オーディオストリーミングプラットフォームSpotifyが主催する広告賞「Spotify Hits」が日本で初めて行われ、10月15日に都内で贈賞式が開かれた。
応募対象は2024年7月までにSpotifyに出稿され、効果検証を終えたすべての広告キャンペーン。グランプリ(Spotify Mic Drop)に加え、クリエイティビティに富んだ革新的な音声でブランドのゴール達成に貢献したキャンペーンを選出するベストオーディオキャンペーン(Future Sounds)、Spotify上で音声や動画といったフォーマットを複合的に活用し成果を収めたキャンペーンを選出するベストマルチフォーマットキャンペーン (Sound & Story)の2つの部門賞を設置した。
アワード受賞各社と審査員が登壇し、受賞作品について振り返る
グランプリに選ばれたのは日本ケンタッキー・フライド・チキン(日本KFC)の『Yes! 和カツ食いに行く』。音声広告というプラットフォーム特性を活用し、高須クリニックのCMを再現度高くパロディ化するという手法が高く評価された。Future Sounds (ベストオーディオキャンペーン)にはアース製薬、Sound & Story (ベストマルチフォーマットキャンペーン)にはエスエス製薬がそれぞれ受賞した。
Spotifyグローバル広告営業/パートナーシップ最高責任者のブライアン・バーナー氏による開会あいさつ
本賞は2023年にブラジルとメキシコで始まった。Spotifyの広告プラットフォームとしての成長を背景に、今年は日本のほか欧米やインド、オーストラリアに広がっている。
各賞の結果(広告主、キャンペーン名、企画・制作会社の順)、受賞コメントは次の通り。
Spotify Mic Drop (グランプリ)
日本ケンタッキー・フライド・チキン/知られざる定番「和カツバーガー」リローンチキャンペーン 『Yes! 和カツ食いに行く』(企画・制作:博報堂、博報堂プロダクツ、博報堂DYメディアパートナーズ、えるマネージメント、ミューズ、メロディー・パンチ)
キャンペーン概要:
和風チキンカツバーガー、通称「和カツ」の認知とトライアル促進を目的に、Spotifyの音声広告を展開。「和カツ食いに行く」と「高須クリニック」で韻を踏めるという発見から、誰もが聞いたことのある高須クリニックCMソングの替え歌を通じて、テレビなど他メディアでは捉えることが難しい外出時・移動中などオフスクリーン時のユーザーへ耳からアプローチすることで、「和カツ」の愛称と商品のユニークネスを印象的に記憶に残した。
国民的CMソングのパロディ実現に感謝
グランプリ受賞、心より嬉しく思います。和⾵チキンカツバーガーは10年以上メディアを通じてのコミュニケーションを実施していなかったものの、根強いファンも多く、隠れた定番メニューとしてポテンシャルを感じておりました。
新愛称「和カツ」の浸透とトライアル促進を目的に企画を考えていく中で、「和カツ⾷いに⾏く」と「⾼須クリニック」で韻を踏めるという発⾒から、国民的CMソングの替え歌企画が生まれました。これまでケンタッキーのバーガーを食べたことのないお客様にも、面白がって口ずさんでもらえるような楽しいプロモーションになればと思い、今回の制作に至りました。
シズル映像中心のWeb動画とはちがう、耳だけでも和カツの魅力が伝わる歌詞や、進化した楽曲アレンジ、揚げたてのシズル音など、Spotifyに最適化した音源を制作し展開させたことで、他媒体にまでも多くの発話が生まれました。サウンドロゴまで完全パロディさせていただき、高須院長や本家CM楽曲チームの皆さまのご協力に大変感謝しております。
(日本ケンタッキー・フライド・チキン マーケティング部プロモーション課 岡明日美氏)
Future Sounds (ベストオーディオキャンペーン)
アース製薬/アースノーマット 小島よしお音声広告(企画・制作:CHOCOLATE)
キャンペーン概要:
「蚊の不安から家族を守ってくれる信頼できる蚊取りブランド」というブランドパーセプションをより強固なものにするため、アースノーマットの製品機能を生活者の記憶に強く印象付けるプロモーションを実施。小島よしおさんを起用した音声広告を制作し、立体的な蚊の羽音と小島さんの持ちネタである「そんなの関係ねぇ」や「ダイジョブダイジョブ」のフレーズで、アースノーマットがあれば蚊がいても関係ない(=大丈夫である)ことを直感的に表現した。
「ながら聴取」の特性生かしたクリエイティブで訴求
2024年で40周年を迎えるロングセラーブランドのアースノーマット。商品認知は一定程度獲得できているものの、「蚊の不安から家族を守ってくれる信頼できる蚊取りブランド」であるというブランドパーセプションを、より強固なものにすることが課題でした。
Spotifyは記憶や感覚に残りやすく深く印象付けることができる広告媒体であること、また育児や家事などで忙しい人が「ながら聴取」できることに着目。制作にあたってはSpotifyならではの立体的な音の効果を最大限活用したく、蚊が飛び回っている様子を羽音を用いて効果的に表現していただきました。
