法学部出身ながら飛び込んだIT業界 売上0から7年で1兆円規模の製品に―Microsoft、LinkedIn Japanにてマーケティングや営業戦略を推進してきた石坂氏に聞く

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石坂誠 氏

LinkedIn Japan
パートナービジネス統括&ストラテジスト

早稲田大学法学部卒業。学生時代の起業、NECにて法人営業を経験後、自費で米国ビジネススクールMBAに留学。日本マイクロソフト、米国マイクロソフト本社にてプロダクトマーケティング、営業戦略、新規ビジネス立ち上げを経験し、クラウドサービスでゼロから数千億円まで売上を達成。現在はLinkedIn Japanにて戦略プロジェクトを担当。

■石坂さんのキャリアの軌跡

○大学生時代に、起業を2度経験。
○大学卒業後はNECに入社。営業活動を通してITのベースとなる知識を学ぶ。
○米国MBA留学を経て、Microsoftへ入社。プロダクトマーケティングマネージャを経験。
○多くの企業が国内外において協業、個人が世界中と繋がる支援をすることで日本を盛り上げていきたいという想いからLinkedIn Japanへ参画。

第4回 ゲスト 石坂誠さん

学生時代に二度の起業を経験し、NECに入社後は営業職に従事。2年半で退職すると、MBA取得のために家族とともに渡米。帰国後はMicrosoft Japanにて、プロダクトマーケティングマネージャとプラットフォーム戦略を務める。その後、再び渡米しMicrosoft本社にてオープンソースソフトウェア関連ビジネスの新規立ち上げと世界展開戦略と実行に携わる。帰国後、Microsoft JapanにてIoT、DX、宇宙、生成AIアプリ、GitHubとクラウドのマーケティングへの従事等を経て、現在LinkedIn Japanにてパートナービジネス統括を務める。

写真 人物 石坂誠 氏

産業界全体のDX推進が叫ばれる中で、ビジネスのあらゆる局面で、デジタルテクノロジーを理解した「TECH人材」が必要とされています。コミュニケーションやマーケティングの仕事においても、いまやテクノロジー知識は不可欠。しかし、苦手意識を持つ人も多いのではないでしょうか。
エンジニアやデータサイエンティストほどの専門職は目指さなくても、テクノロジー知識を自身の仕事に活かせる人になるためには、どんな勉強やキャリアづくりが必要なのでしょうか。
この企画は、ビジネスの最前線で活躍する「TECH人材」に、これまでの学びや自身のキャリアに対する考え方、実践について話を聞きます。今回はLinkedIn Japanの石坂誠氏に話を聞きます。

 

※本記事のインタビュアーは、DX人材育成のオンラインスクールを運営する、Tech0の前田諒氏と斎藤貴大氏が務めます。

大学時代に二度の起業を経験するも、ビジネスを学ぶために米国MBA取得へ

前田:まずは石坂さんの経歴を教えてください。学生時代に二度も起業されているそうですね。

石坂:一度目は20~21歳の時に、父とトナーカートリッジのリサイクル会社を起業しました。当時、アメリカではすでにリサイクルが流行っていたので、日本でも展開したいなと思って始めました。

まずは製造、その後は営業・マーケティングを担当し、チラシを配るなどもしていましたよ。従業員は60名に、年商も3~5億円まで成長し、数年前に父が高齢になったため売却しました。初めて経験することばかりで、色々と学べて楽しかったです。

二度目は義理の兄と家庭教師の派遣会社を興しました。義理の兄が家庭教師として独立する際に、自分も家庭教師のアルバイト経験があったので、もっと講師にもお客さんにも良いビジネスモデルがあるんじゃないかと話し合って、一緒にすることになったんです。

前田:大学卒業後はNECに就職されたそうですね。

石坂:就職活動ではコンサル系を受けていたのですが、NECは戦略コンサルの上流も下流もやると聞き、両方学べるのはいいなと思い、入社を決めました。英語力がなく、外資系はほとんど落ちました(笑)配属されたのは営業部門でして、ITの商社みたいな企業ですから、PCやネット環境、コンサルまで商材は様々です。日本企業のいいところって、ちゃんと研修があることですよね。私は理系でもなく法学部卒なので、入社後にIT商品の知識を得ました。

斎藤:その後、MBA留学をされるわけですが、会社の留学制度を利用されたのですか?

石坂:そのつもりだったのですが、申請してみたところ副社長まで進み、『10年待て。会社でまずは結果を出してからだ』と言われまして。でも、10年も待てないですよね。高校時代の友人たちがそろそろMBAに通い出していた頃で、20代のうちに行かないと勉強についていけなくなるのではないかと感じていました。ですからNECを退職し、義理の父の会社がアメリカのユタ州に支社を持っていたため、そこへ入社して経営企画に携わりつつ、アメリカで語学学校に数か月通いました。

斎藤:数多くあるMBAの中から、BYU Marriottを選ばれた理由は何ですか?

