「地図に残らない」仕事の大切さも伝えるグループCM/大成建設

大成建設の広告といえば、何年経っても色あせない名コピー「地図に残る仕事。」が思い浮かびます。今年7月から放映しているグループCMは、その「資産」を生かしつつ、建設業以外の幅広い事業に携わるグループ社員にフォーカスしているのが特徴。元村田製作所広報部長の大島幸男さんは、このCMが以前のようなストーリー性を排除し、社員を淡々と紹介している点について「素晴らしい」と評価しました。

大成建設グループ「地図に残る仕事。」篇(60秒)

社員の表情を見るだけで感動するCM

大成建設グループのCMは「地図に残る仕事」という感動的なコピーに触れず語ることができない。1992年にスタートしすでに30年以上経過しているのにいまだに色あせず、同社の建築物の技術、品質、社会的意義などへの信頼の源になっている。

以前のアニメーションを使ったCM では、海外の厳しい環境で働く社員たちの、現地のためにと尽くす心意気、愛情、誇りを上質なドラマのようなストーリーと美しい映像で展開し、感動を受けたものだった。

今回のCMの特徴的な点は、それとは真逆に、ストーリー性を排除して建設現場、建造物や設備を背景に、そこで働く社員を淡々と映していることである。大切なPR手段としてのCMなので自社の技術、サービス、熱意あふれる社員像をアピールしたくなるものだが、このCM にはまったくない。社員たちは、語らず、忙しく動き回りもせず、普段通りの表情で、あるいは、はにかみを含んだ笑顔で、時には緊張した表情で立っているだけなのである。

しかし、そんな社員たちの表情が素晴らしい。何度かリプレイして一人一人の表情を見ても飽きることがなく、親しみが増すのである。本当の社員の自然体な姿こそが最も効果的なアピールなのだということを実感した。

グループ全体を大切にする姿勢が伝わる

もう一つ印象的なのは、大成建設「グループ」の企業CMであること。もしかしたら「地図には書かれない」かもしれない設備メンテナンスやハウジング事業も、携わる社員の心の地図には刻まれる大切な仕事として描かれていることである。

メインの本社事業に焦点を当ててグルーブ企業名は羅列で済ませることはあるが、企業と社員の映像を登場させる例はあまり記憶になく、同社の経営理念がうかがえて感動的である。リクルーティングや対外的な企業広告としては当然だが、インナーに対しても極めて効果的な作品となっている。

一点気になったのは音楽で、若者に好評であれば私の感覚のずれなのだが、せっかくのナレーションと文字に鋭い歌声がかぶさるため、注意が分散してしまう気がした。試みに60秒CM のボリュームを絞って聞き、読むとメッセージが格段に感動的に伝わった。

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大島幸男

おおしま・ゆきお/大島BtoBコミュニケーションズ代表。1948年生まれ。1989年より2011年まで、村田製作所の本格的な企業広報・広告活動を総務部長、広報部長としてリード。定年退職後、2011年から2017年まで、ローム メディア企画部顧問。現在、日本広報学会理事、国際CCO交流研究所理事・主任研究員。

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