リアルとデジタルの融合
矢澤:鉄道会社は従来、お客さまが駅に訪れて、電車に乗って目的地に移動し、実際に体験いただくリアル一辺倒のビジネスでした。そこがコロナ禍になり、人が動かずモノが届くようになった。また、人と離れたところでスムーズにコミュニケーションが取れるようになった。社会のありようが変わっていき、私たちのリアル一辺倒のビジネスでは立ち行かないと思い知らされた3年間でした。
ただ、人は必ずリアルな体験や感動を求めるはず。入り口をデジタルの接点でつくっていき、リアルで経験していく、そういったコミュニケーションに変容させていくことを図っています。そのための取り組みとして、自社アプリやSNSを充実させているところです。
武内:デジタル上のコミュニケーションで、できることを様々取り組んで接点をつくる、ということですね。
矢澤:Xでは、即時性が求められる運行情報など告知系の発信を積極的に行っていますが、Instagramではお客さまの体験を想起させるようなストーリーづくりを目指しています。
武内:コロナ禍で変化を余儀なくされた企業、アフターコロナの戦略を明確にできていない企業は非常に多いので、とても参考になるお話だと思います。今お話しいただいたような方針は、社内ではどういった流れで議論が進んでいったのでしょうか。
矢澤:やはり鉄道利用者が2割まで落ちた局面は深刻で、東急電鉄社内では上から下まで非常に危機感が強かったです。そういった状況で、人がリアルに動くきっかけとしては、駅や紙媒体、メディアなどの従来手法のコミュニケーションだけでは立ち行かないと捉えるようになり、今回だけでなく次に同様の事象が発生した際に備えて、ビジネスの体質を変革する必要があると認識しました。
そのためまずはもう少し、利用者一人ひとりが鉄道や移動に対してどういった期待があるのかを知るべき、と考えるようになりました。
武内:確かに鉄道の場合、利用者の方々の「顔」は見やすいビジネスですが、どういった動機で利用しているか把握するにはもう一段階の向き合いが必要だと感じます。