石坂:実はこの時、学費を1円も払ってないんですよ。スカラーシップ(奨学金制度)を受けられたのは大きいですね。それに、ファイナンスに強いこと、国際性豊かで第二外国語が話せる人が8割ぐらいと多いこと、あとは組織行動学、リーダーシップについて学びたいと思っていましたので『7つの習慣』の著書であるフランクリン・コヴィー氏が教鞭をとっていたことですね。

斎藤:凄い!私の勤務先のライオンは習慣づくりを謳っている会社なので、『7つの習慣』は社内でも教材としてよく活用しています。通われてから、MBA時代の苦労話はありますか?

石坂:MBAが始まった週に娘が産まれまして、バタバタでしたね(笑)。それに、TOEICで高得点を取れるようになっても英語での授業が理解できるかと言われると、違いますよね。「読めるわけないだろ!」って量の課題も出ますし。

今、振り返ってみても人生で一番大変な時でした。でも、そこを乗り越えられたから、怖いものなしですよ。タフさが磨かれましたね。

写真 人物 石坂誠 氏、前田諒氏、斎藤貴大氏

MBA通学後すぐに就活を開始、Microsoft Japanのプロダクトマーケティングマネージャに内定

前田:MBA在学中の就職活動について教えてください。

石坂:通学しだして数か月頃からもう始まるんですよ。まずは11月に開催されるボストンキャリアフォーラムへの準備からですね。キャリアセンターへ行き、そこで初めてLinkedInの存在を知りました。セッションを受けるためにはLinkedInのアカウントを作らなければいけないのです。

NECに勤務していた時代にWindows ServerやDatabase, ERPパッケージを販売していたことをLinkedInに入力していたんですけど、これがMicrosoft Japanの担当者の目に留まりまして。サーバーチームのマーケティングに、現場経験のある人材がおらず欲しかったようです。私は人が好きなので人事部希望で受けていたのですけどね(笑)。

キャリアフォーラムでいきなり事業部のトップの方が面接官として現れて、「君をうちに欲しいんだよね」と言われました。「事業部に行っても人事的な仕事ができる」と諭されたこともあり、入社を決意しました。

斎藤:どういったポジションだったのですか?

石坂:マーケティングの職種採用でして、サーバーチームのプロダクトマーケティングマネージャです。

斎藤:いきなりプロダクトマーケティングマネージャですか!大抜擢ですね。入社後のチームの規模感は?

石坂:サーバー製品のマーケは10数人でした。日本人が多いけど、マーケ部門は本社と直接やり取りをするから、英語が話せないと務まらない仕事でした。

オープンソースの特別チームへ抜擢! Microsoft本社から声がかかり再び渡米

前田:Microsoft Japanから本社勤務となった経緯をお聞かせください。

石坂:3カ月間、本社へ武者修行に行くという人事制度に応募し、プレゼンで勝ち取ることができて渡米したら、その3カ月の間に「本社にオープンソースの特別チームができるからやらないか」と声を掛けてもらえたんです。

当時はサティア・ナデラ(現Microsoft CEO)が開発のトップで、Windows Azure(アジュール)※1ができて、さらに彼の方針でオープンソースも扱うよう舵を切っていたところでした。私は日本で砂金信一郎さん※2とバディを組んでいて、彼がテクノロジーを、私はビジネスとマーケティングを担当し、オープンソースを利用している人たちにどうやってAzureを使ってもらうか、自由にトライアル・アンド・エラーを実行していました。すると、「日本に面白い奴らがいる」と本社に気付いてもらえていたようです。

前田:またまた大抜擢ですね。

石坂:私は文系ですし、オープンソースの知識があるわけではないのですが、「あなたにポテンシャルを感じるから」と言ってくださったんですよ。そこから、知識のないIT分野の世界に飛び込みました。最初はIT用語が分からず苦労しました。

斎藤:本社には何年いたのですか?

石坂:シアトルには9年いました。グローバル戦略、営業戦略、マーケティング戦略も全てそのチームで担当していました。VPへのダイレクトレポートで、売上0からスタートして、7年ほどで1兆円にまで成長できましたし、やりがいありましたね。それと、私の人生の中での最大のマーケティングイベントとなったGitHub※3買収も経験できました。

※1 アジュール:Azure。Microsoftが提供するクラウドサービス。
※2 砂金信一郎氏:現在はLINEヤフーにて、生成AI統括本部 新規事業準備室 室長を務めている。
※3 GitHub:ソフトウェア開発のプラットフォーム。

写真 人物 石坂誠 氏

LinkedIn Japanへの転職は日本の就職活動に危機感を持っていたから

前田:LinkedIn Japanへの転職のきっかけを教えてください。

石坂:娘が日本の高校に通ってみたいと言い出したことから、一度、Microsoft Japanに戻ってきたんですよ。そこでもマーケを担当していたんですけど、Microsoft Japan社員の皆さんにもっと貢献できることはないかなと思って、本社で活躍している日本人や外部の人をスピーカーにお招きして、セミナーを開催していました。

