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「ソーシャルリクルーティング」が一般的になったことで人事・採用関連のSNS炎上が毎年起きている。こう指摘するのは、デジタル上で発生した危機を専門に研究する、シエンプレ/デジタル・クライシス総合研究所の前薗利大氏だ。
ソーシャルリクルーティングとは、SNSを活用した採用手法を指す。企業と求職者との距離感を縮める手段として、人事担当者がSNS上でアカウントを開設し、社名、肩書、名前、顔写真を公開するスタイルが浸透してきた。だが、投稿の主語が「企業」から「従業員個人」へと移行することでトラブルも起きやすくなっている。
特に炎上が起きやすいのは、人事担当者の「個人」の見解と企業の見解を混同した発言だ、と前薗氏。
例えば、最終選考に落ちた学生から「リベンジさせてほしい」と申し出があり、内定を出したエピソードを、ある人事担当者がXで投稿し炎上したという。投稿には「本当によく頑張った。勇気を沢山振り絞ったんだろうなと。諦めないでいてくれてありがとう」と内定者に対する自身の思いがつづられていた。
「熱意を持った学生が挑戦したエピソードとして好意的にとることもできそうな内容ですが、Xはオープンな場。採用試験に落ちた経験のある人たちなども見ています。実際、どのような反応があったかというと、『採用してあげているという上から目線』『自己陶酔』『リベンジする機会は全員にあったのか』といった批判が殺到しました。人事担当者の思いは、選考プロセスにおけるクローズドな場や懇親会などで、徐々に出していけば許容されたかもしれません。一方で不特定多数の人が利用しているXというプラットフォーム上では、同じ価値観の人が投稿を見ているわけではない、という認識を持つ必要があります」。
社名を出す以上、個人アカウントであっても、炎上事例を念頭においたルールづくりをしておくことが防衛策になると前薗氏。個人の見解に寄りすぎて、人事担当者が上から目線になっていないかなど、発言内容に注意が必要であることに加え、以下も押さえておきたいポイントだ。
まず、社内を撮影した時の映り込み。社内資料等が映り込んで情報漏えいが起きていないかを確認する。また「ジェンダーバイアス」にも注意したい。「たまたま女性がお茶を出している時に撮影された写真でも、『お茶くみは女性の仕事だと考えている企業ではないか』と疑念の声が生まれることがあります。社内について知らない人が投稿を見ているという視点を持つことが重要です」(前薗氏)。
アカウントの誤用(誤爆)も起こりがちだ。発信は専用のPCからだけにするなど、事前の備えがあれば避けられる。加えて「社員を守る」体制づくりの重要性についても前薗氏は指摘する。「個人名や顔を公開してSNS上で活動することによって、担当者が特定され、プライベートで不利益を被らないよう配慮が必要です。万一トラブルが起きた場合は、法務部門と連携して対応を取るようにしてください」。
ここまで、個人アカウントにまつわる炎上について見てきたが、もう一つ、人事系の炎上の潮流がある。それが内部告発だ。従業員が、SNS経由でパワハラや過剰ノルマなど不適切な職場環境について告発する事例が増えている。
「採用広報でSNS上の発信を強化し、企業のポジティブな面を打ち出していくほど、実態との矛盾が生じた時、ネガティブな情報が告発されるリスクも出てきます」と前薗氏。では、広報としてどのように対策をしていけばいいのか。
「ゼロ秒で炎上することはありません。内部告発が起きた場合、速やかに検知できているか。マスメディアやインフルエンサーによって話題化される前に、関係者への調査や処分が決まっているか。ここが重要です。告発に対して未対応の状態が続くと、この機に乗じた告発が次々と出てくる可能性もあります」と前薗氏。
また、SNS上での告発が起こる背景として「社内で訴えても、もみ消されてしまうのでは」という心情が働いていることを理解しておきたい。日頃から、社内で不適切な行為が発生した場合、企業として対処していく姿勢を従業員にアピールすることも重要だ。
「社内に内部通報窓口設置していても、機能していないことがあります。内部通報窓口とはどのようなものなのか、通報によって問題が解決された事例があることなどを、社内で啓発していくことも有効です。採用広報においてSNSを活用するメリットは多々あります。一方でリスクがあることを忘れず『自分たちは大丈夫』と思わずに対策を取ってください」(前薗氏)。
※本稿は広報会議2024年10月号より転載しています。
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