が埋め切れていない、ケアしきれていない部分を見つけて埋めていくのが、COCO-PJの存在意義なんじゃないかというプロジェクトの方針ができあがっていきました。
また、社内プロジェクトは現業の傍ら行っている方が多いと思います。COCO-PJは「働きやすさ」がテーマなので、メンバーにムリのないよう、サステナブルなプロジェクトであることを心がけています。ライフステージも変わりますから、そのときどきで課題のある人が参加してくれればいいというスタンスにしています。そのため、毎年メンバーにプロジェクトに継続して参加するかどうかのアンケートをとっています。
また、成果を出すための施策や指標を誤らないことです。例えば、介護離職を減らそうとして早期退職募集を行えば、50代社員の介護離職は減りますが、それは働きやすさにはつながっていないです。

━━コブラ効果のような即効性のありそうな施策に、安易に飛びついてはいけないということですね。

社内には他にも使える制度などのアセットがありますが、多くの企業ではそれを伝えることにリソースを割けていなかったり、制度を使うための組織の風土、社員の価値観といったものがまだできていなかったりします。難しい作業ではありますが、そうした手前の部分を変えていくことが、DE&Iのようなプロジェクトでは必要な作業になってくると思います。

取材を終えて

取材を通じて感じたのは、社内プロジェクトを進める難しさと、それをまとめ上げている岸本さんのリーダーシップです。
様々な立場や価値観、経験、事情を持つメンバーが集まる中で、全員の認識を擦り合わせ、プロジェクトを一つの目標に向かって進めていくのは容易なことではありません。メンバーそれぞれが異なる視点を持ち、優先する課題も異なる中、岸本さんはその違いを尊重しつつ、全員のエネルギーを効果的に結集させる工夫をされていました。その工夫の道具として「プ譜」が役立っていたことに、開発者としてたいへん嬉しい気持ちになりました。
特に印象的だったのは、岸本さんが「まずは小さな一歩を踏み出す」ことを大切にしていた点です。プロジェクトでは小さな成功体験を早く、積み上げていくことが、メンバーのモチベーションを維持し、自分たちの進む方向に自信を持たせるカギになります。皆さんのプロジェクトでも、まずは小さな一歩を踏み出すことで、COCO-PJのように全員の力が集まり、大きな成果につながるはずです。

写真 商品 『予定通り進まないプロジェクトの進め方』

『予定通り進まないプロジェクトの進め方』 (前田考歩・後藤洋平著)

ルーティンではない仕事はすべて「プロジェクト」である――独自のフレームワーク「プ譜」を使って、プロジェクトの状況や諸要素の関係性を構造化し、成功に導くための方法を解説。プロジェクトの全体像を俯瞰し、進行の技術を身につけるための実践書。

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前田考歩(プロジェクトエディター)
前田考歩(プロジェクトエディター)

1978年三重県生まれ。平日8:00〜10:00のみ開業の、問いかけと構造化でプロジェクト進行を支援する『プロジェクト・クリニック』を運営。
自動車メーカーの販売店支援・CSR事業、映画会社のeチケッティング事業、自治体の防災アプリ、保育園検索システム、夫婦の育児情報共有アプリ事業、魚の離乳食的通販事業、テレビCM制作会社の動画制作アプリ事業など、様々な業界と製品のプロジェクトマネジメントに携わる。
プロジェクトに「編集」的方法を活かした、プロジェクト・エディティングを提唱、実践中。
著書に『紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本』(翔泳社)、『予定通り進まないプロジェクトの進め方』『見通し不安なプロジェクトの切り拓き方』(宣伝会議)、『ゼロから身につくプロジェクトを成功させる本〜はじめてのプロジェクトマネジメント〜』(ソーテック社)など。

前田考歩(プロジェクトエディター)

1978年三重県生まれ。平日8:00〜10:00のみ開業の、問いかけと構造化でプロジェクト進行を支援する『プロジェクト・クリニック』を運営。
自動車メーカーの販売店支援・CSR事業、映画会社のeチケッティング事業、自治体の防災アプリ、保育園検索システム、夫婦の育児情報共有アプリ事業、魚の離乳食的通販事業、テレビCM制作会社の動画制作アプリ事業など、様々な業界と製品のプロジェクトマネジメントに携わる。
プロジェクトに「編集」的方法を活かした、プロジェクト・エディティングを提唱、実践中。
著書に『紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本』(翔泳社)、『予定通り進まないプロジェクトの進め方』『見通し不安なプロジェクトの切り拓き方』(宣伝会議)、『ゼロから身につくプロジェクトを成功させる本〜はじめてのプロジェクトマネジメント〜』(ソーテック社)など。

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