それでゲストスピーカーだったLinkedIn Japanの田中若菜さんとランチをしていた時、「海外でLinkedInは使われてるけど、日本でどうマーケティングしていくつもりですか?」って質問したんですよ。そしたら情熱溢れるビジョンを共有いただき、「じゃあうちに来てください!」ってリクルーティングされました(笑)。

現在は特に人事部向けのサービスに注力していて、多くの企業と協業していくことで日本を盛り上げていきたいです。そして、入社以前から感じていたんですけど、日本に現存する大手の就活サイトだと、就活が終わった後にデータベースとして何も残んないんですよね。

日本はキャリアやスキルデータがどこにも残ってない状態で、これはまずいなと。シンガポールやその他の海外の国では16歳からキャリア教育が始まり、自分でLinkedInを活用してロールモデル探して、キャリアビジョンを作り、そのビジョンを達成するためにどこで学ぶべきかを考えて高等教育を選んでいる人も多いです。日本のように偏差値で大学を選んで、何を将来やりたいかは考えず、3年生になって期末試験と同じ感覚で就職先をランキングで探す。これでは圧倒的に海外と差がでてしまいますよね。日本の今のキャリアの考え方、選び方、学び方はあまりにも時代のニーズとあっていない、時代遅れのものだと感じています。

前田:同感です。偏差値で大学を選んで、就職先はネームバリューで選んだ人たちが、就職後1年経つと「思っていたのと違う」って辞めていくんですよね。

石坂:ランキングばかりを意識して、上位に属することが目標になってしまっています。このままの日本に危機感を感じていますね。LinkedInを広めることで変革をもたらしたいです。

テクノロジー知識のある役員がいない企業は、DXを100%失敗する!?

前田:最後に、様々な企業を経験されてきた石坂さんに伺いたいのですが、エンジニアではない人でもテクノロジーの知識を持つべきだと思いますか?

石坂:結論から言うと、テックサビー※4しかチームリーダーになってはだめだと思います。「マッキンゼー REWIRED」という本をご存知でしょうか?

どんな本かというと、何百社ものクライアントのDXに携わってきたマッキンゼーのデジタルチームが、数年にもわたりDXに取り組んだ企業のファイナンシャルレポートの分析結果を纏めたものです。DXを実行して失敗した企業や成功した企業の、なぜそうなったのか要因が書かれています。

実は、LinkedIn経由でこの著者と対談する機会がありまして、「DXで失敗している企業とそうでない企業の大きな違いを上げるとしたら何ですか?」と質問したところ、『リーダーがテックサビーかどうかだけ』と言われました。

テックサビーの定義としては、自分自身がプログラミングやオペレーションまでできる必要はないです。でも、テクノロジーへの興味とある程度の理解は必要です。それが何を意味していて、どんなことができるようになるのか、またグローバルのトレンドはどうか、使っている企業がどうなっているのかを自分で見に行き、学ぶ。例えばAIのプロダクトは試してみる、という人ですね。こういう人が役員にゼロの企業は、DXを100%失敗しているという相関関係が出てるんですよ。

もうひとつ重要な要因として挙げられるのは、内製してない企業も成功ゼロだそうです。内製ということは、ビジネスリーダーはエンジニアの人たちを理解できていなかったら、彼らのモチベーションアップの仕方も分からないし対応ができない。つまりリーダーとして失格ですよね。「この人のもとで働きたい」とエンジニアに思ってもらわなくてはいけません。私も彼らに寄り添うことから始めました。

リーダーを目指し、DXを推進したいと思うのであれば、テクノロジーの知識を持つことは必須ですから、皆さんも頑張ってください。そして一緒に日本を盛り上げましょう!

※4 テックサビー:tech-savvy。テクノロジーに精通した人のこと。

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写真 人物 石坂誠 氏、前田諒氏、斎藤貴大氏

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前田諒

Tech0 兼
大手日系企業所属

1994年松戸市生まれ。東京都立産業技術高等専門学校卒。2014年大手日系企業に入社。業務用映像制作機器の修理およびメンテナンス業務や人材育成の傍ら数多くの新規事業創出プロジェクトを兼務。2021年1月より、新規事業主担当として企画部門に異動し2024年にプロダクトをローンチ。現在はグロースをさせるため商品企画として新規チャネル開拓等を奮闘中。2024年1月より株式会社Tech0の運営に参画し、現在は株式会社Tech0のオウンドメディア「note」の編集長兼イベントチーム運営リーダーを担う。

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斎藤貴大

Tech0 兼
ライオン所属

1996年北茨城市生まれ。宇都宮大学大学院卒。アメリカ短期留学・タイ機械メーカーでの国際インターンシップを経て、2020年ライオン株式会社に入社。新卒でイノベーションラボの新規事業担当に着任。2022年10月に「高齢者向けの運動習慣作り“TANO-LT”」を新規事業として立ち上げ、Technology/UX の責任者となる。2023年5月、会社立ち上げ期から関わっていた株式会社Tech0に運営として参画。現在はデジタルマーケティング責任者兼エンジニア講師。


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