また、映像で起用した小島よしおさんを音声広告でも起用。「そんなの関係ねぇ」や「ダイジョブダイジョブ~」の持ちネタをちりばめることで、タレントパワーも活用することができました。さらに、媒体の世界観にあわせたセリフを加え、持ちネタの順番を工夫することで、アースノーマットがあれば蚊がいても関係ない(=大丈夫である)ことを直感的に理解していただけるクリエイティブを目指しました。
(アース製薬 コミュニケーションデザイン部 部長 小泉ユミ氏)
Sound & Story (ベストマルチフォーマットキャンペーン)
エスエス製薬/ドリエル20周年 世界の子守歌キャンペーン(企画・制作:電通、電通デジタル、サムワンズガーデン、エムアイティギャザリング、ベルベットオフィス)
キャンペーン概要:
ブランドの認知獲得を目的に、Spotifyが多く利用される就寝時や自宅でのリラックスタイムといった「睡眠」につながるモーメントを捉え、「世界中の子守歌を聞いて楽しめる」キャンペーンを実施。Spotifyにおける音声広告と静止画広告を活用し、SpotifyとAPI連携した世界の子守歌100曲を解説付きで楽しめる特設サイトへ遷移させ、幅広くかつインタラクティブな方法で認知獲得を目指した。
「寝る前に音楽を聴く」ユーザーとの接点を活用
今回の企画は、ブランドの20周年という節目に対して、普段のコミュニケーションとは異なる語り口でユーザーにアプローチすることを目指し立ち上げました。
Spotifyを活用した理由は、「寝る前に音楽を聴く」というユーザーの自然な行動に着目し、その行動との接点を作りたいという考えからです。SpotifyのAPIと連携し、ドリエルの20周年を記念した立体的なキャンペーンを展開できる点も大きな魅力でした。
クリエイティブ制作においては、「すべての人の安眠を願う」というドリエルの理念と、「安眠のために世界中で生まれた子守歌」というファクトを結びつけました。Spotifyには世界中の子守歌が揃っており、それらを活用したプレイリストやスペシャルサイトの制作を通じて、この想いを体現できたと感じています。子守歌の解説やキャンペーンの詳細は文字で伝え、直感に訴える音源や温かい語り口は音声で表現し、視覚と音声の両者が相乗効果を生むように設計しました。
(エスエス製薬 ドリエルブランドマネージャー 亀井枝里子氏)
Spotify Japan 上級執行役員 広告事業部統括の立石ジョー氏による閉会挨拶
審査員が語るアワードへの期待
リズムと音階、言葉を掛け合わせる技術に進化を
嶋 浩一郎氏(博報堂 執行役員/博報堂ケトル ファウンダー)
多くのSpotifyユーザーはイヤホンをしている。彼らは生活の中に音楽を溶け込ましている。そんなリスナーの嗜好性とライフスタイルを解像度高く洞察し、つくられた広告を評価した。ショートリストに残った多くの仕事が音楽好きのファンダムを理解していた。
課題もあった。音楽に乗せて言葉を伝えることは難しい。コピーライティングの技術にプラスして、それを音に乗せる、歌詞にする技術が必要になる。音数があっていればそれでいいわけではない。リズムと音階が、言葉と掛け合わされた時、音楽の効果が最大化するためのクリエイティブ技術を極めなければいけない。
音楽の嵐の中で、広告がどう流れをものにするか
田中 寿氏(電通 CXCC局 CXクリエーティブ推進部 クリエーティブディレクター)
音楽が好き!という共通の属性を持つユーザーが集うプラットフォームであるSpotifyのアワードということで、「音」に対する姿勢を心がけました。メロディとナレーションとSEのマスタリングのバランスやつくられた歌詞の譜割りのハマり方。音楽という大きな塊の中でどう広告が受け入れてもらえているか。広告として企画が優れていても音に対する姿勢が悪いとどこか楽しめない。そんなフィールドなんだと。逆に音楽性だけでも通用しなく、広告としての原理原則も外せない。
かなり誤魔化しの効かないシビアな世界。ですがそれらがシンクロしたときの破壊力は、凄まじいものがあった。広告というか、もはやコンテンツというべきものもあった。一流のアーティスト達が紡ぐ音楽の嵐の中で、どう流れをものにするか、流れを止めるか。クリエイターにとっては力が問われる。
もはや、ミュージック。それがSpotifyの広告。
Spotify Japan「音声クリエイティブの可能性広げたい」
企業のマーケティングにおけるデジタル音声広告の活用が年々増える中、日本初となるSpotify Hitsを開催し、音声クリエイティブの可能性を議論できたことをとても嬉しく思います。
Spotifyはコンテンツ愛に溢れたユーザーが集まり、通勤・通学中やワークアウト中などスクリーンを見ていない時間を含めた1日のあらゆるモーメントで聴取される、生活者にとって1日のパートナーのようなプラットフォーム。アワードを通じて、そんなプラットフォーム特性を活かした数々のクリエイティブな広告体験を目の当たりにし、その可能性を改めて実感することができました。
今後もクリエイターの皆さまとともに、Spotify広告、そして音声クリエイティブの可能性を拡げていけたらと思います。
(スポティファイジャパン 上級執行役員 広告事業部統括 立石ジョー 氏)