自治体の「アリバイ広報」に陥らず、常に共感獲得や行動変容を目指して活動していきたい(流山市・斉藤勇希さん)

Q3:ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。

私が広報業務に携わる上で大切にしていることは、情報を届けたい相手に「理解」していただき、「共感」「行動」していただけるような「伝わる広報」を実践することです。そして、そのような広報マインドを全庁的に広めていくことがとても重要だと考えています。

具体的な話をすると、自治体広報にありがちな「アリバイ広報」「やってます広報」。広報することが目的となってしまい、誰にどんな情報を届けたくて、どういった行動をとってほしいのか、どういった意識を持ってほしいのかを考えることが欠如し、「伝える」ことに重きが置かれてしまっていることが多々あると思います。

しかし、広報はあくまで「手段」であって「目的」ではないのです。「When(いつ)」「Where(どこで)」「Who(誰が)」「What(何を)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」の5W1Hを意識し、その表現で届けたい相手の「理解」が得られるのか、そして、その相手が「共感」してくれるのか、さらには「行動」してくれるのかを常に考え、「共感獲得」や「行動変容」を目指して広報することを心掛けています。

また、市役所は市民生活の多様なニーズに応える必要があります。よって、その業務は多岐にわたります。広報担当部署の職員だけが先述した広報マインドを持っていたとしても、その情報発信には物理的に限界があります。そのため、高い広報マインドを全庁的に全職員に広めていくことが重要です。

現在、実践している取り組みとしては、年2回の庁内広報研修です。うち1回は広報係職員が講師を務め、もう1回は外部講師を招いて実施しています。が、まだまだ広報マインドが高くなってきたな、と思うことは多くありません。

今後も広報研修を継続して実施することはもちろんですが、他自治体でも取り組まれているような「1部署1人以上の広報リーダー制度」のようなものを設けたいと思っています。広報リーダーと広報担当部署がつながる全庁横断的なチームを作ることで、その人材をコアとして各部署の広報マインドの底上げを図ることができます。また、そのチームで業務などの情報を共有することで、広報的な観点から新たな気づきが生まれ、行政サービスそのものを洗練させていく、そのようなことにも取り組んでいければいいなと考えています。

Q4:自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性についてお聞かせください。

流山市に限らず自治体広報全般に言えることかもしれませんが、広報紙頼みの広報マインドが庁内に未だに残っており、広報紙以外の広報をうまく活用しきれていないことが苦労している(悩んでいる)点でしょうか。

広報紙は自治体によって、印刷物はタブロイド版なのかA4冊子版なのか、また、配布方法は新聞折り込みなのか全戸配布なのかという違いはあるものの、そこに住む人々にとって「行政情報を知る」という点においては、最も安心できるツールでありますし、これは民間紙(誌)にはないツールであると思います。そして、このイメージは古くから当然のように浸透していることです。

くしくも行政は民間と比べて年功序列の色が今なお残る組織ですので、先述したイメージをもとに行政情報やイベントを「広報する」という行動をとろうとすると「まずは広報紙に掲載」「広報紙の内容を充実させる」という行動がとられることでしょう。

このことがダメというわけではありませんが、近年、情報のデジタル化はすさまじく、広報紙だけの広報だけでは「広報した(伝わった)」とは言えない時代にあります。

それらを念頭に置くと、今の時代に求められる広報活動は、X(旧Twitter)やinstagramなどのソーシャルメディア、ホームページなどのオウンドメディア、時には広告などを使用するペイドメディア、プレスリリースなどのアーンドメディア(パブリシティ)など、複数のメディアを組み合わせて行っていくことです。1つやったからそれでいいではないのです。情報をキャッチする手段が多様化しているからこそ、発信するツールは幅広くする、使うツールの特性に合わせて伝えたいターゲットに届く言葉や内容で広報活動を行っていくことが求められていると考えます。

先ほどの話と重複しますが、このような考えを全庁的に広めていき、庁内全体の広報マインドを高めていくことが広報担当部署の職員に求められており、それが実践できてくると苦労している(悩んでいる)点が解消されるのだろうなと思っています。

やりがいについては、市民の方から「共感」のお言葉をいただいたとき、「行動」のアクションを起こしていただいたときにしみじみ感じます。

自治体職員は、3~4年を目途に人事異動が行われることが多く、私も4年前に広報担当部署に異動した際には、目の前の業務で手一杯でした(今でも完全な広報の専門家ではありません)。苦労する点とも重なりますが、日々全庁からさまざまな情報が寄せられ、同時に市内ではさまざまな市民活動が行われており、情報は追っても追いきれないのが本音です。さまざまな情報に埋もれながらも、整理して、広報紙やホームページなどで世に発信される。そんな中、広報活動を行ったことに対して「共感」や「行動」が得られたとき、広報に携われてよかったなと感じます。

自治体広報には「住んでいてよかった」「これからも住み続けたい」と思っていただけるよう広報活動をするミッションがあり、その可能性を握っています。
多大な責任とプレッシャーを感じることもありますが、「あなたの流山ライフを豊かに楽しくする」ための「伝わる広報」を突き詰めていきたいです。

【次回のコラムの担当は?】

インスタ広報などで有名な神奈川県三浦郡葉山町の政策課宮崎愛子さんです。

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