Photo: GU提供
「YOUR FREEDOM 自分を新しくする自由を。」というブランドメッセージを掲げるジーユー(GU)は、2024年9月19日、海外初の旗艦店「ジーユー ソーホー ニューヨーク店」を正式にオープンした。これは、GUが本格的にグローバル市場へ進出する重要なステップであり、ここで新たに日本企業のプレゼンスを世界に発信する絶好の機会となっている。
GUがニューヨークに出店することで、ファッションの中心地にブランドを位置付け、国際的な認知度を一気に高める戦略は非常に効果的だ。この地域は、多様なカルチャーや最新のトレンドが集まる場所であり、ファッション業界における影響力が強い。ここに旗艦店を構えることで、単に商品の販売だけでなく、ブランドの価値観やメッセージを広く発信し、新たにファッションの消費者層を取り込むことが期待される。
店舗は地上1階、地下1階の2フロアで、売場面積は約945㎡。ウィメンズ・メンズのウェアやシューズ、バッグなど、トレンド商品を幅広く取り揃えている。
GUは2023年9月、ニューヨークに商品本部を設立し、グローバルな基準での商品開発を推進してきた。そして2024年9月には、マーケティングとインストアMDの機能を加え、GU USグローバル本部として改組され、単なる商品開発にとどまらず、グローバル市場で魅力的な売り場づくりやマーケティングを強化している。
GUの戦略的なグローバル展開
GUのグローバル展開には、いくつかの戦略的なポイントがある。
1. ローカル市場のニーズも理解した商品展開:GUは、日本の商品をそのまま海外に持ち込むのではなく、ニューヨーク市場を理解した上でサイズや丈感などの点でアジャストした商品展開をしている点が強みだ。あるアイテムには、ニューヨーク限定色のものもあり、ファッションの多様性を尊重し、現地の文化に合った商品を提供することで、ニューヨークの消費者に対しても強いアピールができる。
2. 競争力のある価格設定・ポジショニング:ニューヨークの旗艦店では、GUの特徴である「手頃な価格でトレンドを楽しめる」という強みがある。これは、ファストファッション市場でH&MやZARAといった大手と差別化するための戦略として非常に重要であり、多くの消費者が持つ「安い=物がよくない→最初から‟トレンドは使い捨て“」という意識から脱却し、安くてもそれなりにきちんとしていることが体感できるブランドとしての地位を確立しやすい。「作りにおける清潔感がある」「売り場の商品管理・売り場づくり、それらの整理がきちんとされている」というのが他のファストファッションブランドとの違いなのではないだろうか。
3. 日本的な丁寧な接客:GUは、米国市場においても「リーズナブルな価格帯の商品」を取り扱う店舗であるにもかかわらず、日本的な細やかで丁寧な接客を重視している点が特徴だ。米国では価格帯が低い店舗では効率重視が一般的で、丁寧で感じの良い接客にお目にかかることはほぼないが、GUはその常識を覆し、質の高いサービスを提供している。これは、ただ「物」を売るだけではなく、心地よい体験を通してブランドへの信頼と好感度を高める戦略の一環であり、長期的に顧客のロイヤルティを構築する重要な要素となっている。
4. 多様性を尊重した商品展開:GUは、男女それぞれの商品展開をしているが、その区切りは自然に緩い。カジュアルの中でも、比較的ストリート・ファッションに寄ったものも多いため、ジェンダーレスに取り入れられるアイテムが多い。また、元々のアイテムの男性物・女性物というカテゴリを飛び越えて、多様なスタイルを楽しめる提案をすることで、現代的な価値観を反映したブランドとしての地位を築くチャレンジをしているように見える。これは、GUがNYでポップアップストアとしてオープンした当初から感じていたことだ。ニューヨークという多文化社会において、こうした多様性への対応はグローバル市場におけるブランドの信頼を築くのに不可欠な要素となっている。
ユニクロというシスターブランドが「ベーシック」を目指すのに対して、GUは「トレンドだけど尖りすぎず、多くの人が取り入れやすい塩梅の商品」を開発し、手頃な価格で提供している。高級素材は使用しないが、GUは、「ファッションをどう楽しむか」という重要な入り口とハードルの高くない最初の経験を提供しているのだ。
トレンドを楽しむ、練習の場としてのGU
GUの製品は、NYで販売されている多くのリーズナブルなカジュアルアイテムを基準に考えると、その作りは価格に比例せずきちんとしている。一般的なアメリカの製品と比べると、購入者が何度洗濯しても型崩れしにくい素材と作りである。また、ファッションについて経験をして学び、自分に合ったスタイルを見つけるための「練習の場」として、GUの商品は非常に価値がある。第一に、失敗しても大きな負担とならない価格で、自由に試すことができる点は、ファッション初心者にも熟練者の遊びにも大きな魅力となる。
ニューヨーク店では、売場面積945㎡の中に100体ものマネキンが設置されており、幅広いスタイリングを視覚的に楽しみ、参考になるアイディアを得ることができる。この試みによって、GUが提供する「トレンドを取り入れやすくする」というコンセプトを実際に体感できるのだ。
また、店内は細長く奥へと続いた形状をしており、売り場の商品配置には、この奥にも何かありそうだと思わせる工夫がされている。今見ている商品の隣や、視界に入る部分に、それと親和性がありそうな別アイテムが置かれていて、見ている人を次の場所へ導く動線が仕込まれている。
また、日本のGUではパッケージに入って販売されている商品も、ニューヨークの店舗では全部パッケージから出し、ハンガーにかけて配置されている。その理由は、まずは消費者にGU商品におけるマイサイズを知ってもらうためだそうだ。試着はもちろんだが、まずは目で見ておおよそのサイズが確認できることは、試着へのステップも近くなる。当然購入にも繋がりやすくなるわけだ。
「日本のブランド=サイズが小さめ・細め・厚みがない」という先入観で、避けられてしまいがちなところを、とにかく実物を見せて、手に取らせて、体験に繋げる試みは、オーガニック(自然)であり強力だ。
一時期日本では購入できなくなったほどのバレルパンツ、今シーズン推しのスコートも、トレンドの風味を残しつつ、トレンドセッターではない通常の人でも挑戦しやすく仕上がっている。ここにあるのは、みんなが安心の価格と気を使いすぎない製品の作りで、気軽にトレンドを試せるという、機会と経験の提供だと言える。
例えば、バレルパンツ。いわゆるハイブランドが出しているトレンドのバレルの場合、本当に樽の形状が顕著で、どれだけ上手に着こなしても独特なスタイルになるのは否めない。一部の人だけの物という感じがして、多くの人は挑戦さえもしないだろう。しかし、GUのバレルは、その樽感を和らげることに成功。その独特なカーブをなだらかにすることにより、過去何年かでワイドパンツがワードローブの定番になってきた人たちには特に、少し違ったものを取り入れる次の段階へのちょうど良い刺激になっていると考えられる。
バレルパンツの着こなし幅を視覚で納得させる、コーディネートとして、とてもカジュアルなものから、少しエレガントさを感じるものまでマネキンを使ったコーディネートで見せているのも、先入観で拒否しがちな消費者への、上手なコミュニケーションになっている。
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